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  • 2017/10/24 掲載

病院はなぜクレカ決済できない? CADA決済は医療費支払いの革命児となるか

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クレジットカード、デビットカード、電子マネー、仮想通貨──「現金大国」日本でも少しずつキャッシュレス化が進んでいる。しかし、病院やクリニックで支払う医療費(自己負担分)は依然として現金払いが主流。近年は総務省の働きかけで、大規模病院でクレジットカード払いが相当普及したが、中小の病院やクリニック(診療所)の動きは鈍い。そのような状況下、患者にも医療機関にもメリットがある“後払いサービス”の「CADA(カーダ)決済」が注目を集めている。CADA決済は、医療費支払いに革命を起こすのだろうか。

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。

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急な病気にかかっても病院に行くには現金が必要だ
(© buri327 – Fotolia)


平均年収の4.64%は医療費に消えている

 9月15日、厚生労働省は「平成28年度 医療費の動向」を発表した。それによると、2016年度の概算医療費は41.3兆円で、前年度から0.2兆円、0.4%減少した。伸び続けていた医療費は、14年ぶりにマイナスに転じたのである。

 また、国民1人あたりの医療費は32.5万円だった。前年度比で0.2万円、0.4%減っている。75歳以上の「後期高齢者」の医療費は1人あたり93.0万円と全平均の3倍近いが、75歳未満の1人あたり医療費は21.8万円で、前年度比で0.1万円、0.7%減っている。

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1人あたり医療費の推移(単位:万円)

 健康保険には、健康保険組合や協会けんぽ(旧・政府管掌健康保険)のような被用者保険と、それ以外の人が加入対象の国民健康保険がある。現役労働世代の大多数と、その家族が加入する被用者保険の1人あたり医療費は16.3万円だった。

 健康保険は被用者保険も国民健康保険も「3割自己負担」が原則なので、75歳以下の自己負担分は全体で年間6.54万円。被用者保険に限定すると4.89万円だった。たとえば、4人家族のサラリーマンが医療機関や調剤薬局に支払った年間の「医療費の自己負担分」は、平均で19.56万円だった計算になる。

 国税庁が9月28日に発表した平成28年度(2016年度)分の「民間給与実態統計調査」によると、賞与も含めた年間平均給与額は421.6万円だった。4人家族のサラリーマン世帯の医療費自己負担は平均19.56万円で、平均年収の4.64%に相当する。年収421.6万円は税金や社会保険料が引かれる前の額面なので、月平均で1万6300円の出費は平均的なサラリーマン世帯にとって、けっして小さいとは言えない。おそらく厚生労働省の統計数字で示されたような「医療費が減少に転じた」実感はないだろう。

“かかりつけ医院”は現金払いが基本?

 「平成28年度 医療費の動向」によると、概算医療費に占める診療種類ごとの比率は医科が74.4%で4分の3を占め、歯科は7.0%、調剤は18.2%、訪問看護・療養は0.5%だった。医科の入院は40.1%、入院外は34.3%となっていた。

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2016年度 診療種類別の概算医療費の比率(単位:%)

 このうち医科入院外の大部分と歯科は「かかりつけのクリニック(診療所)や歯科医院」といえるが、その窓口での支払い方法は「現金払いのみ」が絶対的に優勢である。

 かかりつけのクリニックで診療を受けて投薬してもらったところ、3割の自己負担分が予想外に高額で手持ちのお金が足りなくなり、窓口の人に何度も頭を下げてコンビニのATMに走った経験はないだろうか? 初診時はどんな病気/病状と診断されるのか、そこでどんな処置がなされるのか、自己負担分はいくらかかるのかは事前にはわからない。急患であれば、なおさらだ。

 そんなとき、「クレジットカードが使えたらいいのに」と思った人は、少なくないだろう。クレジットカード可なら、医療機関を初めて受診するときに「お金が足りるだろうか?」と、サイフの中身を心配する必要はない。からだの心配だけすればよい。

 この「医療機関でもクレジットカードが使えるようにしてほしい」という要望は、公的病院利用者の苦情という形で総務省の行政相談に複数持ち込まれたようだ。総務省の諮問機関「行政苦情救済推進会議」でも議論されている。その結論(意見)を受けて2012年2月10日、総務省行政評価局は、次のような趣旨の「あっせん」を出している。

「カードによる医療費の支払方式を導入していない病院の開設者等は、患者サービスの一層の向上、医療費の収納事務の効率的・効果的実施の推進等を図る観点から、その導入に向けた検討を行う必要がある」

 さて、それから5年半以上が経過した。現在、医療機関でのクレジットカード払いは、どこまで浸透したのだろうか?全国のクレジットカードが使える病院・クリニックをウェブサイトで紹介している「病院なび」によると、10月18日現在で1258ヵ所となっている。

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全国のクレジットカードが使える病院・クリニック(総数:1258)

 厚生労働省の「医療施設動態調査」によると、2017年7月末現在の全国の医療施設の数は17万9220ヵ所となっている。単純に割り算すると、クレジットカードが使える(とアピールしている)医療機関は、全体のわずか0.7%にすぎない。

クレジットカード決済は大病院から

 とはいえ、国立病院・療養所、国立大学病院や公立、私立の大学病院はクレジットカードで支払えるようになった。社会保険病院、厚生年金病院、労災病院のような公的病院も、総務省のあっせんが出されてからほぼ100%、カード払いができるようになっている。赤十字病院や済生会病院、徳洲会病院のような全国ネットの大病院も、ほとんどがカード対応可能である。中にはATMのような外観をした自動精算機を設置して、現金払いでもカード払いでも、領収証の発行まで全自動でできる病院もある。

 大きな病院がカード払い対応になると、それに合わせて病院周辺にある「門前薬局」と呼ばれる調剤薬局もカード払いに対応するようになった。また、調剤薬局の併設を進めている大手のドラッグストアは以前からクレジットカード払いに対応しているので、調剤のカード払いは医科よりも進んでいる。薬であれば、最寄りの薬局が未対応なら、処方せんを持ってカードで支払える別の薬局に行けばよい。

 東京都立病院は「東京発医療改革」のもと、2006年9月に全病院がクレジットカード決済への対応を完了した。しかし東京以外の道府県立病院は未対応のところが多く、市町村立病院、市民病院はクレジットカードを使えないところが大半だ。

 大病院やその門前薬局でカード払いが進んだ背景には、手術、特殊な検査、人工透析、抗がん剤の処方など、自己負担分であっても比較的高額な支払いが目立つという事情もある。民間の医療保険やがん保険に加入していても、原則的には保険金がおりるまでは患者が立て替える。その一時的な負担が大きいため、カード払いの要望も多かった。

 一方、中小の民間病院やクリニックは現状「クレジットカードはまず使えない」と思ったほうがよい。それでもクレジットカード利用可のクリニックが比較的多いのが産婦人科、美容外科や歯科医院だが、カードが使えるのは保険診療外の出産費用やインプラントのような自由診療、自費診療の部分に限っているところが多い。内科、外科、小児科などのかかりつけのクリニックは、そのほとんどは現金払いのみで、カード払いができるところはまだまだ珍しい存在だ。

【次ページ】意外と多い医療費の非現金決済化

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