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- 2021/10/12 掲載
TikTok運営「バイトダンス」がネット広告で“圧勝”しているワケ。斬新すぎる手法の詳細
「ショートムービー」が中国ネット広告収入トップに
中国のネット広告の主戦場が完全にシフトした。「2021ネット広告市場半年大報告」(QuestMobile)によると、メディア別の広告収入ランキングは、ショートムービー、ニュースメディア、SNS、OTV(動画ストリーミング+ライブ配信=Online TV)、検索広告の順となった。中国でも5年前は、グーグルと同じ業態の百度(バイドゥ)の検索広告が強く、中国のテックジャイアントを表す際に、BAT(百度、アリババ、テンセント)という言葉が使われた。しかし、検索広告市場の縮小とともにこの言葉は次第に使われなくなり、HAT(ファーウェイ、アリババ、テンセント)やATM(アリババ、テンセント、美団(メイトワン)または小米(シャオミ))という言葉が使われるようになっている。
ネット広告市場で百度の存在感が薄くなるのと入れ替わるように頭角を表したのが字節跳動(バイトダンス)だ。2012年に創業されたバイトダンスは、AIを使ったリコメンドシステムを中核技術に、ニュースキュレーションメディア「今日頭条」、ショートムービーメディア「抖音(ドウイン)」で成功し、抖音の国際版である「TikTok」で海外進出にも成功した。
これらのプロダクトは、利用者からも圧倒的に支持をされているが、それだけではなく、圧倒的な広告収益力を持っている。プラットフォーム別のネット広告収入シェアのランキングでは、抖音と今日頭条が1位、2位で、2つのシェアを合計すると45.7%にもなる。バイトダンス単独で中国のネット広告収入のほぼ半分を稼いでいるのだ。
バイトダンスは未上場であるため財務状況は非公開になっていたが、2021年6月に2020年の財務状況を公開した。それによると、営業収入は2,366億元(約4兆円)となり、百度の2倍、テンセント、アリババの2分の1程度になっている。バイトダンスはわずか創業9年で、中国を代表するテック企業に成長した。
“素人クオリティー”でも効果は絶大
日本では抖音を直接見る方法がないため(国際版であるTikTokがインストールされる)伝わりにくいかもしれないが(抖音広告事例は後述する)、従来の広告、特にテレビCMを念頭に置くと、かなりびっくりされると思う。まるで、素人がさっきスマホで撮影したような内容なのだ。テレビCMのように高級感のある画面づくりや演出がされているCMはほとんどない。たとえば、日用雑貨の広告では、ひたすらその雑貨の便利さが紹介される。ナレーションは明らかに素人で、販売会社の手の空いている人がついでにやったような手作り感がある。フルーツの広告では、産地の農家が出演して、方言の強い中国語でそのフルーツのおいしさや栽培方法を説明する。iPhoneの広告も、アップルではなく、取り扱いをしている販売店やEC業者が広告を出すため、洗練されたイメージなどまるでなく、ひたすら他よりも安く、早く手に入ることが訴求される。
一番考えさせられたのが、冷凍焼き小籠包の広告だ。社員らしき男女2人が、ひたすら小籠包を作り、食べているだけで、商品の説明も何もしない。しかし、見ているだけでおなかがすいてきて、注文したくなってしまうのだ。
映像広告というより、大昔に店頭で呼び込みや実演が行われていた様子を映像化した感覚に近い。広告制作のプロから見れば、抖音の広告はかなり粗雑な作りに見えると思う。しかし、コンバージョン(購入転換率)という面では圧倒的な効果をあげているのだ。これは一体どういうことなのだろうか。
【次ページ】バイトダンスがネット広告もたらした「3つの変化」
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