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  • 2020/08/12

TikTokは分離される? 買収でマイクロソフトを待ち受ける「難題」の数々

米テック大手マイクロソフトは、中国のバイトダンス(字節跳動)が運営する短編動画投稿アプリTikTokの買収に向けた交渉を開始した。トランプ米政権は、米国人ユーザーのデータが中国に渡る安全保障上の懸念の解決のため、9月15日という交渉期限を設けてTikTok米国事業の「現地化」を図り、中国IT企業の影響力を一掃する考えだ。しかし、マイクロソフトにとって買収で得られる相乗効果は薄いと見られ、技術的にも「米国TikTok」「中国TikTok」へと分離が可能なのか疑問視する声も多い。トランプ政権の真の狙いは、交渉の決裂と、TikTokをファーウェイ(華為技術)のように米国から排除することなのか――。

在米ジャーナリスト 岩田 太郎

在米ジャーナリスト 岩田 太郎

米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

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買収騒動のTikTok、今後の趨勢は
(Photo/Getty Images)


マイクロソフト事業と親和性が低いTikTok

 多くの論者がすでに指摘しているように、今回のマイクロソフトによるTikTok買収交渉には不自然な点が多い。両社の企業文化の違い、TikTok買収による相乗効果に関する疑問、米国事業の分離の技術的可否、恣意(しい)的な交渉期限の設定、マイクロソフトの高値づかみ、あるいはTikTokに不利な買いたたきにならないかとの懸念など、多くの困難が予想されるからだ。

 マイクロソフトが2016年に262億ドルを支払ってビジネス特化型ソーシャルメディアのLinkedInを買収した際には、業界関係者や市場アナリストたちから一斉に称賛の声が上がった。なぜならLinkedInは同社のビジネス向けOffice製品との親和性が非常に高く、その後立ち上げられたチームコミュニケーションツールのTeamsとも方向性が同じであり、実際にその後の相乗効果も大きかった。LinkedInもOfficeもTeamsも、「生産性を高める」という点において共通の方向を向いている。

 ところが、米国の若者の間で人気がずばぬけて高いアプリであり、面白すぎてついつい時間を忘れるTikTokは、逆に「生産性を下げる」タイプのサービスである。

 たしかに、ほとんどが10~20代である米国人TikTokユーザー約1億人の多くは、社会人になればマイクロソフトのビジネス向け製品やサービスを使ってくれるだろう。だが、どのようにしてTikTokと正反対の性格を持つLinkedInやOfficeやTeamsが共存するのか、道筋がはっきりしない。

 個人向けTeamsにはビデオやテキストのチャット機能があるが、それをうまくTikTokと融合できるかは疑問だ。個人向けであっても、Teamsの機能は基本的にOffice製品と結びついているからだ。また、TikTokの買収でマイクロソフトのクラウドサービスであるAzureの利用を増やしても、マイクロソフトの収益には貢献できないとも指摘されている。

広告プラットフォームとしては勝算あり

 一番成功の見込みが大きいと見られているのは、TikTokの広告プラットフォームとしての可能性である。現在のTikTokの米広告収益は年間3600万ドルにすぎないが、可処分所得が多い18~24歳の層が1日当たり1時間以上同アプリに滞在することから(ちなみにフェイスブックのInstagramでは44分、Snapchatは36分)、広告主にとっては魅力的だ。

 そのため、スポーツウェア大手のNike、高級アパレルのRalph Lauren、若年層向けアパレルのAmerican Eagle、動画ストリーミングのNetflix、外食大手のChipotleなどが、こぞってTikTokに広告出稿を行っている。 こうした広告のクリックデータやTikTokが持つユーザーの利用データを基に、マイクロソフトの検索エンジンのBing、MSN、OutlookやXbox Liveでの広告事業を強化することも可能だ。事実、マイクロソフトは広告主向けにDigital Marketing Centerというサービスを立ち上げ、マイクロソフトだけでなくグーグルやフェイスブックへのネット広告出稿も一元管理できるように便宜を図り始めた。

 グーグルやフェイスブックに広告が奪われることを覚悟で広告主にマイクロソフトの広告サービスを周知させる戦略であり、プラットフォームとして魅力的なTikTok を傘下に置けば、広告事業の躍進が見込める。

 さらに、広告に人工知能(AI)を絡めることもできる。アップロードされた膨大な動画データをAIに分析させ、「なぜこの動画はバズるのか。楽曲のおかげか、ダンスの動きなのか」「何がはやっているか」などポップカルチャーの最新トレンドを導き出し、それを広告主のマーケティングに生かす用途が考えられる。

 マイクロソフトはすでにAI分野において業界のリーダーであるため、1億人の若いTikTok米国ユーザーの生み出すデータはまさに宝の山であり、広告業とのシナジーが得られよう。そうした将来性も考慮に入れ、米ウェドブッシュ証券は、TikTokが3年以内にマイクロソフトにとって2000億ドルの価値を持つようになると試算している。

“お値打ち価格”で買収できるか

 では、マイクロソフトがバイトダンスからTikTokの全世界のビジネスではなく、交渉中の米国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド事業のみを買収することに意義や価値はあるのか。答えは、「価格次第」であろう。 米報道によれば、現時点での買い値は500億ドルがたたき台になっているとされる。しかし、これはLinkedIn の買収価格の約2倍であり、「本当にその価値があるのか」との声がある。TikTokの米国における年間の売り上げも10億ドルに達すれば「ラッキー」というレベルにすぎない。また、同じく英語圏で、それなりの市場規模を持つ英国が買収パッケージから抜けていることも奇妙である。

 そのため、ブルームバーグのコラムニストであるティム・カルパン氏は、「私見では、TikTokの米国など4カ国の事業はせいぜい200億ドルの価値しかない」と論じている。また、米経済専門局のCNBCは、「マイクロソフトはTikTokを100~300億ドルで買う可能性」などと報じている。

 こうした中、マイクロソフトの共同創業者であるビル・ゲイツ氏が「買収は敵対的なものにはならない」と意味深な発言をして注目された。マイクロソフトが買収価格を値切ることに成功し、100億ドルや200億ドルというお値打ち価格でTikTokを入手できれば、当面の間に同社の他の製品やサービスとのシナジーが見込めなくとも、買っておくことに価値があるからだ。この辺りは、丁々発止の駆け引きであろう。

【次ページ】TikTok買収、トランプの狙いは

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