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近年、「エッジコンピューティング」が注目されている。IoT(Internet of Thins)やスマートシティといった「どこでもつながる世界」が普及する中、ネットワークのクラウド側ではなく端末機器側(これを「クラウド」と対比して「エッジ」と呼ぶ)でデータの処理を行うことにより、AIの推論処理などをリアルタイムかつ低消費電力で実現するものだ。日本政府も、エッジコンピューティングがもたらすインパクトに注目している。今後、日本は「エッジコンピューティング」をどのように浸透させていくのか。経済産業省 商務情報政策局 デバイス・情報家電戦略室長 田中伸彦氏に話を聞いた。
「エッジコンピューティング」とは何か
「エッジコンピューティング」とは、端的に言うと、利用者に近い位置(エッジ)で情報処理を行うものである。クラウドにデータを送るのではなく、エッジ側で情報処理を行うことにより、さまざまな処理をリアルアイムで実行する。
情報処理を行う端末機器というと、多くの人はスマートフォンをイメージするが、このほかにも、コネクテッドカーや自動走行車、産業用ロボット、スマートスピーカーなど、多くの端末機器でエッジコンピューティングが行われる。
近年、インターネットを介してクラウドがエッジ側の大量のデータを収集し、巨大なデータセンタに送信した上で集中処理する「クラウドコンピューティング」が広く知られている。
一方で、自動走行車や産業用ロボットでは、クラウドに情報を送って判断を待っていたのでは間に合わないケースが多くある。たとえば、自動走行車では、ブレーキを掛けるタイミングが遅れると事故が生じてしまうし、多数の産業用ロボットが作業を行う工場では、高速で動くロボットアーム同士が衝突してしまう。このような「リアルタイム性」が重要になる分野では、「エッジコンピューティング」が情報処理の肝になる。
また、センサーの発達によりエッジで処理するデータ量も増大している。たとえば、自動走行車は、センサーの塊だ。インテルによると、自動走行車が1分で集めるデータは約50ギガバイトにも上る。今後、さらにカメラやレーダーなどのセンサーの数が増加すれば、自動走行車が扱うデータ量も増えていくことが予想される。
このように、エッジで取り扱うデータ量が膨大になると、それをクラウドへ伝送する際のタイムロスや消費電力の増加が課題となる。したがって、エッジ側で分散的に情報処理を行い、クラウドへの情報伝送を削減することで、高速かつ高効率な情報処理を実現する「エッジコンピューティング」が今後益々重要になってくる。
「エッジコンピューティング」の課題
米調査会社IHS Markitの報告書によると、世界の電子機器生産金額は今後も増加し続けるが、産業機器や車載機器の分野が特に著しく増加する。これらの分野における電子機器の生産金額は、2025年までに2016年の倍近くになると見込まれている。
「クラウドコンピューティング」では、スマホの位置情報やSNSの情報、検索履歴情報などサイバー上のデータを扱うビジネスを生業とし、巨大なデータセンタを保有するGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)などの海外プラットフォーマーに大きな強みがあった。
今後、「エッジコンピューティング」の中心となる自動車や産業ロボットは、日本が非常に高い競争力を持つ領域だ。このような産業の実体(フィジカル)領域が、今後、エッジ側で膨大なフィジカル領域のデータを省エネで処理する「エッジコンピューティング」の中心となれば、日本の強みを活かして、世界と対等以上に戦うことができる。
一方で、「エッジコンピューティング」には、エネルギー制約という避けられない課題がある。たとえば、自動車という大きな端末機器であっても、利用できる電力には厳しい制約がある。このような制約の下でAIによる推論など、高度な情報処理を行うためには、革新的な技術の開発が必要になる。
また、膨大なデータを扱うために計算能力を高める一方で、ソフトウェアやハードウェアの複雑性が増すため、セキュリティ上のリスクが高くなる懸念もある。 OSやファームウェア、ハードウェアなどの各層で、セキュリティを確保するための対応が必要となる。
このような状況を踏まえ、経済産業省では、省エネルギーで高度かつ安全な「エッジコンピューティング」を実現するために必要な技術の開発を進めている。
【次ページ】日本の「エッジコンピューティング」戦略は
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