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  • 2023/06/01 掲載

ChatGPTがもたらす「教育」大変革、禁止か積極活用のどちらがよいのか

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ChatGPTの本国である米国では、初等・中等教育においてAIツールを全面的に禁止する流れができている。一方、大学では学生からの反発もあり、全面禁止には踏み込めない状況だ。むしろ、AIツールの活用方法を模索するところが増えているといわれている。また、シンガポールや英国は、初等・中等レベルの教育現場でのAIツール活用に前向きな方針を発表するなど、教育でのAIツールに対する姿勢は多種多様だ。教育現場におけるジェネレーティブAI(生成AI)活用の現状を探った。

執筆:細谷 元、構成:ビジネス+IT編集部

執筆:細谷 元、構成:ビジネス+IT編集部

バークリー音大提携校で2年間ジャズ/音楽理論を学ぶ。その後、通訳・翻訳者を経て24歳で大学入学。学部では国際関係、修士では英大学院で経済・政治・哲学を専攻。国内コンサルティング会社、シンガポールの日系通信社を経てLivit参画。興味分野は、メディアテクノロジーの進化と社会変化。2014〜15年頃テックメディアの立ち上げにあたり、ドローンの可能性を模索。ドローンレース・ドバイ世界大会に選手として出場。現在、音楽制作ソフト、3Dソフト、ゲームエンジンを活用した「リアルタイム・プロダクション」の実験的取り組みでVRコンテンツを制作、英語圏の視聴者向けに配信。YouTubeではVR動画単体で再生150万回以上を達成。最近購入したSony a7s3を活用した映像制作も実施中。
http://livit.media/

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ChatGPTが教育現場に大きな影響を及ぼしている
(Photo/Shutterstock.com)

生成AIによる教育産業への影響、Cheggの事例

 ChatGPTをはじめとする生成AIは、リテールや防衛などさまざまな産業に大きな変化をもたらしている。

 教育産業も例外ではない。ChatGPTなどの生成AIによって、教育関連企業、教育機関、学生をとりまく環境は大きく変化しているのだ。

 米国のオンライン学習企業Cheggでは、ChatGPTの登場により、新規顧客獲得が鈍化、その影響で株価が50%近く下落するという事態が発生した。

 Cheggは、オンラインでの宿題サポートや学習サポートを提供する企業。CNBC5月2日の報道によると、Cheggのダン・ローゼンスワイグCEOが決算発表にて「今年初めには、新規アカウントの成長にChatGPTの明確な影響は見られず、新規登録は予想どおり拡大した。しかし3月以降、学生のChatGPTへの関心が著しく高まり、新規顧客成長率が影響を受ける可能性がある」と発言した。

 これに伴い「売上は、1億7,500万~1億7,800万ドルになるだろう」と予想したことを受けて、それまで18ドルほどで推移していた同社株価は48%以上下落し、9ドルまで下がった。FactSetのアナリスト予想は、1億9,360万ドルだった。

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AIツールを禁止する大学は学生を失うリスクもある
(Photo/Shutterstock.com)

 この事態を受け、アナリストらもChatGPTの影響を株価予想に折り込み始めている。モルガン・スタンレーのアナリスト、ジョシュ・ベア氏は、AIの影響が無視できないと指摘、Cheggの目標価格を18ドルから12ドルに引き下げた。また、米金融機関JefferiesもCheggの目標価格を25ドルから11ドルに引き下げている。

 生成AIが普及する状況をCheggは傍観している訳ではない。自社でCheggMateと呼ばれる、学生の宿題サポートを担う生成AIプロダクトを開発しており、近々リリースする見込みだ。

 しかし、同プロダクトの開発にあたりAI技術を提供しているのは、同社の新規顧客成長鈍化の主要因であるChatGPTを開発したOpenAI。Cheggは、ChatGPTと競合するプロダクトを、ChatGPTの開発企業と協力して開発していることになる。

 アナリストらは、CheggMateのリリース日程が不明であることなどから、影響が出るとすれば、2024年以降になるだろうと予想している。

米国の初等・中等教育機関はAIツール禁止

 CheggのローゼンスワイグCEOによる「学生のChatGPTへの関心が著しく高まっている」という発言は、現在米国の多くの学校がChatGPTを禁止しているという事実とは相反するもので、興味深い状況を浮き彫りとするものだ。

 ChatGPTが登場してすぐ、米国最大の学区であるニューヨーク市は、同区における公立学校で、学生によるChatGPTの使用禁止を発表。また2番目に大きい学区であるロサンゼルス統一学区でも、学校ネットワークからOpenAIのWebサイトへのアクセスをブロック、さらにボルチモアやシアトルなどの学区でもChatGPTの使用が禁止されたといわれている。

 ニューヨーク市教育局の広報担当ジェンナ・ライル氏はワシントンポストで、「このツールは質問に素早く簡単に答えることができるかもしれないが、学問的思考、批判的思考、問題解決能力の発達に寄与しない」と、ChatGPT禁止の理由を述べている。

 多くの学校でChatGPTが禁止される一方、ローゼンスワイグCEOの発言が示すように、学生のChatGPT利用は拡大しつつある。

 Computerworld2023年4月25日の記事が伝えたスタンフォード大学の学生新聞「The Stanford Daily」による調査は、非公式ながら学生のChatGPT利用の現状を浮き彫りにしている。

 この調査は、The Stanford Dailyが1月に4497人の学生を対象に実施したアンケート調査。ChatGPTがリリースされたのは、2022年11月末。同調査では、ChatGPTがリリースされてから約1カ月後の学生によるChatGPT利用の状況を伝えるものとなっている。

 調査の結果、この時点でスタンフォード大学ではAIツールの利用が禁止されていたにも関わらず、ブレインストーミング、アイデアの構築、レポートのアウトライン作成にChatGPTを利用していると回答した割合は59.2%と、約2/3がChatGPTを利用していることが判明した。

 また、選択式問題に回答するために、ChatGPTを利用しているとの回答は29.1%、ChatGPTが生成した文章に多少の修正を加え提出したことがあるが7.1%、ChatGPTの文章をそのまま提出したことがあるは5.5%だった。

 この調査は、ChatGPTがリリースされて間もない時期に実施されたもの。CheggのローゼンスワイグCEOは、3月以降に学生のChatGPTへの関心が急速に高まったと述べているが、少なくともスタンフォード大学ではそれ以前から、学生のChatGPT利用は少なくなかったことが示されている。 【次ページ】ChatGPTなどAIツールを禁止する大学は、学生を失うリスクも

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