「民族」「人種」は「仮装」にあたるのか

　米国の「政治的に適切な仮装」を巡る議論は、2011年、オハイオ州立大学で始まった。特定の民族や人種のステレオタイプを「コスチューム」「仮装」として扱うことに対し、同大学の学生相互教育団体「社会における人種差別を学生に教える会（Students Teaching About Racism in Society）」が問題を提起した。

　特定の民族や人種のステレオタイプを「コスチューム」「仮装」として扱う、とはどういうことか。たとえば、着物を着て「ゲイシャ」のコスチュームとしたり、肌を黒く塗って「黒人」と称したり、頭に羽飾りをつけてそれだけで「ネイティブ・アメリカン」とすることだ。



　2011年、同団体は活動の一環として、いくつものメッセージ性の強い写真を公開した。それらは、ゲイシャとおぼしき仮装をしている女性の写真を持っているアジア人女性の画像や、ロバに乗ったメキシコ人の絵を持ったヒスパニックの男性の写真や、アラビア半島の伝統的な被り物を被ってダイナマイトに似せたものを体に巻き付けた男性の写真を持つムスリム学生の写真などだった（上の画像は2013年のもの）。

「権力構造」と「仮装」

　では、特定の民族や人種の「仮装」にはどのような意味があるのか。

　2015年、米国の大手ファッションメディア「Refinery29」の記者アルデン・ウィッカー氏の取材に対し、イメージ・ライフコーチング企業Sociology of Style設立者で、ニューヨーク大学元教授であり、パーソン美術大学元教授の社会学者アンナ・アクバリ氏は、ハロウィンを独自の観点で分析する。

「ハロウィンでは（中略）日常生活は上下反対の裏返しになり、ヒエラルキーは分解し、聖なるものは冒涜的になります。なぜ多くの女性が公然と性的に装うのかと言うと、彼女たちはハロウィンでは許容される方法でそれ（※執筆者補足：『性的な側面』）の返還を要求しているのです」（アクバリ氏）

　同じ取材に対し、フォーダム大学教授スーザン・スカフィディ氏も自身の意見を述べた。

「祝日としてのハロウィンは、力の反転に焦点を当てる歴史を持っています。ハロウィンは日常の世界を頭から覆すことに意味があるのです」（スカフィディ氏）

　人々がセレブ、警察官、政治家、そしてその他の権力者の恰好をするとおもしろい、とみなされる。しかし、もし自分たちが現在圧迫している文化の『仮装』をするなら、それは何も覆しておらず、その文化の人々が苦しんでいる時にその人たちを蹴り飛ばしていることとなる。スカフィディ氏は、このような「仮装」を、「不快な方法で現状の権力構造を増強すること」と解説した。

　また、北米メディア「Women, Action and the Media」エグゼクティブディレクターのジャミア・ウィルソン氏は「われわれは、自分たちが扱われたいと思う方法で、ふさわしい尊厳とともに人々を扱うべきです。もし自分が特権的に安全に着られるものがあり、それを他の人が着るとその人たちが迫害される場合、あなたはそれを着てはいけないのです」とウィッカー氏に対して言っている。

　ここで考えたいのは、特定の民族や人種が持つ「身体的特徴」と、服装や生活習慣といった「文化」を「おもしろおかしいもの」とみなしていいのか、ということだ。あるいは、自分がしようとする「仮装」は、そのような思考に根ざしていないか、ということである。

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