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  • 2022/04/01 掲載

製造・物流・サービスが入り乱れるロボットシーン、2022国際ロボット展に感じた潮目

森山和道の「ロボット」基礎講座

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人手不足が深刻化し、AI技術が発展するなか、自動化技術はこれからも確実に伸びる。ロボットシーンは次のステージに行くための新たな踊り場に差しかかっているのかもしれない。これまでのロボット各社はさまざまな新規用途へ本格的に進出しようとしており、AIスタートアップは新たな分野で飛躍を狙っている。これらが入り乱れる「2022国際ロボット展」の会場は、まさに混沌としていた。もしかすると潮目が変わる直前の状況にあるかもしれないロボットシーンの一断面を見ておこう。

執筆:サイエンスライター 森山 和道

執筆:サイエンスライター 森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

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人機一体「零式人機 ver.2.0」。高所作業車の先端に付けて動かす肩幅120cmの大型ヒューマノイド

製造、サービス、物流が相互に交差し混沌としたロボットシーン

 2年に1度のペースで開催されている「2022国際ロボット展」が3月9日から12日の日程で開催された。今回は東京五輪や新型コロナ禍の影響を受け、前回2019年12月の「2019国際ロボット展」からは久しぶりの大規模リアル展示会となった。ただし、入場者数は、来場者数14万1133名だった2019年に対して、「2022国際ロボット展」は半分以下の6万2388名に止まった。蔓延防止期間の開催となったためだ。なお、今回はハイブリッドで、オンラインでも行われた。

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川崎重工の汎用サービスロボット「ニョッキー」

 さて、今回のロボット展の内容はどうだったのか。この記事で各社の細かい出展内容にまで一つ一つ触れることは不可能だし、来場者やメディアから熱い注目を浴びていた川崎重工のヒューマノイドや、人が乗っても大丈夫なくらいの可搬重量を持つヤギロボット、人機一体社の遠隔操作で動く巨大上体ヒューマノイド、明和電機のオタマトーンを演奏するヒューマノイドなどの話は、後で触れることにしよう。


 それらをいったん置いておいても、改めて振りかえると、一言でいうとカオス、混沌だったと思う。もともとロボット展は、産業用ロボットゾーンとサービスロボットゾーンに分けられている。今回は物流ロボットなどを中心とするマテハン(マテリアル・ハンドリング)ゾーンも新設されるなど、展示会場は一応、分野ごとに分けられている。

 だが実際はどうかというと、必ずしもはっきり分けられているわけではない。メーカー側でもさまざまな思惑があるのだろう、産業用のゾーンにもサービスや物流用途のロボットソリューションが出展されているし、そもそもロボット活用がこれから伸びると想定されている三品産業(食品・医薬品・化粧品)向けのAIとロボットの組み合わせは、あちこちのブースに散らばっている。ロボット展は、特定の興味だけに絞り込むにしても「この辺だけ見ればいい」というわけにはいかない展示会なのだ。来場者は会場全体を回らざるを得ない。


 それに加えて今回は面白い流れがあった。製造からサービスへ、逆にサービスで培われた技術を製造分野へといった技術と用途の交差である。たとえばスタートアップのMujinは物流分野の自動化で知名度を上げた会社だが、今回は物流よりも製造現場向けソリューションを大々的に押し出してブースを展開していた。同社の経営判断としても興味深い。

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MujinのFA向けロボット。AGVと組み合わせて工場内物流無人化を提案

 Mujinだけではない。以前から申し上げているように、製造業から出て来たソリューションや産業用ロボットが物流分野で積極的に使われるようになったことは昨今の大きな流れの一つである。さらにここに来て、物流分野から再び製造業へ回帰する動きは、各社のブースで見られた。つまり、工場の構内物流の自動化である。物流分野で磨かれた自動化技術を使って、製造設備と製造設備の間の部品の搬送などを自動化しましょうという流れだ。

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中西金属工業の構内用無人フォークリフト「ROBO Fork 15」。完全無軌道で誘導線の敷設も不要

 これも以前からある流れなのだが、ここに来て、さらに本格化しようとしている。人手不足がさらに深刻化し、人には、より付加価値の高い仕事をやってもらわないと困るようになっているのだろうということが、こういった面からも感じられる。


自律的に改善サイクルを回す次世代工場で人と協働するロボット

 同じく「ロボットと人との協働」も10年くらい前から続く流れだが、回を重ねるに従って本格的になっている。協働ロボット、つまり作業者が協働空間に存在していても使えるロボットの活用である。協働ロボットを使ったマシンテンディング(加工機へワークをセットする作業)や溶接、パレットに荷物を積むパレタイズや、荷下ろしをするデパレタイズなどさまざまなソリューションが紹介されていた。

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ファナックの協働ロボット

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ユニバーサルロボットによるマシンテンディングのデモ。パレットチェンジャー搭載加工機との組み合わせ

 協働ロボットは安全のため動作速度は遅い。ただ昨今は協働ロボットのなかでも、人が周囲にいないとき、そしてリスクアセスメントを接触状況に合わせて細かく適切に行うことで、必要に応じて高速に動ける新たなタイプが登場し始めてる。使い方次第では、「協働ロボットは遅い」という常識が打ち破られるかもしれない。また、海外から新規企業も乗り出し始めている。

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ドイツNeura roboticsの協働ロボット「MAiRA」。3次元スキャナで点群を取得してGPUで処理する。知能化された協働ロボットとして注目されている

 加えて、既存の産業用ロボットの知能化により、従来は人手でなければ困難だった組立作業や、目視検査の自動化も可能になりつつある。そして生産現場全体をつないで知能化させて、データを使って自律的に改善サイクルを回そうという考え方を、あちこちのメーカーが打ち出している。ロボットやAIを用いることで滞留やムダをなくしつつ、製造のムラを減らして歩留まりを向上させる。

 いっぽう上位の層では需給の波動に従って製造現場をコントロールする。しかもそのような改善を、人の介入なし、つまり自律的に行う。もちろん人が不要になるというわけではない。機械が人をサポートすることで従来よりも高度な次元で協調できるようになり、新しいモノ作り現場ができるようになる。そういう考え方を複数のメーカーがアピールしている。

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オムロンによる人と機械が協調するセルライン。モバイルロボットの多能工化も提案

 各社それぞれ別々に考えた構想のはずなのだが、個別の言葉の使い方や細かいところは無視して話を抽象化してしまうと、かなり似通っている。異口同音に似たコンセプトが提唱されるということは、これはもう時代の要請ということなのだろう。おそらく、これから各社はどうやって差別化していくかを強く意識して、個別のAIや計画立案、製造実行システムなどの性能の違い、あるいは既存システムとの相性などをアピールしていくことになるのではないだろうか。

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三菱電機ブース。人とモバイルマニピュレータの協調による組み立て

 協働ロボット、さらに協働ロボットを移動台車の上に載せて移動が可能なモバイルマニピュレーターの数も増えていた。まだ実際の現場で活発に使われているというほどではないようだが、それらを使って人とロボットの協働をアピールするデモでは部品の配膳などが多い。つまり、人の作業状態をセンサーを使ってシステムが見ていて、ロボットが部品供給などで手助けするというものである。いちいち人が部品を取りに行く無駄な手間が減り、作業現場の利用効率が高くなる。

 これら製造業の生産支援を行うための技術や考え方の一部には、サービス分野のロボット技術が還流しているようにも感じられた。芝浦機械の生産現場用の双腕生産支援ロボットなどはその一例かもしれない。移動ロボットの技術はサービス分野でもだいぶ磨かれている。それに加え、急速な普及に伴って、一般人にさえ移動ロボットが見慣れたものになり始めている。社会全体がロボットに慣れつつあることは、将来、大きな影響をもたらし得るのではないだろうか。


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