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  • 2019/09/13 掲載

高高度飛行体通信「Loon(ルーン)」とは? グーグル兄弟がソフトバンクと組んだワケ

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発展途上国を中心に、全世界の約半分の人口はインターネットに接続する環境がない。また、インターネットが無ければ生活が成り立たない現状を考えると、自然災害が発生した際に、通信が途絶えてしまうのは大きな問題となる。いつでもどこでも通信できる頑健なインフラを構築するため、グーグルの兄弟会社Loon(ルーン)は気球で、また、ソフトバンク子会社HAPSモバイルは無人飛行機で、通信基地局を展開する計画を進めている。フェイスブック、アマゾン、スペースXも参戦し、複雑な提携・競争関係を結びながら、デジタル・デバイドという社会問題の解決が図られている。

執筆:在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

執筆:在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

Mint Labs製品開発部長。1981年栃木県生まれ。2006年東京大学大学院工学系研究科修了。日本アイ・ビー・エムにてITコンサルタント及びソフトウェア開発者として勤務した後、ESADE Business SchoolにてMBA(経営学修士)を取得。現在は、スペイン・バルセロナにある医療系ベンチャー企業の経営管理・製品開発を行うとともに、IT・経営・社会貢献にまたがる課題に係るコンサルティング活動を実施。Twitterアカウントは@takayukisato624。ビジネスモデルや海外での働き方に関するブログ「CTO for good」を運営。

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Loonのバルーン
(Source: Loon.)

未だに全世界で35億人がネットにアクセスできない

 全世界でのインターネットユーザーは全世界75億人の人口のうち、40億人と、普及率は53%にとどまる(2018年Hootsuite社調べ)。93%の普及率を誇る日本からすれば、「まだ半分」の人しかインターネットの恩恵を受けていないと感じられるかもしれない。

 インターネットへのアクセスを妨げるのは基本的人権の侵害であると国連が述べたのは2011年のことだ。インターネットにアクセスできない人々は、教育を受ける、さまざまなニュース・意見に触れる、友人・知人と連絡する、映画や音楽を楽しむ、商品・サービスを提供し収入を得るといった機会を得にくい。彼ら、彼女らは「デジタル・デバイド」の問題に直面しているのだ。

 普及率が34%に留まるアフリカを含め、発展途上国におけるインターネット・アクセスの問題は大きい。通信インフラの構築には多大なコストがかかり、広大な大地に点在する集落に対してサービスを提供するのは経済的に困難で、通信会社は網羅しきれていなかった。

 技術へのアクセスには5つのAがあると言われている。Availability(可用性。利用できる状態にあるか)、Affordability(値ごろ感。人々の予算に合うか)、Awareness(認知。人々に知られているか)、Abilities(技能。人々が使いこなせるか)、Agency(主体性。人々が使いたいという意志を持つか)。これらが満たされた状態になければ、デジタル・デバイドの問題は解決できたとはいえない。

 発展途上国ではなくても、災害時の通信手段の確保は大きな問題となる。災害時こそ迅速に連絡をとりたいと思う一方、地震や津波によってインターネット回線が遮断されてしまっては、オンラインでのコミュニケーションが不可能になる。より頑健な通信網の構築は全世界に共通した課題だ。

空から基地局を提供しようという取り組み

 そこでインターネットを利用できない35億人に通信インフラを提供する壮大で社会的意義の大きいプロジェクトを牽引するのは、通信会社ではなく米国のテック企業だ。グーグルは「Project Loon」を立ち上げ、気球による通信機器局を提供しようとしている。

 テニスコート程の大きさに及ぶ、ポリエチレン製の気球は、LTE高速通信を提供する「空中基地局」を運搬し、基地局周辺にあるスマートフォンや通信機器に対し、インターネットへのアクセスを提供する。気球の操縦は人手ではなく、同社が独自に開発したアルゴリズムによって自動化され、気流を計算し、目的地への飛行を行う。

 Loonの気球は2019年7月に合計100万時間、約4000キロの飛行を記録し、ケニアやカナダの通信会社と提携して商用化を進めている段階だ。また、ハリケーンの被害にあったプエルトリコで10万人に通信環境を提供したり、ペルーでは地震発生から48時間以内で気球によるLTEサービスを開始したりと、災害時の運用実証も進んできた。さらに、インドネシア、ニュージーランド、フランスの通信会社もLoonの信頼性・安全性・収益性に興味を示しているとされる。

画像
Loonのビジネスモデル

 Loonは、自動運転開発を行うWaymo社などとともに、「次なるグーグル」を生み出すための「Xムーンショット」プロジェクトの一つとして設立された。成果が上げられず閉鎖されるプロジェクトもある中、商用化への道筋が示されたLoonは無事、アルファベット社傘下の法人へ昇格されている。

【次ページ】ソフトバンク子会社HAPSモバイルは無人航空機による通信基地局を開発中

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