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- 2024/01/29 掲載
東大 松尾豊教授と今井翔太氏が語る、生成AIがもたらす「予測不能な高次な未来」
ホワイトカラーの仕事は今後5年でガラリと変わる
今井翔太氏(以下、今井氏):もはや言うまでもないことですが、AI技術の急速な発展は私たちの生活を大きく変えていきつつあります。今後も急激に進むであろうAI技術の進化に対して、「近い将来、AIがノーベル賞を受賞するのではないか」という仮説が立てられたり、「絵画や文章、音楽など、人間が築いてきた文化をAIが揺るがすかもしれない」と言われたりしています。このようなさまざまな予測に対して、松尾先生はどのようにお考えですか。そもそもAI自体は、どのようなことができるようになるのでしょうか。そして、それが人びとの暮らしや産業・社会構造をどのように変えていくと予測されているでしょうか。短期(5年以内)・中期(5年~15年)・長期(それ以上先)と、それぞれのタイムスパンでお聞きしたいです。
松尾豊氏(以下、松尾氏):2015年の時点では、私は「AIは2020~2025年の間には家事や介護といった他者理解が求められる仕事も担えるようになり、2030年くらいには秘書業などホワイトカラーの仕事の支援や教育も代替されていく」という業界予測をしていました。
しかし、今の状況にいたって予測は簡単ではないですね。なぜなら、今はChatGPTなどの大規模言語モデルの技術が急速に発展して、先に発展するであろうと予測した技術と順番が入れ変わっている印象があるためです。
大規模言語モデルには技術的な限界もいろいろとあるのですが、それでも今後、相当広い領域にまで広がっていくでしょう。たとえば、秘書業などのホワイトカラーの仕事の支援や教育の分野においては、今後5年の間にガラリと変わってくるはずです。また、家事や介護などのロボット系の技術革新も進みます。それはおそらく5年後くらいになると思いますが、それよりも早く進展する可能性もあります。
今井氏:「5年以内」というスパンでの予測について、生成AIとは別の分野になりますが、個人的にお聞きしたいことがあります。現在、松尾研究室内のプロジェクトで、運動系AIの研究が進んでいます。この研究成果も、5年後には発表できるでしょうか。
松尾氏:もちろん、5年以内には研究成果としては出ると思いますが、研究成果が社会に普及するには、もう少し時間がかかるでしょう。研究室内で開発した技術は、裏付け(prove)を経たのち、どんな場面で使うのかを確定させてから実際の生活のなかに入り込むという段階を踏んで広がるものです。
たとえば画像認識の技術は、国際的な画像認識コンペティションの「ILSVRC2012(ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge 2012)」で、カナダのトロント大学のチームが驚異的な成績で優勝したことによって注目されました。それから2015年~2020年ごろにかけて、その技術を使った製品が登場し、今では当たり前の手段として普及しています。
今、松尾研究室で行っている研究は、まだ裏付けが取れていない段階です。これを数年かけて実証し、さらにそこから5年くらいかけて広がっていくというのが、研究成果が一般社会に普及していく標準的な流れです。
確かにAI技術は、これだけのブームになっているように、一気に広がってはいます。ですが、それがさまざまなサービスやシステムのなかに組み込まれ、それぞれの分野において、もはやそれを生成AIだと意識すらしないほど身近に浸透し、単に「すごく使いやすいもの」「手放せないもの」として認識されるようなレベルになるには、やはり5年くらい、ハードウェアを伴わない生成AIの技術だとしても、2~3年かかるでしょう。
5~15年後の未来は「面白い」
松尾氏:具体的な事象を述べるのは難しいですね。ただ、人間の知能の仕組みがわかったり、「人間とは何か?」という哲学的な議論が出てきたりして、面白い時代になっていくだろうとは思います。
今井氏:そうですね。この段階にまで来ると、研究成果からどういう影響が出るのかまで予測するのは難しいですね。
ただ、人間の知能の謎が解けたら、研究的にはすごく面白いと思います。先生は、人間の知能の仕組みがわかることが、産業や社会構造をどう変え、どういうところにつながっていくと思われますか。
松尾氏:人間社会全体が大きく変化すると思います。学問分野で言うと、これまでの人文社会系分野のあり方が大きく変わるでしょう。人間そのものに対する理解や社会に対するとらえ方も根本から変わるでしょうし、それに関連してさまざまな変化が起こっていくと思います。 【次ページ】ロボット系の技術革新のあとに起きることとは?
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