- 会員限定
- 2021/05/17 掲載
絶対王者「ジレット」を苦しめる、米国ヒゲ剃りサブスクの経営戦略が凄すぎるワケ
【連載】成功企業の「ビジネス針路」
-
|タグをもっとみる
絶対王者ジレットの凋落
1903年、使い捨てカミソリ替え刃を考案したキング・C・ジレット氏は使い捨て替え刃のカミソリを世界で初めて商品化しました。プリンタや家庭用ゲームでおなじみの、本体の価格を安くしつつ付属品の消耗品で稼ぐビジネスモデルは、「ジレットモデル」とも呼ばれています。市場調査会社のユーロモニター・インターナショナル(Euromonitor International)の推定によると、2010年ジレットは世界の男性用カミソリ市場の売上シェアで実に約7割のシェアを誇っていたと言われていますが、2018年には約5割以下に低下し、ジレットの親会社であるP&Gは2019年にジレットの評価額を約8,500億円引き下げることを余儀なくされています。
その理由は、新たなビジネスモデルをひっさげて登場したベンチャー企業「ダラーシェイブクラブ(Dollar Shave Club、以下DSC社)」のジレンマ戦略にあると考えられます。
ダラーシェイブクラブ社とは
DSC社は、2011年に創業した米国企業で、2012年に開始したヒゲ剃りの定期購入サービス=サブスクリプションモデル(以下サブスク)で急成長を遂げました。DSC社を一躍有名にしたのは、同社の創業者であるマイケル・デュビン氏が自ら出演した撮影期間1日、制作費わずか50万円のYoutube動画です。
この動画の中で、デュビン氏は、同氏の主張とDSC社のサービスをユーモアたっぷりに表現しています。
“20ドルのうち19ドルはフェデラー(ジレットがスポンサーのテニスプレーヤー)に流れるんだぜ!“
“電動バイブレーション、10枚刃(ジレットの付加価値商品)が本当に必要なのか?“
2012年3月の公開後、わずか48時間で実に1万2000人の契約者を獲得、2700万回以上再生され、バイラル・マーケティング(口コミを利用し、低コストで顧客の獲得を図るマーケティング手法)のお手本となっています。
DSC社は、サービス開始から4年で契約者数は300万人を突破。2016年にDSC社は英大手消費財メーカーのユニリーバに買収されましたが、買収額は実に10億ドル(約1,140億円)と、最も短期間で急成長を遂げた企業の1つとなりました。
ダラーシェイブクラブのサービス内容
上述の通り、DSC社は、ヒゲ剃りの「サブスク」です。サービス内容は極めてシンプルで、毎月定額でヒゲ剃りの替え刃が自宅に届けられます。ヒゲ剃り本体と替え刃は韓国企業によるもので、自社での製造は行っていません。いわゆるD2C(ダイレクト トゥ コンシューマー:メーカーが自ら企画・製造した商品を、自社のECサイトを使って直接消費者に販売する仕組み)の先駆けで、メニューは以下の3つから選ぶことが出来ます。<ダラーシェイブクラブのメニュー>※
・月1ドル(+送料2ドル):2枚刃 替え刃5個/月
・月6ドル(送料無料) :4枚刃 替え刃4個/月
・月9ドル(送料無料) :6枚刃 替え刃4個/月
※サービス開始当初のメニューであり、現在は変更されています。
ヒゲ剃りは定期的に替え刃の交換が必要ですが、喜んで替え刃を買いに行く人の割合はほぼゼロと言って良いでしょう。しかも替え刃は決して安くありません。そんな替え刃が、定期的に自宅に郵送され、しかもそれが非常に低価格であれば、多くのユーザーにとってメリットが大きいのです。
また、「サブスク」で顧客と継続的かつダイレクトにつながることで、顧客の動向やニーズを吸い上げることも容易となります。このため、販売促進策や、既存製品やサービスの改良、新たな商品の開発をスピーディに行うことが可能です。ヒゲ剃りのサブスクは、企業側にとってもメリットが大きいのです。
また、同社では、顧客志向のサービスに力を入れてきました。契約者はいつでも数クリックで簡単に解約が可能で、契約後30日間以内であれば、いかなる理由でも返金されます。また、好きな配送日を指定することができ、配送頻度も毎月から1年に3回まで選ぶことが可能です。また、次の替え刃が不要な場合には、配送をスキップすることもできます。
【次ページ】ジレットがダラーシェイブクラブに追随できない理由
PR
PR
PR