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  • 2023/07/21 掲載

ガソリン車もまだ「可能性あり」? 欧州で「ZEV一択」に「待った」のワケ

連載:カーボンニュートラル最前線

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カーボンニュートラル実現に向けて、欧州や米国では、CO2を排出しない車、「ZEV(Zero Emission Vehicle)」への急速な移行を進めてきた。そんな欧州において、今年に入りZEV以外の新車販売を規制する法案の成立にストップがかかる動きがあった。一体それはなぜなのか。脱炭素とクルマをめぐる欧州の動きを整理し解説する。

執筆:日本総研 リサーチ・コンサルティング部門 プリンシパル 段野 孝一郎

執筆:日本総研 リサーチ・コンサルティング部門 プリンシパル 段野 孝一郎

京都大学大学院工学研究科博士前期課程修了(工学修士)。 株式会社日本総合研究所において、環境・エネルギー、資源・水ビジネスをテーマに、事業戦略、マーケティング、新事業開発、M&Aに関するコンサルティングを行っている。近年は、脱炭素、Post-FIT、電力市場改革関連のテーマに注力している。

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クルマをめぐるカーボンニュートラルの動きを解説する
(Photo/Shutterstock.com)

カーボンニュートラルには欠かせないクルマの「脱炭素化」

 2050年カーボンニュートラル実現に向けて、より一層の脱炭素化が求められているのが自動車分野(モビリティ分野)だ。

 日本のCO2排出総量のうち、約18%が運輸部門由来であり、運輸部門のCO2排出量の約90%が自動車由来である(自家用乗用車、営業用貨物車、自家用貨物車の総計)。従って、日本のCO2排出量の約15-16%が自動車由来と考えて差し支えない。

 自動車由来のCO2排出量が多いのは諸外国でも(比率の差はあれど)同様である。さらに、内燃機関車両からは、窒素酸化物(NOx)を含む排ガスが排出されるため、大気汚染防止の観点から排ガス規制も必要となる。各国は自動車メーカーに対して、厳しい燃費規制/排ガス規制を課してきた歴史がある。

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図表1:運輸部門におけるCO2排出量(2020年度)

欧州が電動化を急いだワケ

 諸外国が燃費規制/排ガス規制を強化する中、各自動車メーカーは、規制をクリアするために、さまざまな手法で燃費性能向上/排ガス規制対応を図る技術開発に注力してきた。

 日本においては、自動車メーカーはハイブリッド(HV)、プラグインハイブリッド(PEHV)など、内燃機関車両をベースとしつつモーターを組み合わせた設計を取り入れることにより、厳格化する規制に対応してきた。

 一方、米国では、内燃機関車両の燃費規制を強化することと並行して、ZEV(Zero Emission Vehicle)規制を導入し、ZEVへの移行を推進している。2021年に指令された大統領令によって、米国における新車販売の50%以上を2030 年までに ZEV とすることが求められている。この結果、ZEVを販売することが規制を順守するうえで最も有効な手段となったことを背景に、テスラを代表とするEVスタートアップが躍進。特にテスラは、ZEV開発・販売をけん引し、好業績を挙げている。

 ただ、この好業績には理由がある。カリフォルニア州では、政府目標よりも急進的な政策を掲げており、2035年までに州内の新車販売をすべてZEV化することを求めている。その一環として、一定比率のZEVもしくはPHEVの販売を自動車メーカーに義務付けている。各メーカーはZEV規制で定められたZEV/PHEV販売比率を順守する必要があるが、自社で販売するほか、他社が販売したZEV/PHEV台数がZEV比率を超過していた場合に、そのカーボンクレジットを購入することでもクリア可能となるのだ。

 テスラは販売台数がすべてZEVであり、他自動車メーカーにカーボンクレジットを販売することで、2022年度には約18億ドルのクレジット収入を得ている。テスラはカリフォルニア州に拠点を有するが、脱炭素政策と産業振興を同時に実現していきたいというカリフォルニア州の思惑が伺える。

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図表2:テスラのカーボンクレジット収入推移

 また、欧州では、EVやハイブリッドに対抗し得る手段として、「クリーンディーゼル」に注力してきた。これは、従来のディーゼル車両よりも、排出ガスに含まれている窒素酸化物(NOx)などをより削減したディーゼル車両を指す。

 クリーンディーゼルにより燃費規制/排ガス規制に対応してきた欧州自動車メーカーだが、2015年9月にフォルクスワーゲン(VW)の「ディーゼル不正」が明らかになったことが、ある転機となる。

 不正事件のインパクトは非常に大きく、不正事件以降、欧州の排ガス規制はより厳格化され、ディーゼル車両で規制をクリアしていくには(ほかの手段に比べて)多額の研究開発費用を要するようになった。さらに、消費者や自治体は「ディーゼル=大気汚染」という連想を抱くようになり、環境保全を志向する消費者や自治体は次第にZEVを選好するようになり、ディーゼル離れが進んだ。

 この事件以降、ハイブリッド技術において日系自動車メーカーの後塵(こうじん)を拝した自動車メーカーは、電動化シフトを鮮明にしていった。そして、欧州各国政府もメーカーのスタンスに呼応し、自動車産業の振興を意図したZEVに対する政策支援を拡大していったのである。 【次ページ】なぜ「ZEV一択」から方針転換したのか

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