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  • 2022/12/29 掲載

単なるロボット導入に留まらない既存リソースとの連携・活用が生むRXの「真価」

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いまはVUCA(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)の時代と言われているが、もともと未来は常に予測できないものだ。だが未来は放っておいてもやってくる。だから備えなければならない。ロボット活用を考えている人なら理解している通りだ。人にはリセット願望があるのか、新規設備を入れるときにすべてをまっさらの状態にして考えたがる。だが現実は違う。予算や現場容積にも制限があり、既存設備や資源を活用しながら新規の道具を使いこなす必要がある。人材もまた同様だ。ここにしばしば衝突が起こる。だが変化を恐れるばかりでは時代の流れの中で取り残されてしまう。どのように考えればいいのだろうか。

執筆:サイエンスライター 森山 和道

執筆:サイエンスライター 森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

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安川電機グループの YE DIGITALによるAI外観検査サービス「MMEye」。「フードテックWeek東京」の展示から

シミュレーションは「意思決定支援の道具」

 先日、2日続けてイベントに登壇する機会があった。色々と思うことがあったので、2022年最後となる今回は、考えたことを述べておきたい。

 一つ目は東京大学次世代知能科学研究センターのイベントで、AI とシミュレーションに関するもの。新型コロナ対策、津波避難、交通サービスと街づくり、そして経済まで、幅広い社会課題とシミュレーション活用の議論が行われた。私は、ほぼ先生方の話を横で聞いているだけだったが「シミュレーションとは意思決定支援に使われるものだ」という話が興味深かった。

 未来はたいてい予測不能だ。なぜなら、未来を十分な精度で予測するには十分な情報が必要だが、たいていの場合は情報が不足しているからだ。ポール・ヴァレリーが「我々は後ずさりしながら未来に入っていく」と言ったように、我々は絶えず意思決定をしながら未来に進んでいるが、ただ結果を見るのみだ。

 たいていのことは実際にやってみないと分からない。シミュレーションは、この「やってみる」ができる。不確定な状況においてどんな未来があり得るのかを、さまざまなパラメータを変えてみながら試すことができる。だから意思決定支援の道具として使える。未来予測が難しい「VUCAの時代」と言われるいま、なおさらシミュレーションの力は必要とされている。

 なお言わずもがなだが、ロボット業界でのシミュレーションは製造設計のほか、工場設計やライン検証などでも広く使われている。ロボットを導入したときの前後工程との接続はうまくいきそうか、事前にどこで工程が滞りそうなのかといったことが検討できる。近年では「デジタルツイン」として、常に更新されながら最適化のために活用されるものへと用途も徐々に広がってきている。モノはもちろん、人の動きも合わせて検討可能だ。


  いまだ収まらない新型コロナ禍において「あちらを立てればこちらが立たず」のケースがあちこちで起こっていることを挙げるまでもなく、実世界を説明するためのパラメータは無限にある。シミュレーションでは目的、すなわち何を探りたいかによって、適切な粒度のデータを集めなければならない。また、結果の解釈には幅がある。

 だが、それでいいのだ。シミュレーションの結果は予言ではない。「こういう条件だとこうなるよ」と示すものだ。意思決定を行うのはあくまで人間であり、そのための道具の1つがシミュレーターなのだ。ちなみに、家庭内にウイルスを持ち込まないためには、帰宅したらまず、すぐさま手を洗うことが非常に効果的とのことだった。もちろん会社内に持ち込まないときの注意点も同様である。

改革は理想と現実のはざまで

 シミュレーションを行うことで、事前に、そもそも「制御可能性」がどこにあるのかを探ることができる。たとえば2022年10月末に韓国ソウル市の梨泰院で起きた群衆雪崩の事例で言えば、あの路地に、ある密度以上に人を集めてしまった時点で、すでに雪崩が起こるか起こらないかは、もはや確率の問題となっていた。すなわち事故が起こる前から制御に失敗していたと言える。実際には、事前に人があの通りに高密度で集まらないように規制線を張っておくなどして、どうしようもなくなってしまう前に制御することが必要だった。

 つまり、事故につながるような条件が満たされてしまわないように事前に設定しておくことが必要であり、そもそも、そのように考えること、考え方が重要だ。境界条件の外に出してしまうのだ。産業用ロボットでいえば、安全柵で人との作業領域を区切ることがそれにあたる。産業用ロボットの事故は今も時々起こっているが、現場の判断で、この原則を破ってしまっていることが、ほぼ原因だ。

 群衆事故を防ぐために一部分に規制をするようなケースであれば社会的合意は得られやすいだろう。一方、議論の中で「所与の条件をどう考えるか」という話があった。制御可能な変数なのか、所与の条件、すなわち「変更不可能な与えられたもの」として考えるか。シミュレーションを実社会での課題に適用する場合、この問題は避けては通れず、しばしば肝心要のポイントでもある。

 たとえば津波から避難するときに、津波タワーのような避難所が、どこにでも、数の制限なく建設できるのであれば、話はだいぶ単純になる。だが現実には予算の問題もあり、既存の施設に加えて避難所を追加することはできないことが多い。そのため避難所の場所や数は所与の条件としてシミュレートされることが多い。だから危急の時には「現在ある避難所」に対して、どこへ、どのように逃げるべきなのかという対話が行われる。これが現実だ。「少なければ作ればいいじゃないか」という話にはならない。現実的ではないからだ。

 こういうケースは身近なところでも多い。たとえば電車は高架のほうが安全だし運行も楽だろうが、現実には踏切が今も多数存在している。そういう現実の中で少しずつ改善を進めなければならないのが我々の現実である。

ゼロベースでは考えられないのがロボット導入の現実

 何を「変えられるもの」、あるいは「変えられないもの」と考えて、未来を想定するのか。これは、ロボット導入を考える場合にも、よく出てくる話だ。

 新たにロボットを使おうとなったとき、理想的には何から何までガラッと変えたいと思うのではないだろうか。まったくゼロベースでハコから考えるほうが話は簡単だ。そのほうが最適化しやすいのは自明である。しかし、実際のロボット導入は、そういうわけにはいかない。現在の工場、あるいは現場にすでにある設備や資源を活用しつつ、新しい機材を入れなければならない。

  動いているものをいじるのは、そもそも大変だ。工程の見直しや機材の再配置を行わなければならないからだ。しかも、狭い面積や現在進行中の仕事のやりくりの中で、新しい段取りを考えないといけない。人的資本や物理資本が限られている中小企業でのロボット活用では、これが大きな課題となる。

【次ページ】知られざるRXの本質とは

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