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  • 2019/10/02 掲載

村井純氏ら議論、ブロックチェーンがまだ人類の新しいインフラになれない理由

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2009年にブロックチェーンの概念が初めて世に登場して、10年が経過した。今後大きな発展の可能性があるブロックチェーンだが、かつてのインターネットほどの進展はまだ見せていないように見える。「Interop Tokyo 2019」にブロックチェーン技術のオープンな国際産学連携グループ「BASEアライアンス」のメンバーが登壇。、慶應義塾大学の村井純氏を含むメンバーが、ブロックチェーンがさらに発展するためにはどんな課題があるのか、またインターネットで培われたことがその課題にどう生かされるのかなど意見を交わした。
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幕張メッセ(千葉市)で開催された「Interop Tokyo 2019」で6名が語り合った

インターネットが生み出した次ステップのインフラ

 「Interop Tokyo 2019」に登壇したのは、慶應義塾大学 環境情報学部教授 大学院政策・メディア研究科委員長 慶應義塾大学SFC研究所ブロックチェーン・ラボ代表の村井 純氏、東京大学 生産技術研究所 教授の松浦 幹太氏、セルビア科学芸術院 数理研究所 所長のミハエルビッチ・ミオドゥラグ氏、西日本電信電話(NTT西日本)技術革新部 R&Dセンタ 真殿由美子氏の4人だ。また、ジョージタウン大学 教授の松尾真一郎氏は、インターネットを介して遠隔で議論に参加した。慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特任教授 慶應義塾大学SFC研究所ブロックチェーン・ラボ副代表(技術統括)の鈴木茂哉氏がモデレータを務めた。

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慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特任教授
慶應義塾大学SFC研究所ブロックチェーン・ラボ副代表(技術統括)
鈴木 茂哉氏
 BASEアライアンスは、ブロックチェーンの研究を、オープンな議論・研究開発・実証実験により、国際的な産学連携によって推進することを目的に設立されたグループである。その活動概要について、鈴木氏は「ブロックチェーン技術全般についての研究開発、ブロックチェーンを用いたアプリケーションの研究開発、既存および実装したブロックチェーン技術を用いて実験実証するテストベットの構築や運用、およびその研究、国際的産学連携コミュニティの醸成を中心に活動している」と説明する。

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慶應義塾大学環境情報学部教授 大学院政策・メディア研究科委員長
慶應義塾大学SFC研究所ブロックチェーン・ラボ代表
村井 純氏
 まず口火を切ったのは慶應義塾大学の村井氏である。村井氏は、2019年6月8~9日に福岡で開催された「G20福岡 財務大臣・中央銀行総裁会議」に言及。同会議では、ブロックチェーンに関する議論がなされた。同氏は「ブロックチェーンでの議論では、“暗号資産(クリプトアセット)”や“暗号通貨(クリプトカレンシー)”、“DLT(分散型台帳技術)”という言葉や概念が出てきて混乱することも多い。ただ、金融に関する規制をしている人、インターネットに携わっている人、ビットコインを作っている人などが一堂に会する重要な機会になったのは間違いない」と評価した。

 ブロックチェーンは、インターネットの仕組みの上で成り立っている技術である。村井氏はブロックチェーンの特徴として、インターネット同様に中央制御ではない(Decentralize)、完全な自律分散で動き続けることが期待されるシステムだと説明した。

 また、もう1つブロックチェーンで大事な点として「カバレッジ(範囲)」を挙げた。現在、インターネットの到達率は全人類の6割を超えるが、インターネットの世界では「すべての人たちにインターネットを」という悲願がある。ブロックチェーンによるファイナンスシステムが実現した際、そのシステムを誰もが利用できるようになるかはインターネットの普及にかかっている。

 だが、ブロックチェーンの普及には課題もある。村井氏は「既存の各国の銀行システムとは別に、すでに暗号資産はグローバルに動いてしまっている。両者の関係をどうするかが、今後大きな課題となる」と指摘する。

 インターネットが登場する前、世界各国は「電話」という通信システムを持ち政府と共に発展した分散型のネットワークを形成していた。だが、そこにインターネットというグローバルで単一な仕組みが加わった。

「このときのインターネットは電話システムの上に仮設で作られたインフラだった。その後、インターネットのために光ファイバーを敷設したり、5Gインフラが構築されたりして、ネイティブなインフラができていった」(村井氏)

 また、「インターネットと電話の関係性は、これからのブロックチェーンやその上で動く暗号資産との関係にもアナロジー(類推)できる」と同氏は説明。その上で「インターネットが生み出したインフラ上にある、次のステップにブロックチェーンがある」と語った。

 その発言を受けて、鈴木氏は「インターネットの歴史と同じことが、今まさにブロックチェーンでも起こっている」とコメントした。

ブロックチェーン普及の鍵を握るセキュリティ技術

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東京大学 生産技術研究所 教授
松浦 幹太氏
 次に発言したのが東京大学の松浦氏とセルビア科学芸術院のミオドゥラグ氏だ。松浦氏は「BASEアライアンスの活動の中で、セキュリティの研究は重要な位置を占めている。その中でも重要な要素技術がコンセンサス・プロトコルだ」と語り、ミオドゥラグ氏と連携して取り組んでいるブロックチェーンのセキュリティに関する研究活動を紹介した。

 ミオドゥラグ氏は「ブロックチェーン技術の課題の1つが、セキュリティだ。ブロックチェーンは分散型で中央制御ではないため、その安全性をどう担保するかが重要となる。その際の一番の課題が“コンセンサス”(合意形成の仕組み)をどうするかだ」と説明する。また、第二の課題として暗号化コンポーネント専用のデザインをすることだと指摘した。

「私たちが研究する上で重視しているのは、デザイン(設計)という観点だ。使うことのできる暗号化技術を使えば良いと誤解されているところもあるが、そうではない。単に暗号化技術を使うのではなく、用途に応じて専用に設計・評価する必要がある。つまりブロックチェーンに特化した研究が必要になる」(松浦氏)

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セルビア科学芸術院 数理研究所 所長
ミハエルビッチ・ミオドゥラグ氏
 ミオドゥラグ氏は「コンセンサス・プロトコルは“コンセンサス・アルゴリズム”とも呼ばれている。重要なのは、そのメカニズムとして知られているメジャーなものが、研究者の中でも複数あるということ」だと指摘。

 また松浦氏は、「コンセンサス・プロトコルの1つであるPoW(Proof of Work)での負荷を“コンピテンシャル・コンピュータ・コスト”と呼ばずに“エナジー・オーバーヘッド”と呼んでいる。すなわち、“計算負荷”ではなく“エネルギー負荷”というべきレベルで、エネルギーを消費しているという問題が指摘されているのだ」と語った。松浦氏によると、このエネルギー負荷を軽減するイノベーションを見つけることができれば、その後の普及に大きく影響するという。

「各方法にはそれぞれ異なる特徴があるので、組み合わせて使えばよいのでは考え方もある。だが、中途半端に組み合わせても芸がない上に、セキュリティ評価が難しいという問題も残る」(松浦氏)

 そこで、松浦氏とミオドゥラグ氏は現在、各手法のいいとこ取りをしたような、新しいコンセンサス・プロトコルの研究に取り組んでいるという。

「古くから暗号の解析で使われてきたタイム・メモリー・トレードオフという考え方に着目している。この考え方を使って、コンセンサス・プロトコルの新しいアプローチを評価している最中だ」(ミオドゥラグ氏)

【次ページ】ブロックチェーンを適用した後の法制度や運用面に課題も
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