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顧客一人ひとりの属性データやネット上の行動データなどを収集・統合・分析するプラットフォーム「CDP(Customer Data Platform)」に注目が集まっています。個人情報保護法の改正やGDPR(個人情報保護委員会)などのセンシティブなデータへの利用制約が広がっていることもCDPが期待を集める理由の1つです。この記事ではアイ・ティ・アール(ITR) 水野慎也氏監修のもと、CDPの基本知識・市場規模、主要機能などについて解説するとともに、製品比較・選定のポイント、トレジャーデータ、ブレインパッド、b→dash(ビーダッシュ)などの代表的なツールの特徴を合わせて紹介。マンガ動画でもわかりやすく解説します。
以下の動画ではマンガでもわかりやすく解説しています
連載一覧:デジタル・マーケット・アイ
CDPとは何か?
CDP(Customer Data Platform)とは、顧客に関するあらゆるデータを蓄積・統合・分析することによって、顧客1人ひとりに最適なアプローチの方法を導き出す支援をしてくれるマーケティングツールです。
CDPに取り込むことができるデータは、自社で収集できる顧客の属性データ、Webサイトのアクセスログ、購買履歴といったファーストパーティデータに加え、グーグルなどのような第三者機関から収集できる位置情報や推定年収といった匿名のデータ(サードパーティデータ)など幅広くあります。顧客に関わるデータであれば、ほぼすべてのデータを取り込んでいくことが製品のコンセプトになっています。
中でもポイントは、CDPに取り込んだあらゆる顧客に関するデータを、特定個人を識別する顧客IDデータと結びつけることができる点でしょう。CDPを活用すれば、顧客1人ひとりの嗜好を理解して洞察を得ることができるため、その後のマーケティング活動(メール配信、広告配信など)に生かすことができます。
CDPとは何か?
CDPは、自社サイトのアクセスログや顧客データ、購買データなどを統合・正規化し、各種のチャネル(メール配信システムや広告配信システムなど)に、セグメントされた情報の作成と活用を目的とする製品・サービスである。
(出典:ITR)
「CDPは顧客の行動と意識を可視化するためのソリューションとして、デジタルマーケティング分野において地位を確立しつつあります。コロナ禍においてオンラインとリアルの双方の行動と意識を一貫して捕捉し、データとして蓄積する同ソリューションへの期待は今後も増すと予想されます。これからのCDPには、大量データの高速処理に加えて、得られた行動と意識データを顧客IDに漏らさず紐づける正確さが求められます。CDPへの機能要求はさらに拡大すると見られます」(水野氏)
CDPの基本機能
CDPの役割は、顧客一人ひとりに最適なアプローチができるよう支援することです。そのためCDPには、得られた大量のデータを蓄積し、高速処理に加えて、顧客IDに漏らさず紐づける正確さが求められます。
「CDPの基本機能は、簡単に言うと顧客IDに紐づいたデータを入れる巨大なデータウェアハウスです。検索したり、買い物したり、問い合わせしたり、メールを送ったりというログを丸ごと蓄積しながら、自動で顧客のプロファイルとセグメントを形成します」(水野氏)
CDPは、大別すると次の3つの機能を備えています。
(1)データ収集機能(顧客行動ログを取り込んで蓄積)
CDPの3つの機能のうち、1つ目は膨大なデータを集める「収集機能」です。取り込むデータは、顧客の「氏名」「年齢」「性別」といった基本属性のほかに、アクセスログ、購買履歴、SNSや動画サイトのソーシャルデータ、アプリの利用履歴などに加え、CRM(Customer Relationship Management)など外部システムのデータまで幅広くあります。データのタイプも数値データなどの構造化データから、文章や画像などの非構造化データまで獲得できるのが特徴でしょう。またリアル店舗のPOSデータや、GPSを使った位置情報などと連携できるCDPもあります。
(2)データ統合機能(データのプロファイルとセグメントを生成)
収集したデータを「格納する」部分にあたるのが、この「統合機能」です。データを顧客IDに紐付け、個人のプロファイルを作成していきます。そして、似たようなプロファイルを持つ顧客同士をグルーピングしてセグメントを作成します。顧客の嗜好ごとにグルーピングしておくことによって、次のマーケティングアプローチへスムーズに移行することができます。
(3)データ分析機能(マーケティングツールと連携)
CDP自体にはメール配信など、マーケティングそのものを行う機能がないことが多いです。一方で、ほかのマーケティングツールと連携する「分析・活用機能」は有しています。メール配信やWeb施策を効果的に打つ、顧客分析に活用するなど、1人ひとりの嗜好に合わせた顧客へのアプローチを効率化することができます。
CDPとプライベートDMPの違い
CDPに近いソリューションとしてDMPがあり、DMPにはプライベートDMPとパブリックDMPがあります。プライベートDMPでは、自社が直接顧客と関わったデータ(ファーストパーティデータ)を中心に扱います。一方で、パブリックDMP(オープンDMPとも言う)は、サードパーティデータと呼ばれる匿名の顧客データを扱います。
CDPはプライベートDMPと似た概念ということになります。ではCDPとプライベートDMPはどのように違うのでしょうか。
「CDPという言葉が出てきたのは、2018年頃とごく最近です。CDPとDMPはほぼ同義ですが、CDPは顧客IDの紐付けを1対1まで落とし込めるところが最大の違いです」(水野氏)
その点で比較すると、CDPは顧客1人ひとりを深く理解できるので、ワン・トゥ・ワン(1to1)に近いアプローチが可能となるところが大きな特徴となっています。
一方、DMPはセグメント分けまではできますが、より1人ひとりに合わせたアプローチをするのであればCDPの方が適している、というのが水野氏の見解です。
CDPが必要とされる理由
CDPが生まれた背景は、セールスフォースオートメーション(SFA) やマーケティングオートメーション(MA)など、デジタルマーケティングツールと深く関わっています。
ネット上のカスタマージャーニーは、顧客の認知度向上に始まって、購買意欲の醸成、成約、リピーター化に至るまで、顧客とエンゲージメントを長期にわたって築くことが求められます。
そこで、顧客1人ひとりに最適なコンテンツの広告を打つために、データを網羅的に集める“箱”が必要とされるようになってきたのです。
「顧客の注意・興味を引くといった『認知』の部分に広告を当てようとした場合、下図にあるデータ群をすべて網羅して顧客の行動や意識を可視化することが必要です。そうしたデータを貯め、管理しておくために生まれたソリューションがCDPなのです」(水野氏)
CDP導入のメリット
CDPを導入することによって、どのようなメリットがあるのだろうか。水野氏は次の4つのメリットがあると述べます。
(1)1人ひとりを深く理解できる
顧客が購買に至るまでの道のりは、さまざまなパターンが考えられます。CDPは顧客の行動や嗜好を深く理解し、可視化するので、顧客1人ひとりの行動パターンに寄り添ったアプローチが取れるようになります。
(2)マルチチャネルデータを蓄積できる
顧客との接点はWebサイトに限らず、店舗、スマホアプリ、インスタグラム、LINE、メルマガなど多岐に渡ります。しかもキャッシュレス決済の増加や、無人販売の進展によって、データが複数の箇所に保管されてしまうケースも少なくありません。CDPであれば、あちこちに点在する顧客データを1つのデータウェアハウスにまとめておくことができます。
(3)作業を高速処理できる
膨大なデータをすべての顧客IDに紐づけて統合する作業は、大変な負担と時間を要します。しかし、優れたアルゴリズムと分析によって、顧客のセグメンテーションを高速で自動仕分けしてくれる機能を持つCDPもあります。
(4)ファーストパーティデータを利用できる
個人情報保護法の改正を背景に、Cookieによって集めたサードパーティデータを使うことが難しくなった。自社で保有しているファーストパーティデータを集めるCDPであれば、データの一元管理をしながら、個人情報保護法の改正に対応することも可能である。
CDP市場
CDPは、効果的なカスタマーサクセスが期待できるツールとして、年々、企業の注目度が高まっています。ITRの調査によれば、2020年度のCDP売上金額は87億円と、前年度に比べ16.6%増加しました。
「CDPはデジタルマーケティング分野において地位を確立しつつあります。オンラインとリアルの双方の行動と意識を一貫して捕捉し、データとして蓄積する同ソリューションへの期待は今後も増すと予想されます」(水野氏)
2021年度の数字は暫定的ではありますが、前年度と同等の伸びを維持するベンダーが多いものと見られ、市場規模は100億円を超えることがほぼ確実視されています。各社が積極的なマーケティング活動を進めたことにより、市場の認知度も高まっています。今後も幅広い業種で導入が進むと見られ、同市場のCAGR(2020~2025年度)は17.9%と予測されています。
CDP主要プレイヤー
CDP製品を謳うベンダーは、オラクル、SAP、セールスフォース、マイクロソフト、Adobeなど数多くあります。その多くはマーケティングオートメーション(MA)ツールに付随する機能として提供している傾向があります。そのため、今回はCDP機能をメインとするプレイヤーに絞って、各社の製品の特徴を紹介します。
(1)ブレインパッド:『Rtoaster』
データ分析に強みのある企業で、同社のCDP製品である「Rtoaster insight+」はその名の通り、顧客インサイトの分析に強みがあります。SQLによる操作に加えて、直観的に扱うことができるGUIを備えています。
分析データに基づいて、Webサイトのレコメンドエンジン、プッシュ通知やLINE配信ができる同社ツールとの連携もうたっています。
(2)データX(旧フロムスクラッチ):『b→dash CDP』
もともとマーケティングオートメーション(MA)ツールとして開発された「b→dash」がCDP領域まで機能拡張をしてきた背景を持ちます。ノーコードで利用できて、MAはじめとするマーケティングツールとの連携まで可能なオールインワン、業種テンプレートなどが豊富にそろっていることなどが特徴です。
(3)Tealium(ティーリアム):『Tealium Customer Data Hub』
主に海外で注目を集めているデータ管理ツールの企業です。データ管理の煩雑さをタグマネジメント形式で管理できる「Tealium iQ タグマネジメント」とCDP製品「Tealium AudienceStream CDP」、両製品で蓄積されたデータを分析する「Tealium DataAccess」などのラインナップを持ちます。
他社製品と比較すると、リアルタイム処理に強みを持つと言われています。たとえば、移動中などの顧客の位置情報を検知してリアルタイムに分析し、最適な広告を打つといったことも可能です。
Tealiumがもう1つ特徴的なのは、ファーストパーティデータの利用可否を区別する同意管理機能を持っているところでしょう。今後、個人情報保護法が強化された場合、この同意管理機能は重要になってくるでしょう。
(4)トレジャーデータ:『Treasure Data CDP』
グローバルでトップシェアを持つ企業で、CDPという概念を世の中にもたらした企業とも言われています。同社の「Treasure Data CDP」は高速かつ大量に、データを顧客IDと紐づけできるところに強みを持ちます。大量データ処理能力、ならびにデータを取り込む入口と、データを活用する出口が豊富な点も特徴です。
なお、2022年5月に同社とLINEは業務提携契約を結び、プライバシー保護と企業のマーケティングニーズを実現するデータクリーンルームソリューションを共同開発することを発表しています。
なお、データクリーンルームとは、個人を識別するデータ(PII)を除去・加工し、データ分析に活用できるようにする仕組みを指します。グーグルによるサードパーティデータ廃止が決まっている中、サードパーティデータに頼ることなくデータ分析ができる仕組みとして注目されています。
具体的な共同開発の内容については、「Treasure Data CDP」の中にある顧客データと、ユーザーの同意を得てLINEが取得したデータを掛け合わせた分析を通じて、顧客インサイトの抽出や、有効なメッセージ・広告配信を行う仕組みの提供を目指しているようです。
CDP導入・製品選定の「3つのポイント」
CDPを選定する時に注意したいポイントとして、次の3点を押さえておきましょう。
利用目的を明確にする
顧客情報を分析する目的は企業によって異なるため、導入前に何を分析し、どのように活用したいか目的をはっきりさせておく。目的が明確になっていれば、分析するデータの種類や量、出口となるマーケティングツールとの連携にも迷いがなくなるでしょう。
今後、扱うデータが増える可能性を視野に入れておく
店舗の無人化やIoT機器の導入などデジタル化が多方面で進んでいくと、予想以上にデータの範囲が広がる恐れがあります。また構造化データだけでなく、SNSのテキストやYouTube動画の非構造化データも必要となるケースもあることも念頭に入れておきましょう。
使いこなせる能力があるかどうか
CDPを使いこなすのには、統計学やデータサイエンスといった専門的な知識は必要ないものの、分析のためのシナリオ設計ができる程度の能力がツールを活用する担当者には求められます。
デジタルマーケティング領域におけるCDPの位置付け
水野氏によれば、CDPを導入する目的は、大きく分けて「顧客のことを深く理解するため」、「購買意欲を醸成するため」、「顧客との関係を深めるため」の3つのポイントがあると言います。
「プライベートDMPは、上記図のポイント2までを役割としていました。しかし、サブスクリプション型ビジネスの流行によって、3番目のポイント、顧客を成功体験に導く(=カスタマーサクセス)の重要性が高まってきています。購買が成立した後にリフトやファンなどを行なって顧客1人ひとりの行動を可視化するために、CDPが求められているのです」(水野氏)
CDPの今後
EUでは、2018年から「GDPR(一般データ保護規則:General Data Protection Regulation)」が施行されている。GDPRでは個人データを取得する際、データがどのように取り扱われるのかを明示した上で、本人から同意(オプトイン)を得ることが義務づけられている。
日本でも2022年4月に個人情報保護法が改正され、Cookieなどの個人情報を第三者に提供する場合、本人の同意が必要となった。
サードパーティデータの取得が難しくなっている今、ファーストパーティデータを直接、個人に紐づけるCDPの需要はますます高まっていくでしょう。
しかし、水野氏は「ファーストパーティデータでも、自分たちの自由に使えるかと言えば、決してそうとは言い切れません」と指摘しています。
というのも、GDPRにおけるオプトインルールに準じたルールが、日本でも示される可能性が否定できないからです。将来的に、利用者本人からデータ利用の同意を取得し、管理するためのツールであるCMP(Consent Management Platform/同意管理プラットフォーム)も必要になってくるかもしれません。
今後大切になってくるのは、個人データの利用に対する、きちんとした社内制度の設計を行うことです。CDP導入と合わせて、個人情報の管理体制はどうあるべきか、しっかりと考えていく必要があるでしょう。
なお、今回、監修協力してくれた水野氏による調査レポート『ITR Market View:メール/Webマーケティング市場2022』ではさらなる詳細が掲載されています。製品導入や比較に悩む企業はぜひ購入を検討してください。
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