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- 2021/12/15 掲載
なぜ国産手術ロボットは「勝てない」のか? これから残る病院、消える病院
前編はこちら(この記事は後編です)
初の国産「ヒノトリ」がダビンチに勝てない理由
ファーストランナーである手術ロボット、ダビンチ。その強さの理由は、決して長年保持してきた特許技術だけではないという。「インテュイティブ社の初代CEOは外科医のモー医師、基本はこの出自でしょう。現在のCEOゲイリー・グットハート氏はもともとエンジニアで、外科医たちと非常に距離が近い存在です。彼に要望やアイデアを話すと翌週にはもう決定されています。臨床のニーズに敏感で、とにかく決断と行動が早い。これが他の共同出資会社にはない強さの源です。
たとえばヒノトリのメディカロイド社も共同出資会社の2社からそれぞれツートップが就任していますが、グットハート氏が一人で判断できるインテュイティブ社とは決断スピードの差は歴然です。またダビンチは心臓の冠動脈の吻合という1mmの血管吻合ができることを目指して開発されました。最初からハードルが高かったのです。これが他臓器へ簡単に応用できるだろうと多くの外科系医師に印象付けました」(渡邊氏)
ダビンチと渡り合うためには、経営判断や企業マインドという、技術以外でのブレイクスルーも欠かせない。日本の手術ロボットに勝ち目はないのだろうか。
「日本の技術力は本当に素晴らしいものがあります。それこそソニーやパナソニックなどが本気でやれば、手術の穴を1cm以内にすることだって容易かもしれません。しかし訴訟リスクや企業のイメージダウンにも敏感で技術としてはできるのにやらない、踏み切らないということは往々にしてあります。
たとえば卑近な例で車の世界にたとえれば、国産有名ブランド某社“L”がどれだけ機能や快適性が素晴らしかろうとも、世界の多くの車評論家の評価が上がらないのと一緒で、20人の合議制で総花的な売れ線商品を作っても、底に流れる哲学がないので、真の車好きには受け入れられないし、魂も震わせられない。たとえばベンツのように“乗客は1人たりとも死なせない”とか、英国のアストンマーチンのような“noblesse oblige”(社会的な地位の者はそれに応じて果たすべき社会的責任がある)といった他者がどうあろうと譲らない哲学が感じられません。
インテュイティブ社のダビンチには“人間の手でもできないかもしれない1mmの血管さえもつなげるぞ”という強い開発者の思い、コンソールをのぞき込んだら出る”ダビンチワールドにようこそ”といった心意気を感じます。だから世界中で皆がこぞって買うのではないかと思います。
もちろん、日本人として、ぜひ国産ロボットには頑張ってほしいです。ダビンチよりも魅力的なものが登場すれば、私も使いたいと思います」(渡邊氏)
ロボット手術に「感触」は必要か
日本でもうひとつ注目されているのが、東京工業大学と東京医科歯科大学による国立大学発のベンチャーとして2014年に誕生したリバーフィールド社だ。東レエンジニアリング、第一生命、SBIインベストメントなどが出資している。同社は空気圧を利用した技術を武器に、空気圧駆動型の内視鏡ホルダーロボット「EMARO(エマロ)」を開発。同技術を進化させ、執刀医に手の感触が伝わる手術支援ロボットの開発を進めている。
3D画像を手がかりに手術を行うダビンチにはない“触感”という新たな機能に期待が高まる。しかし、渡邊氏は「触感は不可欠ではない」という。
「触覚をキャッチするタクタイルセンサーについては、15年ほど前、開発当初のダビンチでも検証が行われました。センサーをつけたグループとつけないグループを比較したところ、3カ月後にはセンサー無しのグループの方が、手術がうまくなったという結果が出ています。
私も実際にダビンチで手術をするようになってその理由を体で分かったのですが、はじめは圧力の具合が分からないから、組織が潰れてしまうんじゃないかと怖いのです。でもだんだん感覚がつかめてくると、触感がない分、3Dで見た視覚と動きがワープしたような、視覚を触覚におきかえるいわゆる“共感覚”でフィードバックできるようになってきます。
そのおかげでロボットを使わない通常の開胸手術をしたときに、こんなに簡単にできる!と手術の精度が上がりました。触感がなくても手術できるようになることは、外科医の成長のためにも必要なのではないかとすら感じています」(渡邊氏)
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