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- 2025/05/21 掲載
e-fuel(合成燃料)とは何か、トヨタやENEOSも大注目「8年で10倍の成長産業」を解説
東北大学大学院応用化学修了後、大手製造業で電子材料などの製造開発に従事。その後、地方公務員の化学技術職として、製造業者など多数の企業に対し、廃棄物処理など環境分野での施策を実施。ビジネス系webメディアや製造業者のwebサイトなどで主に取材・執筆を行う。新著に『ビジネス教養として知っておくべきカーボンニュートラル』(ソシム)がある。
e-fuelとは何か
e-fuelとは、CO2とH2を原料にして人工的に生成される燃料のことであり、ガソリンや軽油、灯油などの代替として利用可能である。原料となるCO2は、発電所や工場などから排出されたもののほか、「DAC(ダイレクトエアキャプチャー)」技術を使って大気中から直接分離・回収したものが使用される。また、H2は再生可能エネルギーを利用した水の電解(electric)によって得られる「グリーン水素」が使われる。e-fuelは、通常のガソリンなどと同様に燃焼時にCO2を排出する。しかし、原料にCO2を利用するため、CO2の排出量と吸収量が相殺され、カーボンニュートラルである「脱炭素燃料」と言われているのだ(図1)。
近年、カーボンニュートラルの実現に向けて、電動化や水素エネルギーの活用が進められているが、これらの導入のハードルが高い分野を中心にe-fuelへの期待が急速に高まっているのだ。
e-fuelの市場規模
Fortune Business Insights(フォーチュン・ビジネス・インサイト)の調査レポートによると、世界のe-fuelの市場規模は2024年に87億5,000万ドル(約1.3兆円)だった(図2)。主に北米でのシェアが高く、ほぼ半数を占めている。また自動車、海洋、産業、航空など使用用途別に見ると、自動車が最大のセグメントで約3割に上った。
同レポートでは、消費者層の環境問題への認識や各国・地域で続々と施行する環境関連の法律の導入などでe-fuelへの需要が高まっていく見通しを示している。そして、2025年には117億4,000万ドル(約1.7兆円)、2032年には879億2,000万ドル(約13兆円)にまで成長する見込み。2024年から2032年の間のCAGR(年平均成長率)は33.33%に上る予測だ。
e-fuelの「4つのメリット」
ここではe-fuelを利用することのメリットについて、4点を紹介する。■「既存のガソリン車」などでも利用可能
e-fuelなどの合成燃料の最大のメリットは、ガソリンや軽油と同じように使えるため、既存のガソリン車や軽油車で燃料としてそのまま使えること。もちろん、既存のガソリンスタンドの設備で使えるため、新たな設備を導入する手間やコストがかからない。
■ガス燃料や電池よりも高い「エネルギー効率」
液体燃料全般に言えることだが、水素ガスなどのガス燃料や電池と比べて、同じ体積または重量あたりのエネルギー密度が高い(図3)。

つまり、液体燃料はより少ない量で多くのエネルギーを有していることになる。EVよりもガソリン車の方が、長距離移動に向いているのもこのためである。
■災害時でもカンタン供給
積雪などにより停電した地域や、高速道路などで立ち往生した自動車に対して、液体燃料であると供給しやすい。また、災害対応機能を有する既存のサービスステーションや燃料タンクを利用し備蓄できる。また常温で液体のため、H2といったほかの新燃料に比べて長期的な備蓄に優れている。
■タンクなどの「設備損傷リスク」の低減
合成燃料は、原油にくらべて硫黄や重金属といった不純物が少ないため、燃焼時に設備を傷めにくく、設備保護の面からも大気汚染の面からもクリーンな燃料という特徴がある。
e-fuelの「2つのデメリット」
e-fuelは普及までのハードルが低く、脱炭素を効率的に進められる燃料として期待されているが、実は実用化できるまでにも大きな障壁がある。現在抱えている実用化までの課題・デメリットについて2点を紹介する。■製造・販売コスト
e-fuelが実用化されるために解決すべき課題の1つは、製造コストである。経済産業省が、合成燃料の製造コストを試算した結果、H2の価格が影響して、1リットルあたり200円から700円になることがわかった。脱炭素社会に向け、化石燃料の利用が制限される中、単純に比較できないものの、現状のガソリンなどの値段とは大きな差がある(図4)。

先述の通り、e-fuelの製造コストが高い主な要因はH2の価格だ。
H2の価格は再エネなどの電力価格による影響が大きく、現状では国内よりも海外で製造した方が安く製造できる。ただ、海外からH2を輸送する場合、水素キャリアの形態(メチルシクロヘキサンやアンモニア、合成メタンといった別の物質に転換して運ぶ、または液化水素として運ぶなど)や輸送コストに留意する必要がある。現時点で、どの輸送手段が最適か見極めることは難しい。
将来的な再エネや水電解装置のコスト低下に伴い、H2の価格も低下する見込みであり、e-fuelの製造コスト削減が期待される。
■製造効率を高める技術
合成燃料を大量生産するための製造技術は、まだ確立されていない。製造効率を向上させるためには、技術的な課題がある。
FT合成反応(フィッシャー・トロプシュ合成反応)を用いた製造方法(この後で解説します)では、大規模で一貫した製造プロセスの実績がなく、効率性が低いのが現状である。効率性を高めるためには、合成ガスの製造プロセスと、その後のFT合成のプロセスの両方に改善が必要だ。
合成ガスの製造は600度以上の高温下で行われるが、現状の工業用触媒では高温に耐えきれないため、新しい触媒を開発する必要がある。またFT合成についても、ガソリン、軽油、灯油といった燃料を効率よく生成するために、収率(工業でいう歩留まり率)を向上させる触媒の開発が課題となっている。さらに、「CO2電解」や「共電解」などの革新的なプロセスの早期実現も課題だ。
e-fuelの作り方
合成燃料の製造方法としては、前述したFT合成反応(フィッシャー・トロプシュ合成反応)を用いた製造方法が知られている。具体的には、CO2をCOに転換し、COとH2の混合ガスである「合成ガス」を製造した後、この合成ガスを「FT合成反応」によって合成燃料を製造する手法だ(図5)。
さらに、FT合成を用いず、CO2とH2からメタノールを合成し、e-fuelを製造する方法もある。
また、現在は研究開発段階ではあるものの、「CO2電解」や「共電解(蒸気電解による水素生成と二酸化炭素電解による一酸化炭素の生成を同時に行う電気分解)」、「直接合成(Direct-FT:CO2と水素から直接、炭化水素を製造する方法)」といった新たな製造方法も検討されている。
e-fuelとバイオ燃料の違い
カーボンニュートラルな燃料として、「バイオ燃料」がすでに商用化されているが、e-fuelとは何が違うのか。バイオ燃料は、サトウキビなどの作物や生ごみなどの廃棄物といった、バイオマス(生物資源)から作られたバイオエタノールやバイオディーゼルなどのことを言う。米国やブラジルなどで普及している一方、日本国内においては原料不足や製造コストなどの課題もあり、バイオ燃料だけで燃料問題のすべてを解決できるわけではない。
対して、e-fuelなどの合成燃料は原料がCO2とH2で、工業的に生産できる特徴がある。e-fuelがバイオ燃料に取って代わるというよりは、両者の特長を生かして化石燃料から脱炭素燃料へのシフトを進めることが望ましい。 【次ページ】トヨタやENEOS、ポルシェ、日本政府の動きまとめ
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