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  • 2020/01/14 掲載

2020年代は「ヘルスケア」が世界の主戦場になるこれだけの理由

“ソフトウェア時代”だった2010年代の先へ

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激動の2010年代が終わり2020年代に突入した。米国最大手のベンチャー・キャピタル、a16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)が予言したように、2010年代は「ソフトウェアが世界を飲み込んでいく」時代だった。スマートフォンが爆発的に普及し、ソフトウェアは人々の生活の隅々にまで入り込んだ。この時代に覇権を握ったのは、米国のGAFAをはじめとするテック・ジャイアントたちであった。では、2020年代はどのような時代になるのだろうか? a16zは2019年、「ソフトウェアは世界を飲み込み尽くした。次は、ヘルスケアだ」と新たな予言をした。この新たな予言を導きの糸として、2020年代の来るべきヘルスケアビジネスの潮流について、分析をしていきたい。(2020年1月初版公開、2020年12月更新)

チャレンジャーズ 新居 示雄、不破 久孟

チャレンジャーズ 新居 示雄、不破 久孟

チャレンジャーズ 共同代表 新居示雄
東京大学教養学部で哲学研究に没頭。卒業後は、ドリームインキュベータにて、大企業向けの戦略コンサルティングと、投資先ベンチャーの上場支援に従事。「哲学とビジネスの融合により、次のAppleを日本から生み出す」という想いから、ヘルスケアサービスの開発と、企業や大学・研究機関のイノベーション支援を行うチャレンジャーズの設立に参画。

インターン 不破久孟
慶應義塾大学経済学部4年在学中。政府系金融機関に入社予定。大学時代は会計学と、米国留学でパブリック・スピーキングを研究。ヘルスケア業界やベンチャー企業への関心から、チャレンジャーズにて長期インターンを行う。

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2020年代、ヘルスケア市場の競争がいよいよ世界中を巻き込んで行く
(Photo/Getty Images)


ソフトウェアが世界を飲み込んだ2010年代

 まず、2010年代がソフトウェアが世界を飲み込んだ時代であったことを確認したい。まずは下記のグラフを見てほしい。

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データの量とコンピューターの演算能力が飛躍的に増大

 スマートフォンが爆発的に普及することで、世界で流通するデータの量が爆発的に増加した。そして、コンピューターの計算能力も飛躍的に上昇することで、大量のデータを解析することが可能になった。この大量のデータ処理が可能になることで、2010年代の後半には、ソフトウェアの高度化とAIの爆発的な普及がはじまった。

 ただ、AIの社会実装が本格的に進んだとは、まだ言えないだろう。たしかに、デジタル広告などソフトウェアの世界に閉じた領域では、AIの実装は飛躍的に進んだ。しかし、自動運転などリアルの領域におけるAIの社会実装は、2020年代の宿題になっているのが現状だ。

 では2020年代は、どの領域でAIの社会実装が進んでいくのか? ヒントになるのは、テック・ジャイアントであるGAFAの動きだろう。

GAFAはすでにヘルスケア投資を加速させている

 2020年は、GAFAのヘルスケア関連の投資が、相次いで発表された年だった。

 たとえば、グーグルはついに2020年8月、保険事業へ参入を発表した。グーグル子会社のヘルステック企業Verilyが、大手保険グループのスイス・リーと協業し、保険事業をおこなう新たな子会社、Coefficient社を立ち上げたのである。

 グーグルのこの動きは、保険業界の在り方を大きく変える可能性がある。というのも、2019年11月に、グーグルはフィットネストラッカーのFitbit社を約2,100億円超で買収すると発表しており、こうしたデバイスから得られるヘルスデータを活用して、データドリブンな保険商品を設計していくことが考えられるからだ。

 さらに、保険以外の領域でも、グーグルはここ数年で買収・提携・新規事業といった形でヘルスケア分野に多大なリソースを割いている。たとえば、囲碁AIの「アルファ碁」で有名なグーグル子会社のDeepmind社には、買収資金を含めて2,000億円以上の資金を投下しており、病院患者160万人の医療データを基にした病院向けサービスや、AIを活用した創薬事業などを行っている。グーグルは、検索エンジンで培った機械学習の技術と、子会社や協業先のヘルスケアサービスを掛け算することで、ヘルスケアの領域に地殻変動を起こそうとしている。

 同様に、アップルはiPhoneやApple Watchといった世界中で使用されているデバイスを基盤に、ヘルスケア事業を立ち上げようとしている。2020年9月には、シンガポール政府とパートナーシップを締結し、Apple Watchをつけて運動をする国民に報酬をあたえる政策を発表するなど、その動きは一国の政府をも巻き込み始めている。 モルガン・スタンレー証券はアップルのヘルスケア事業の売上が、2021年に150億ドル(約1兆5,600億円)、2027年までに最大3,130億ドル(約32兆5,520億円)になると予測している。これは2019年度のアップルの総売上の2,745億ドル(約28兆5,400億円)を超える数字であり、「アップルはヘルスケアの企業に変身する」と予測しているに等しい。

 そして、アマゾンもヘルスケア分野への投資を本格化している。2020年11月には処方薬をオンラインで販売する「アマゾン薬局」の立ち上げを発表し、年間で売上30兆円強といわれている米国の処方薬市場への参入を開始した。アマゾンは他にも、JPモーガン・チェイス、バークシャー・ハザウェイとの合弁会社を基盤とする、バーチャルクリニックサービス「アマゾン・ケア」の試験運用を自社社員向けに行っている。これはオンライン診断と、医者の往診、薬の販売、配達等が一体となったサービスで、ゆくゆくは「アマゾン薬局」に統合されて、一般の消費者向けへのサービスへと進化していくと考えられる。アマゾンが掲げるミッションである”The Everything Store”は、ヘルスケアサービスも包摂していくだろう。

 これまでヘルスケア事業には未着手だったフェイスブックも、2019年10月に、Preventive Healthという予防医療のサービスを開始した。これはフェイスブックに登録されている年齢や性別に基づいた健康診断やワクチン接種などがレコメンドされ、提携先の医療機関で受けることができるサービスだ。また、2020年7月には、自社のメッセンジャーアプリWhatsAppを通して、保険商品をレコメンドするサービスを、インドで試験的に開始している。 こうしたサービスを皮切りに、フェイスブックは、自社のSNSのユーザーデータを活用したヘルスケアサービスを拡充していくものと思われる。

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GAFA各社は自前のプラットフォームをベースに、ヘルスケアへの投資を加速している

 以上の事例からわかるように、GAFA各社は自前の顧客接点と大量のデータを活用して、リアルのヘルスケア領域に踏み出そうとしていることがわかる。各社の強み(グーグルは検索・アップルはデバイス・アマゾンはEC ・フェイスブックはSNS)はそれぞれ異なるが、その取り組みに共通しているのは、各社の持つ巨大プラットフォームをベースにしたビッグデータに、ヘルスケアサービスを掛け算しようとしていることだ。ヘルスケアの市場は、米国だけでも300兆円規模と言われている。2020年代は、この巨大な市場を巡り、GAFA各社がしのぎを削る時代になるだろう。

「業界を再定義するAIベンチャー100」の分析で見えてくること

 以上、GAFAの動きを見てきたが、ヘルスケア領域への投資を加速しているのはGAFAだけではない。世界で注目されているAIベンチャー企業を見ていくと、「ヘルスケア領域でのAIの実装が最も加熱している」ということがわかる。

 ベンチャー企業に特化したリサーチ会社、CB Insightsは、毎年、世界で最も優れたAIベンチャーを100社選出し、「業界を再定義するAIベンチャー100社」というリストにまとめて発表している。

 このリストの2017年~2019年の選出企業を、業界別にまとめたグラフが下記だ。

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「業界を再定義するAIベンチャー100社」の直近3カ年の傾向を見ると、ヘルスケア領域へ注目が集まっていることがわかる

 この分類自体は簡易的なものなので、詳細はまた別の機会に紹介できればと思うが、ここで注目していただきたいのは、「ヘルスケア領域のベンチャーが100社中14社と最多選出で、増加率も20%を超えている」ということだ。

 そして、以下が2019年に選出されたヘルスケアベンチャー14社の分類である。

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「業界を再定義するAIベンチャー100社(2019年)」のヘルスケア企業

 事業概要の欄からわかるように、GAFAが自社のプラットフォームに、ヘルスケアサービスを掛け算して、広範な顧客にサービスを届けようとしているのに対し、上記のベンチャーは、ヘルスケアの中の、特定の領域を深堀するようなソリューションをAIで提供しているのが特長だ。その取り組みは、「(1)医療の大衆化」、「(2)医療の高度化」、「(3)医療の効率化」の3つに分類できる。

 とはいえ、上記の事業概要だけでは、各社の取り組みのイメージがわかないと思われる。そこで、各分類からベンチャー企業を1社ずつ簡単にご紹介するので、彼らがどう業界を再定義しているのか、イメージをつかんでいただければと思う。

【次ページ】医療の「大衆化」「高度化」「効率化」に挑む先進ベンチャー

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