• 会員限定
  • 2021/07/06 掲載

Windows 11が「極めて戦略的」なワケ、すべてはマイクロソフト帝国への布石である

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
米テック大手の一角であるマイクロソフトが、これまでの同社オペレーティングシステムの中で最も戦略的かつ包括的なWindows 11を、今年の年末商戦の時期に合わせて市場に投入する。ユーザーフレンドリーな操作感や完成度の高さから、早くも「成功の予感」(米ウォールストリート・ジャーナル紙)がささやかれる「11」。だが、米テック大手への法的規制論が進行する中、商業的なパフォーマンスを超えた、企業サバイバルへの布石としての意味合いが強そうだ。背景にある政治的な文脈から、Windows 11登場を読み解く。

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

画像
Windows11の特徴からは、マイクロソフトの“真意”が読み取れる
(写真:ZUMA Press/アフロ)

Windows11は「民主化の担い手」を謳う

 米国時間6月24日に開催されたWindows 11イベントに関する報道では主に、「11」の斬新で使いやすいインターフェースや、スマホ向けに開発されたAndroidアプリがWindowsで利用可能となるサプライズが華々しく取り上げられた。

 マイクロソフトは、「パソコンのスマホ化」を狙ったWindows 8のUI変更の強引さが極めて不評で、大コケした失敗経験がある。だが、Windows 11におけるインターフェース改善とAndroidアプリ導入により、当時の見果てぬ夢が遂に実現する可能性が高まっている。

 しかし、Windows 11リリースの真の意義は、サティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)のイベント締めくくりの言葉である、「Windows 11は開かれたプラットフォームであり、コンシューマーの選択肢を増大させる」「ユーザーの主権(主体性)を引き出す設計が選択肢を増やし、人のつながりを豊かにする」「Windowsはその歴史を通して民主化の担い手であり、人々の主体性をさらに育む」との主張にこそ顕現化されている。

 なぜなら、ナデラCEOによるWindows 11の上記のような定義は、勢いを増す巨大テック規制論における「テクノロジー企業は非民主的で、人々の選択肢を狭めることにより競争を阻害している」「支配的デジタルプラットフォームは排他的で、経済の中核および政治的自由を脅かす独占力を持っている」などの批判に対する反論であるからだ。

画像
Windows 11でTeamsが使われているスクリーンショット。タスクバーに常駐するTeamsとTeams Meetのアイコンに注目
(出典:マイクロソフト)

反トラスト規制に真っ向から立ち向かうTeamsバンドル

 マイクロソフトは、アップル、アマゾン、フェイスブック、グーグルで構成される、いわゆるGAFAほどには反トラストの嫌疑をかけられてはいないものの、同社のビジネス向けカンファレンス・チャットアプリであるTeamsが、弱小ライバルのSlackやZoomを圧迫しているとの見方は根強い。SlackやZoomに対するTeamsの優位性伸長の傾向を見れば、Windows 11が事実上Teamsの市場独占の結果をもたらす可能性もある。

 Windows 11設計の基本認識は、「コロナ禍後のハイブリッド型の働き方定着に伴い、企業は従業員が家庭で働くことを可能とするOSを必要としている」というものであり、TeamsがシームレスにOSに埋め込まれる予定だ。タスクバーに常駐することでOSにネイティブに組み込まれていれば、ユーザーは最初にTeamsを使うようになり、反トラストの恐れが出てくる。すでにSlackは欧州において2020年、マイクロソフトのOffice製品にTeamsがバンドルされている件で、同社を独占禁止法違反として当局に訴えている。

 その点から見れば、最近コンシューマー版のTeamsを発表したばかりのマイクロソフトがOSにおけるTeamsのネイティブ化を推進することは、同社が反トラスト規制の動きを恐れておらず、逆に堂々と「反抗」しているようにさえ映る。

 とは言え、自社ブラウザー「Internet Explorer(IE)」のOSバンドルによる市場独占を1990年代末に当局に指摘された過去を持つマイクロソフトとしては、Teams をバンドルしたWindows 11が自社製品の優位を目指すものではなく、自由と民主的な価値観を伸長させるツールであると世間に印象付ける必要に迫られているのである。

【次ページ】Windows11は、具体的にどのように「開かれ、自由」なのか

関連タグ

関連コンテンツ

オンライン

ECサイトのSEO戦略 - CMS別の特徴も解説 -

今回のセミナーは、『ECのSEO』がテーマです。 24年6月より、国内EC大手の楽天市場が基本出店料を値上げするニュースが話題となるなど、自社ECの強化による収益性の改善に取り組みたいと考えている事業者様も多いのではないでしょうか。 また、Web 広告における重要なデータ サードパーティーcookie も24年内に主要ブラウザで廃止が予定されており、Web広告の効率の悪化も懸念されています。 「アプリやECなどの自社への会員登録をECサイトで増やし、マーケティングを強化したい」という事業者様も多いかと思います。 このようなお悩みを抱えている方において、主要ウェブチャネルである検索エンジンとの接続や、顕在的な顧客の獲得においてSEOは有力な解決手段となり得ます。ただし、ECのSEOは適切な戦略を見定めることが非常に重要となります。 「検索回数が多い、ユーザーがよく検索するワードで上位獲得したい」と思っても、超大手ECサイト・ナショナルブランドECサイトが立ちはだかり、簡単には上位獲得できないケースが多いです。 また、「ブランドイメージを壊さない範囲でしか実装ができない」といった制約により、対策方法が定まらず、前に進めないケースも多いです。 自社ECでは、このようにキーワード戦略やターゲティングの設定、および実行力の部分が他業界のSEOよりも高難易度となります。 今回は、SEO観点でサイトのタイプを定義した上で、それぞれのパターンにて陥りがちな問題や、それらを解消する有効なSEOの方針を解説します。 また実際に上記の戦略や制約に沿って実装した施策や、アプリとの接続性などの観点で近年、お問い合わせが増えているCMSについても、簡単に解説します。 ご参加いただいた方には、ユーザー目線のサイト作りをサポートする「インデックス率チェックシート」をご用意していますので、ぜひご参加ください。

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます