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  • 2018/04/26 掲載

「漫画村」問題を考える 「ブロッキングが唯一、有効な手段」は本当か

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「漫画村」騒動で話題となった海賊版サイトのブロッキング問題。法曹界、出版、ISP業界それぞれの立場で賛否が入り乱れる中、NTTが政府より名指しされた3サイト「漫画村」「Anitube」「Miomio」についてブロッキングを実施すると表明し、カドカワ 代表取締役社長の川上量生氏が「海外の違法サイトに対してブロッキングが唯一、有効な対抗手段」と明確に打ち出すなど、さらに混乱が深まっている。とはいえ、一般の人にはブロッキングのなにが問題なのか見えにくい状況がある。ここでは、主に技術的な側面からブロッキング問題の背景、構図、効果的な対策などを考えてみたい。

執筆:フリーランスライター 中尾真二

執筆:フリーランスライター 中尾真二

フリーランスライター、エディター。アスキーの書籍編集から、オライリー・ジャパンを経て、翻訳や執筆、取材などを紙、Webを問わずこなす。IT系が多いが、たまに自動車関連の媒体で執筆することもある。インターネット(とは言わなかったが)はUUCPのころから使っている。

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いわゆる「海賊版サイト」に対してブロッキングは効果的なのか
(出典:いらすとや)


漫画村問題で割れる業界や識者の意見

 前提として、違法コンテンツ(児童ポルノ・違法コピーなど)のアップロード、海賊版リーチサイトの運営は違法である。児童ポルノについては単独所持を禁止する法律もあり、海賊版CDや音源はダウンロードも違法とされる。関連して、これらのサイトに広告を出したりアフィリエイト先に利用したりユーザーを送客したり、ビジネス他での関与、取引は道義的に問題がある行為だ。この点に異論をはさむ人はいないだろう。

 マンガなどコンテンツの違法コピーを無料で配信している海賊版サイトとして、政府から名指しされたのは「漫画村」「Anitube」「Miomio」の3つ。この違法サイトのブロッキングの是非について、当事者や専門家の主張は大きく異なっている。

 ブロッキングやむなしの賛成派は、出版社やマンガ家、海賊版対策機関(CODA:コンテンツ海外流通促進機構)などだ。通信の秘密とプライバシー保護、司法手続きを経ない緊急避難の濫用を懸念する反対派は、弁護士、ジャーナリスト、一部マンガ家、通信事業者、セキュリティ専門家が多い。

 双方とも正当性や合理性がありそうで、どっちが正しいのか、どこに誤解や齟齬があるのかわかりにくい。そもそも問題となっている海賊版サイトはどのようなしくみになっているのかを整理しつつ、双方の主張のポイントを整理してみよう。

コンテンツ配信サービスはネット進化の必然

 海賊版の問題は今に始まったことではない。漫画村のようなサイトが問題になったのはネット上のサービス技術とビジネスモデルの多様化・複雑化が背景にある。以前は、海賊版サイトを立ち上げようとしたら、自前でサーバリソースからコンテンツ(違法コピーだが)を用意する必要があり、マネタイズもアフィリエイトくらいしか方法がなく、マスビジネスとすることは難しかった。

 しかし、CDN事業者が増え、クラウドサービスも広がり、効果的にコンテンツを集めて配信するプラットフォームが作りやすくなってきた。加えて、マイクロアドやアドネットワークのようなしくみもサービス提供者のマネタイズをしやすくしている。これらは、ネットビジネス全般にいえる動向で、違法サイトやグレーなビジネスに限ったことではない。

 むしろ、クラウドによりサーバの実体が見えにくくなり、アドネットワークが「広告逆ロンダリング」ともいえる手法で、本来なら犯罪者や違法サイトが表示できない広告も表示できるようになり、アンダーグラウンドビジネスにとって都合のよい側面さえある。

漫画村など海賊版サイトのサービスモデル

 漫画村など海賊版サイトのサービスモデルを図1に示した。この図において、防弾ホストとは、いわばグレーなサービスを意識したホスティング事業者が提供するサービスだ。防弾ホスティング事業者は、関連法のゆるい国に拠点やデータセンターを構え、国内外当局(裁判所、警察、セキュリティ機関など)からの要求を無視することを売りにしている。

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図1■海賊版サイトのサービスモデル
(出典:著者作成)

 CDN(Contents Delivery Network)は、動画トラフィックなど大量のデータをさばくネットワークを提供する事業者で、今回問題とされたCloudflareはCDN事業者のひとつだ。国内企業でも利用しているところは多い。データセンターは国内にも持っており、グレーな企業というわけではないが、過去に違法コピーの論文サイトのネットワークを提供しており、裁判所命令でブロックされたことがある。

 実は、この図の違法コピーのコンテンツを正規コンテンツに、防弾ホストの部分を出版社やクリエイターの正規サーバにすれば、なんの問題もないコンテンツ配信システムである。サブスクリプションや広告モデルが機能すれば、十分にビジネスが成立してもおかしくないスキームを示していることにも注意してほしい。議論の中で「業界が正規コンテンツの電子配信やビジネスに背を向けてきた裏返しでもある」という批判があるのは、このためだ。

回避が容易なブロッキングは効果が期待できない

 サイトブロッキングは、図においては主にISPが運営しているDNSサーバの設定を変更し、特定URLへの名前解決を行わないようにする手法を指す。利用者からのアクセスを直接遮断できるので、違法サイトへのアクセス制限が期待できる。

 実際、児童ポルノについて議論されたときは、子どもという現実に被害者が存在し、国際的にも対策が遅れていた日本は、緊急避難措置として児童ポルノサイトへのブロッキングを例外的に法整備なしで導入した。長期の議論の末、ISPが通信の中身を選別することの違法性(通信の秘密、プライバシー保護)の阻却事由となりうる解釈を適用した。今回、出版社やCODAは被害総額が3000億円にも上り、将来的な創作・出版活動に大きな影響があるとして、同様な緊急避難措置を主張している。

 しかし、サイトブロッキングは抜け穴も多く、技術的には海賊版サイト対策にはほぼ機能しないと目されている。児童ポルノのように国際連携スキームも存在し、警察他の監視の目が行き届き、それでも漏れるサイトをブロックできる意味はあるかもしれないが、ブロッキング以外の対策が不十分な状態で特定サイトのみブラックリストで管理しても、別サイトを作られるか、プロキシなどでブロックされたDNSを回避されるだけだ。

 にもかかわらず、NTTは24日、CODAが指定する3サイトについて「準備が整いしだいブロッキングを実施する」と表明した。漫画村やAnitubeは、騒動を経て現在閉鎖された状態で、日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)など業界内でも反対意見が少なくない中、効果が限定的なブロッキングをあえて実施する理由が不明確だが、リリースでは「閉鎖が永続的なものかはっきりしないため」としている。

 示威的な効果しか期待できないブロッキングをあえて実施するのは、通信事業者としてのプレゼンスを誇示したいのかもしれない。しかし、日本は国際社会ではインターネットの自由を守る側として規制に反対している国の1つである(規制に積極的なのは中国、イラン、シリア、ウズベキスタンなど)。NTTは今後、ITU-T、IEEE、IETFの活動でも規制やむなしを主張していくのだろうか。

検索できないようにする対策「DMCA」とは

 インターネット上では、検索エンジンの表示を止めるという方法がある。いわゆる「グーグル八分」を意図的に起こさせる方法だ。グーグルなど検索エンジンは、違法コピーコンテンツを検索対象から外すためDMCAという手続きを用意している。DMCAは米国のデジタルミレニアム著作権法のことで、この法律を根拠に、権利者からの申し立てが認められれば当該URLを検索エンジンのDBから削除できる。

 これによって違法コンテンツへの検索エンジンからの流入が阻止できる。もうひとつの対策として有効だ。今回の問題では、ハーパーコリンズ・ジャパンがグーグルに行った申請が認められ、グーグル検索の「漫画村」に関する検索結果から当該サイトのリンクは表示されなくなった。

 しかし、これも万能ではない。そもそもURLをブックマークしていれば検索エンジンは必要ない。漫画村は比較的単純なURLなのでよく利用するユーザーなら空でタイピングできるレベルだ。仮に漫画村が表示されなくなっても、代替サイトや別の違法サイトがあればそれが表示されるかもしれない。恥知らずなSEO事業者は関連のキーワードで別サイトを上位に持ってこようとするだろう。また、DMCAによる申請はすべて認められるわけではなく、審議過程は必ずしもクリアでない問題もある。漫画村については国内の出版社も申請を行っていたとされるが、実際に採用された申請はハーパーコリンズ・ジャパンのものだった。

【次ページ】 カドカワ川上社長は「ブロッキング支持」、海賊版サイトのビジネスモデルを崩すには

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