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  • 2022/04/15 掲載

グーグルが量子技術の「SandboxAQ」をスピンオフ、米政府も本気のポスト量子暗号技術

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グーグルの親会社、アルファベットはこのほど、社内の量子テクノロジー開発グループを「SandboxAQ」というスタートアップとしてスピンオフさせた。同社はグーグルの元CEOであるエリック・シュミット氏を会長に迎え入れ、主にポスト量子暗号技術を開発している。ポスト量子暗号技術は、NATOや米国政府も注目する技術。SandboxAQが取り組むポスト量子暗号技術とはどのような技術なのか、同技術をめぐる最新動向を探ってみたい。

執筆:細谷 元、構成:ビジネス+IT編集部

執筆:細谷 元、構成:ビジネス+IT編集部

バークリー音大提携校で2年間ジャズ/音楽理論を学ぶ。その後、通訳・翻訳者を経て24歳で大学入学。学部では国際関係、修士では英大学院で経済・政治・哲学を専攻。国内コンサルティング会社、シンガポールの日系通信社を経てLivit参画。興味分野は、メディアテクノロジーの進化と社会変化。2014〜15年頃テックメディアの立ち上げにあたり、ドローンの可能性を模索。ドローンレース・ドバイ世界大会に選手として出場。現在、音楽制作ソフト、3Dソフト、ゲームエンジンを活用した「リアルタイム・プロダクション」の実験的取り組みでVRコンテンツを制作、英語圏の視聴者向けに配信。YouTubeではVR動画単体で再生150万回以上を達成。最近購入したSony a7s3を活用した映像制作も実施中。
http://livit.media/

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SandboxAQは元グーグルCEOのエリック・シュミット氏を会長に迎えている。写真は米上院での国家安全保障巡る公聴会のときのもの
(写真:AP/アフロ)


アルファベットから量子技術企業がスピンオフ

 Sandboxは、アルファベット内で2016年に設立された研究開発グループ。深層学習や量子技術の専門家であるジャック・ヒダリー氏が同グループの責任者を務めていた。

 スピンオフするSandboxAQのCEOには、このヒダリー氏が就任する。

 テックメディアCIOによると、SandboxAQは2つの研究開発分野に注力している。1つは、ポスト量子暗号システムの開発、もう1つは地球物理学的なシグナル(地場や重力場など)を用いたGPSに代わる測位システムの開発だ。

 2つ目の研究開発分野は、GPSが使える状況下、これまで特に喫緊の問題とは認識されていなかったが、ウクライナ危機でその重要性が再認識されつつある。

 欧州航空安全機関の報告によると、ウクライナ危機ではGPSの妨害やスプーフィングが多数発生し、航空ナビゲーションシステムが影響を受けるリスクが高まったという。

 またGPSに依拠しないナビゲーションシステムは、GPSシグナルを受信できない場所でのナビゲーションを可能にすることから、自動運転車開発への活用の可能性もある。

 ビジネス的な観点では、ポスト量子暗号システム事業の立ち上がりのほうが早いかもしれない。

 実際、同社Webサイトによると、ソフトバンクモバイル、ボーダフォン、米マウント・シナイ・ヘルスシステムなど大手企業向けに、ポスト量子暗号技術を用いたネットワーク保護の取り組みが始まっているという。

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SandboxAQのホームページ。AIと量子の力で難題の解決にあたるとうたう

ポスト量子暗号技術と「Y2Q問題」

 ポスト量子暗号技術によるネットワーク保護は、NATOや米政府も本格的な取り組みを始めた分野、SandboxAQのスピンオフは時宜を得た動きといえる。

 ポスト量子暗号技術によるネットワーク保護への関心の高まりの背景にあるのが「Y2Q(Year Two Questionnaire)問題」だ。

 Y2Qとは、RSAなど現在用いられている暗号アルゴリズムが、量子コンピューターによってすべて解読されてしまう問題を指す。

 国家アクターやテロ組織などによるサイバー攻撃が増加しているが、もしこのようなアクターらが量子コンピューターを持つと、既存のアルゴリズムで暗号化されたあらゆる情報が丸裸になってしまうのだ。安全保障が脅かされるのは、想像に難くない。

 英国のポスト量子暗号スタートアップPost-Quantumのアンダーセン・チェンCEOがVentureBeatに語ったところによると、Y2Qに関する一般的な議論では、量子コンピューターで既存の暗号アルゴリズムを解読するには、安定した商業向け量子コンピューターが必要であり、その量子コンピューターが登場するのは10~15年先のこと、つまり脅威に対応するまで10年ほどの猶予があるとされている。

 一方、チェンCEOはこの主張は間違いだと指摘する。

 既存の暗号アルゴリズムの解読は、安定した商業的な量子コンピューターではなく、研究開発段階の不安定な試作機でも十分に可能だという。そして、その試作機による脅威は、おそらく3~5年ほどで現実のものになると警告を鳴らしている。

 また、すでに盗まれた過去のデータに関して、それが暗号化されていても、量子コンピューターの試作機によって解読されてしまう「遡及的な攻撃(retrospective attack)」も脅威になるという。

 悪意のある国家アクターやテロ組織は、これを見込んで「データを窃盗して、後で解読(hervest now, decrypt later)」というサイバー攻撃をしかけることも想定されている。

【次ページ】NATOや米政府の動き

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