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- 2022/05/12 掲載
イーロン・マスクのツイッター買収劇、「言論の自由」に隠された“したたかな真意”
連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

ツイッターの広告収入はフェイスブックの足元にも及ばない
まず、ツイッターの年間広告売上と、Twitter上の金融やニュースなどの情報をデータ解析できるデータライセンス事業の年間売上は、ドイツの調査会社statistaがまとめた資料によると、下のグラフで示されるようにここ10年ほどで右肩上がりに伸びてきた。そのため、ツイッター単体だけで見れば、将来性が良好であるように思える。ところが、この数字をグーグル・アマゾン・フェイスブックという米デジタル大手3強の年間広告売上と比較すると、小さな存在にすぎないことがわかる。米調査会社のeMarketerが2021年11月3日に公開した記事では、ツイッターを「その他」に分類している。
直近の2021年においては、ツイッターの年間広告売上が45億ドルであるのに対し、フェイスブック(メタ)は1,149.3億ドル、グーグルが2,094.9億ドルなど、足元にも及ばない状況だ。
加えて、Twitterの月間アクティブユーザー数が4億3600万人であるのに対し、メタ傘下ソーシャルメディアのFacebookが29億1000万人、同じくメタのWhatsAppが20億人、同Instagramが14億7800万人、動画サイトTikTokが10億人など、ほかのSNSに水をあけられている。
ツイッター低迷の根本原因は「イノベーション不足」
さらに根源的な問題であると指摘されるのが、「イノベーション不足」だ。ツイッターのサービスは基本的に2006年の創業当時から変化しておらず、たとえばInstagramがストーリーと呼ばれる新機能を追加することで爆発的に伸びたような革新的変化に欠ける。また、TikTokが後発でありながら先行者である米プラットフォーム大手を脅かす勢いで成長した要因の一つである、フィードの見せ方のような新たな工夫もない。ツイッターはこれまでに、月額有料制サブスクリプション「Twitter Blue」や、ボーナスコンテンツや独占的なプレビューなどの特典が提供される「スーパーフォロー」など、収益化を狙った新機軸を近年打ち出したものの、収益の柱に育つには至っていない。
さらにツイッターは、株価も低迷中である。2021年に75ドルを超える局面も見られたが、2022年に入って30ドル台をさまよい、マスク氏の買収話によりやっと50ドル近辺にまで回復した。最近の経営が投資家の信頼を得られていないことがわかる。
前CEOのジャック・ドーシー氏はツイッターではなく、自身が熱情を注ぐフィンテック企業Block(元Square)の経営に気を取られており、イノベーションが進まなかったとされる。さらに、現CEOのパラグ・アグラワル氏は明確な変革のビジョンを示せていないように見える。
そうした背景の下、ツイッターの2021年は2億2100万ドルの赤字となった。このような希望の持てない状況にあったからこそ買い手がつかず、当初はジョークだと思われていたマスク氏による買収の話がまとまったのだ。
この合意によって米国内ではあらゆる憶測が飛び交い、中にはツイッター買収をキャンセルする可能性すら指摘されている。一方で、買収の真の意図についての議論は少ない。マスク氏は何の目的で買収を提案したのか、どのような経営で業績を伸ばしていくつもりなのか。
【次ページ】「言論の自由」に隠された真意と「5つの収益改善策」とは
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