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  • 2021/07/01 掲載

ハーバードが350社の事例から導いた“DXの答え”、「AIファクトリー」とは

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昨今、DXが多くの企業にとって経営課題になっている。このDXについて、ハーバードの研究者たちが「AIファクトリー」というコンセプトを打ち出し、現在世界で注目を集めている。350社のDX(デジタルトランスフォーメーション)の成功/失敗の事例を調査して、彼らが出した結論は、「企業は、AIを生み出す“工場”へと転換すべき」というものであった。本稿では、この「AIファクトリー」について紹介をしていきながら、DXの要諦について考えていきたい。

カンディード 新居 示雄、林 景虎

カンディード 新居 示雄、林 景虎

新居示雄
東京大学教養学部卒業後、ドリームインキュベータにて、大企業向けの戦略コンサルティングと、投資先ベンチャーの上場支援に従事。その後、ヘルスケアベンチャーの立ち上げを経て、企業のDXを支援するカンディードを創業。

林景虎
海外のスタートアップや技術動向のリサーチ、データ分析に従事。

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未邦訳の書籍で示されたDXの勝ち筋、「AIファクトリー」とは
(Photo/Getty Images)

前提:「DX」はデジタルによるビジネスモデルの変革である

 「DX」と言ったときに、日本ではいまだに「紙の書類やFAXのデジタル化」や「ERPシステムの導入」が議論されることが多い。もちろん、こうした議論は重要なものではあるが、10年以上前から議論されているものである。

 一方で、現在注目を集めている「DX」とは、本来的には「デジタルを活用してビジネスモデル自体を変革する」ことを意味している。具体的には、グーグルが広告を、アマゾンが小売を、アップルが端末製造のビジネスモデルを根本的に変革したような事態を指している。

 実際、昨今のDXのトレンドの背後にあるのは、「我々もGAFAのようなスタイルを取り入れなければ、デジタル企業に駆逐されてしまう」という強烈な危機意識であると考えられる。

 事実、ことの一面ではあるが、「DX」の検索ボリュームとGAFAの時価総額を比較してみると、両者の間には明確な相関関係が認められる。
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DXの検索数とGAFAの時価総額の比較

 では、GAFAのように、デジタルを用いてビジネスモデルを変革するには、どうすればよいのだろうか?

ハーバードのDXトップがたどり着いたのは「AIファクトリー」

 ハーバード・ビジネススクールのDXユニットのトップであるカリム・ラカニとマルコ・イアンシティは、主著『AI時代の競争(Competing in the age of AI、未邦訳)』の中で、GAFAなどのデジタル企業に共通する特徴として、「企業が、AIをつくるための工場(=AIファクトリー)になっている」というポイントを指摘している。

 「AIファクトリー」を説明する際に、カリムらが例として挙げているのが、中国の金融会社Ant Financialである。アリババのグループ会社で、アリペイなどを提供するAnt Financialは、従業員が1万人以下であるのにも関わらず、約7億人もの顧客にサービスを提供している。

 一方で、日本の従来型の金融機関の場合だと、約9万人の従業員で4,500万人の顧客にサービスを提供している。これは、1人当たりの従業員がどれだけの顧客にサービスを提供しているかという生産性を考えると、両者の間に140倍の差がでていることになる。

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従来型の金融機関とAnt Financialでは140倍の差が生まれている

 なぜここまで大きな差が生まれるのだろうか?

 Ant Financialでは、顧客対応や与信判断といった、従来の金融機関が人手で提供していたサービスをデジタル化し、AIが提供するようにオペレーションを構築している。

 結果、従来型の金融機関であれば、顧客の数が増加したときに、その顧客にサービスを提供するための人員を新たに採用・教育する必要があったが、AIがサービスを提供する場合は、こうした追加の人員が必要にならない。極論をいえば、顧客の数が1万人であろうが1億人であろうが、必要な人員数は変わらないのである。

 そして、ここではむしろ「従業員」の役割が、両者で大きく異なることに注目をしたい。

 従来型の金融機関においては、従業員の役割は、「顧客にサービスを届けること」であった。一方、Ant Financialでの従業員の役割は、「顧客にサービスを届けるAIを設計・運用すること」にある。

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従業員の役割の違い。スケーラビリティがまったく異なる

 結果、Ant Financialのようなデジタル企業は、人員リソースの制約に縛られずに、急速に自社のサービスを拡大することができる。また、サービスの拡大に合わせて、サービスの品質までもが向上していく仕組みを構築している。それが下図である。

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AIファクトリーは急激な事業成長を可能にする

 顧客へのサービス提供がデジタルで行われることにより、AIが行った演算のデータや、顧客の満足度・行動データがデータベースに蓄積されることになる。そして、そのデータを学習することで、AIのアルゴリズムが洗練されることになる。

 すると、「AIアルゴリズムの洗練 → サービスの品質の向上 → 顧客の増加 → 蓄積されるデータの増加 → AIアルゴリズムの洗練 → …」という形の好循環が回り始めることになる。

 この好循環こそが、デジタル企業の急速な拡大を可能にしているのである。

 また、データが蓄積されることで新たなサービス(AI)の立ち上げも可能になる。

 実際、Ant Financialは、既存事業で蓄積した個人や企業の信用情報をもとに、ローンや保険、資産運用など新たなサービスを次々と立ち上げている。その姿はまさに、「AIを生み出す”工場”」そのものである。

 以上が、カリム・ラカニたちが唱える「AIファクトリー」のエッセンスである。改めてまとめると、下記のような形になる。

  1. 1. 顧客にサービスを提供するのは従業員ではない。従業員がつくったAIが、顧客にサービスを提供する
  2. 2. サービスを提供する際のオペレーションがデジタル化されることで、「データの蓄積→サービスの改善→ユーザーの拡大→データの蓄積」という好循環が発生する
  3. 3. データの蓄積はサービスの改善にとどまらず、蓄積されたデータを活かした新たなサービス(=新たなAI)が次々とつくられていく

 では、「AIファクトリー」へと自社を転換するには、どうしたらよいのだろうか?

【次ページ】AIファクトリー転換の3つのポイント「人材」「意思決定」「指標」

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