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  • 2016/10/07 掲載

本当は「使えない」アドラー心理学『嫌われる勇気』がベストセラーになった理由

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全世界で365万部、国内で181万部を超えるベストセラーとなった『嫌われる勇気』と『幸せになる勇気』。台湾や韓国で発売され、さらに中国・ベトナム・タイ・ブラジル・スペイン・ポルトガル・ギリシャ・ポーランドの計10ヵ国での翻訳も予定されている。では、『嫌われる勇気』はどのように出版に至ったのか。著者 岸見一郎氏と共著者のバトンズ代表 古賀史健氏が、ベストセラー誕生の背景や、著書に込められた思いなどについて対談を行った。司会進行は、版元であるダイヤモンド社の松井未來氏が務めた。

フリーライター 井上 猛雄

フリーライター 井上 猛雄

1962年東京生まれ。東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにロボット、ネットワーク、エンタープライズ分野を中心として、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書に『キカイはどこまで人の代わりができるか?』など。

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ベストセラーを出した岸見・古賀氏による対談の模様


『嫌われる勇気』が出版されるまで

 まず司会進行の松井氏は、両者にアルフレッド・アドラーとの出会いについて訊ねた。

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哲学者 岸見一郎氏
 岸見氏が、アドラーと出会ったのは、子どもがきっかけだった。子どもがなかなかいうことを聞いてくれず悩んでいたとき、たまたま教えてもらったのがアドラーの本だった。「初めてアドラーを読んで、本当に目から鱗の100倍ぐらい衝撃を受けました。私自身は哲学の研究者でしたが、それ以来、アドラー心理学を多くの人に知ってもらいたいと思い、原本の翻訳などを通じてアドラーを紹介してきました」という。

 一方、バトンズの古賀氏は、その岸見氏が翻訳した「アドラー心理学入門」を読んで、頭を打つような大きな衝撃を受けたひとりだった。当時まだ20代のライターだった同氏は、次のように回想する。「ひねくれた自分の考えを一変させてくれる本でした。もっと岸見先生にアドラーについて語ってもらいたいと願い、出版社に企画を持って行ったが、なかなか実現しなかったんです。その後、新聞社の仕事で岸見先生に取材をさせていただきました。それが岸見先生に初めてお会いしたキッカケになりました」。

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バトンズ 代表 古賀史健氏
 このようにアドラーとの邂逅から、両者が「嫌われる勇気」を出版するまでには長い年月を要していたのだ。嫌われる勇気は、いまでこそベストセラーになったが、2013年に発売された際の初版は8000部だったという。

 松井氏は「この部数は、出版社としては少し期待する程度のものでした。当時アドラーという名前は、心理学を学ぶ一部の人しか知りませんでした。しかし、それが大ベストセラーになったのは、この本が単にアドラーの本というよりも、岸見さん・古賀さん両者の思想が込められた本だからだと思います」とし、両者の思いについて詳しく訊ねた。

「売れる・売れない」の問題ではない翻訳作業

 岸見氏は「アドラー心理学入門を1999年に出版しましたが、入門書は日本で初めてでした。その後も、ほとんど一般に知られることはありませんでしたが、とにかく地道に原典の翻訳を続けてきました。そうすれば、いつか誰かが目をとめてくれるはず。とても大変な作業でしたが、やらないといけないという使命感がありました」と内に秘めた思いを明かす。

 実際にアドラーの原著を翻訳する作業は困難を極めた。もともとアドラーは、ドイツ語圏であるオーストリア出身だったが、のちに米国に渡った。慣れない英語で出版していたため、部分ごとに表現が変わったり、まったく異なる言葉で説明されることもあった。

「アドラー心理学について、十分な知見がないと翻訳できない内容でした。数十年にわたり残っていく遺産のような翻訳を、岸見先生がこつこつと成し遂げてくださったわけです。この地道な活動について、もっと評価してもらいたいと思いますね」(古賀氏)

 これを受けて岸見氏は「売れない本なのに、よく頑張れましたねと言われましたが、当時はまったく違う次元で仕事をしていたんですよ。私にとってアドラーはグル(導師)でもなく、友人のような感覚でした。機械的な翻訳ができない相手です。文章を読み解きながら対話をし、翻訳していった覚えがあります」と応えた。

【次ページ】「使えない」アドラー心理学『嫌われる勇気』がベストセラーになった理由

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