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  • 2022/07/12

フードテックとは何か? 宮城大 石川伸一教授に聞く「食」の最新技術動向とその可能性

急激な人口増加、新興国の経済発展、さらに直近ではロシアのウクライナ侵攻に伴う小麦高騰などで、世界中で食料問題への注目が集まっている。その解決策の1つとして期待されているのが、テクノロジーで食料問題に取り組む「フードテック」である。「代替肉」や「培養肉」などの代替タンパク質源で注目を集めるフードテックだが、それだけが扱う領域ではない。国内フードテックの第一人者と言われる宮城大学の石川 伸一 教授に「フードテックとは何か」という基本から、国内外の最新動向などについて話を聞いた。

執筆:井上健語、聞き手:編集部 松尾慎司、構成:編集部 玉田萌

執筆:井上健語、聞き手:編集部 松尾慎司、構成:編集部 玉田萌


フードテックとはいったい何なのか

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宮城大学 食産業学群 教授
石川 伸一 氏
東北大学大学院農学研究科修了。日本学術振興会特別研究員、北里大学助手・講師、カナダ・ゲルフ大学客員研究員(日本学術振興会海外特別研究員)などを経て、現職
 食の生産から製造、卸売、小売を経て消費者まで届き、調理して食べるという食料供給の一連の流れを「フードシステム」と呼びます。現在、この川上から川下への流れの中に多様な技術が入ってきて、さまざまな変革が起きています。その総称が「フードテック」だと捉えています。

 特に注目されているのが、新しい代替タンパク質源である「代替肉」です。これは、大豆やエンドウ豆などの植物性の素材で作られた肉状の食品です。また、家畜や魚などの筋肉から少量の細胞を取り出して培養した「培養肉」も開発されています。さらに、肉だけでなく「代替卵」「代替乳」の開発も進んでいます。

 代替タンパクはフードテックの生産領域における変革ですが、流通や調理の部分でも変革が起きています。たとえば、調理の分野であればロボットによる自動化や初心者でも上手に料理ができるスマート調理家電、レシピを介してネットショッピングや調理ができる「キッチンOS」など、数年前には考えられなかった技術革新が起きています。

 フードテックが注目されるようになったのは、2010年代半ばにシリコンバレーで活躍していたIT系の人たちが食の分野に進出し、スタートアップ企業を立ち上げてからでしょう。食の世界は、"経験と勘"が重視される世界でしたが、そこにIT系のデータ、エビデンスを重視した手法を持ち込んだのです。

 現在は、「インポッシブル・フーズ」、「ビヨンド・ミート」など、さまざまな企業が誕生し、農林水産省『令和2年度 フードテック振興に係る委託調査事業 報告書』の中でも、フードテックの市場規模は2050年までに280兆円に達すると予想されています。

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「代替肉」は最も注目されるフードテックの分野
(Photo/Getty Images)

Z世代も追い風に、広がるフードテック市場

 フードテックが注目されている背景には、世界的な人口増加により、慢性的に食料不足が起きるという予測があります。『世界人口予測2019年(World Population Prospects 2019)』によれば、世界の人口は2019年時点の77億人から2050年には97億人に増加する見込みです。これに伴って、FAO(国連食糧農業機関)は世界の食料生産を増加させる必要性を訴えています。

 もちろん、フードテックが注目される背景はそれだけではありません。気候変動対策もその1つです。たとえば、牛を育てるにはトウモロコシなどの大量の飼料が必要で、トウモロコシを栽培するには大量の水も必要です。つまり、現状の牛肉の生産は環境に高い負荷がかっています。また、牛が出す"げっぷ"に含まれるメタンガスが地球温暖化の原因の1つと考えられています。代用肉や培養肉を使えば、その負荷を下げると考えられています。

 また、飲食業界の人手不足も深刻です。働き手がなかなか集まらない以上、ロボットなどを導入して効率化せざるをえない現状があります。

 植物性の食品が求められる背景には、人々の健康意識の高まりもあります。さらに、ユーロモニターインターナショナルによれば、世界的にヴィーガンやベジタリアンといった「採食主義者」が増えているとの試算もあります。動物愛護、アニマルウェルフェアの観点もあります。

 1990年後半から2010年ごろにかけて生まれた「Z世代」も追い風になっています。こうした若い世代はネットリテラシーが高く、環境問題に強い関心があります。このため、環境負荷の高い従来の肉よりも、植物性の代替肉を好むとされています。したがって、彼らが社会の中心になっていくにつれて、代替肉の市場が広がっていくという見方もあります。

 さらに、代用肉や培養肉が注目されたことで、大量の資金がフードテックを後押ししている側面もあります。

 農林水産省によると、2019年時点でのフードテック分野への投資額は米国が9,574億円、中国が3,522億円に上ると試算しています。なお、同調査によると、日本は97億円と試算されており、ギャップがあるのも事実です。

 このように、さまざまな要因が絡み合って、現在のフードテックの流れができています。

 ただ個人的には、少し消費者が置き去りにされている印象を持っています。消費者の価値観は多様です。消費者は食べ物に対しておいしさ、安さ、健康、利便性など、さまざまな価値を求めます。こうした要求に応え、消費者のメリットを追求するフードテックが主流であってほしいと思います。

【次ページ】消費者の本音は「おいしくないなら食べない」

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