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- 2020/03/16 掲載
ディープテックとは何か?注目の13分野とは? 激変する起業とテックの関係
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ディープテックとは何なのか?注目の13分野
ディープテック企業向けの資金調達を担うPropel(x) CEOのスワティ・チャトゥルベディ氏によれば、ディープテックとは「科学的な発見や革新的な技術に基づいて、世界に大きな影響を与える問題を解決する取り組み」と定義されるという。あらゆるハイテク企業は、何らかの技術に支えられているものだが、単にビジネスモデルを刷新するだけでなく、確かな技術的進歩を前提としているのが特徴だ。具体的には、以下のような分野が現在のディープテックの領域と考えられる。
- 人工知能、機械学習、ロボット
- 3Dプリンター
- 自動運転、空飛ぶクルマ
- 宇宙飛行、月面探査
- クリーン電力、代替エネルギー
- ゲノム編集、寿命延長技術
- 埋め込み技術、人間拡張(ヒューマン・オーグメンテーション)
- IoT、センサー、ウェアラブル
- 精密医療(プレシジョン・メディシン)
- ニューラルネットワーク
- 量子コンピューティング
- ナノ・テクノロジー、合成生物学
- 没入技術、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)
ボストンコンサルティンググループ(BCG)の調査では、ディープテック企業に対する投資は2015年から2018年までの間に22%増加し、その総額は約180億ドル(約1.9兆円)まで達した。 基礎研究もさることながら、実用化を目指す段階に達したベンチャー企業に対する投資が積極的に行われるようになり、投資業界の大きなトレンドとなっている。
ディープテックに取り組むスタートアップ企業が注目を集める背景には、ソフトウェアからハードウェアにまたがる各分野の技術が統合され、さらなる成果を生むようになった点が挙げられる。
たとえば、バイオテクノロジー企業は、すでに人工知能を活用して創薬プロセスを効率化するようになっており、将来的には量子コンピューティングがさらなる発見を生むかもしれない。
数世代前の大型サーバよりも強力な計算機資源がスマートフォンやノートパソコンで得られるようになった今、高度な研究開発も、安価で手軽に始められるようになった。
ディープテックに取り組むのはスタートアップ企業だけではなく、技術革新を必要とする大企業も同様だ。そのため、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の手法を用い、ディープテック企業に投資する大企業が増えており、その投資額は2015年の32億ドルから2018年の57億ドルまで増加したとされる(同BCG調査)。
すでに財を築いた連続起業家が、新たな挑戦としてディープテックを選択する傾向も見られる。イーロン・マスクが代表例で、宇宙ベンチャーSpaceX、電気自動車・自動運転車を開発・製造するTeslaなど、高度な技術を要する事業を次々と立ち上げてきた。そこには、地球温暖化に関連したエネルギー問題をはじめ、地球規模の課題を解決するというビジョンがある。
ディープテックと起業手法の切っても切れない関係
ディープテックが提唱された文脈を理解するには、起業に関する方法論について知る必要がある。2000年頃にはじけたドットコム・バブルでは、多額の投資を手にした企業が、顧客のニーズに応える製品を開発できないまま、採算がとれなくなり、事業を継続できなくなる問題が見られた。その反省を生かし、顧客からのフィードバックを受けながら反復的な開発を目指すリーンスタートアップの方法論が提唱された。綿密な計画と初期投資、長い期間をかけて開発しても、開発が終わるころにユーザーのニーズが変わり、不要な製品になり果てるというのは、スタートアップ企業の失敗でよくあるパターンだった。リーンスタートアップの導入によって、このような間違いに至るリスクを防げるようになっている。2010年代に成長したAirbnbのような企業は、リーンスタートアップの影響を大きく受けたと言われる。
しかしその後、起業の方法論として普及したリーンスタートアップであるが、反復的なプロセスに傾くあまり、十分に計画を練らず、行き当たりばったりな開発を行う誤用が見られるようになった。2014年に発刊されたピーター・ティール著『ゼロ・トゥ・ワン』に代表されるように、漸進的な改善に収まりがちな起業に対する批判が集まるようになっている。
さまざまな技術が統合できるようになり、スタートアップ投資に向かう資金も増加している今、本当に求められているのは、社会にはびこる課題と、それを解決する技術なのだろう。国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)で掲げられたような、健康・福祉・エネルギー・持続可能性・気候変動・資源といった社会課題に資する起業の方法論が求められている。
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