• 2025/11/27 掲載

アマゾンにJPモルガン、LINEヤフーも…出社回帰で再燃「リモート論争」の“正解”とは(2/2)

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アマゾンやJPモルガンが「週5出社」回帰のワケ

 労働者の心境が揺れ動く中、米国の大手企業は出社回帰を加速させている。2024年後半から2025年にかけ、業界を代表する企業が相次いでオフィス勤務の強化に踏み切った。

 最も注目を集めたのがアマゾンだ。同社アンディ・ジャシーCEOは2024年9月、全社員に対し2025年1月2日から週5日のフル出社を求めると発表した。ジャシーCEOは社内メッセージで「チームメイトが一緒にいる方が、文化を学び、実践し、強化しやすい。コラボレーション、ブレインストーミング、発明がよりシンプルで効果的になる」と説明。過去15カ月間、週3日以上の出社を実施してきた結果、その利点への確信が強まったという。

 金融業界も足並みを揃える。JPモルガン・チェースは2025年3月から、ハイブリッド勤務の社員に週5日出社を義務付けた。同社ジェイミー・ダイモンCEOは「一緒にいることで、メンタリング、学習、ブレインストーミング、物事を成し遂げることが大幅に向上する」と強調。全世界で31万6000人以上の従業員を抱える同社では、すでに半数以上がフルタイムで出社していたが、全社での統一を図った形だ。

 自動車業界ではフォードが2025年9月1日から、大半の正社員に週4日の出社を求めることを決定した。広報担当者はロイターに対し「日々対面で協力することが、フォードの成長率向上、利益率改善、変動の少ない、よりダイナミックな企業への変革を加速させると信じている」と述べている。

 テクノロジー企業も例外ではない。インテルのリップ=ブー・タン新CEOは2025年4月、週4日の出社義務を発表。タンCEOは「オフィスは活気あるコラボレーションのハブであるべきだ。対面で過ごすことで、より魅力的で生産的な議論と議論が促進され、より良く速い意思決定につながる」と主張する。またUberも6月から、週2日だった出社日数を週3日に引き上げた

 こうした動きの背景には、経営陣の共通認識がある。リモートワークでは「仕事の全てが完了しているとは思えない」という懐疑的な見方だ。イノベーション、文化の醸成、迅速な意思決定、これらは対面でこそ実現できると、各社トップは口を揃える。

日本企業の出社回帰は「上司の不安」も一因?

 米国と同じく、日本でも出社回帰の波が押し寄せている。コロナ禍で急速に普及したリモートワークは、総務省の調査によれば2020年に導入率47.5%に達し、2021年から2023年にかけても約50%で推移してきた。しかし2024年以降、従業員にオフィス勤務を求める企業が増加している。

 その動きを象徴するのが、LINEヤフーの方針転換だ。同社は2024年12月、これまでフルリモート勤務を認めていた制度を見直し、2025年4月から出社日を設けると発表。カンパニー部門の社員は原則週1回、開発部門やコーポレート部門は原則月1回の出社が義務付けられる。背景には「新しいプロダクトを生み出すためには、コミュニケーションの質を強化することが必要」との判断がある。

 メルカリも同様の流れだ。2022年には「オフィス出社も、フルリモートも個人の判断で自由に選択可能」としていたが、2025年現在は「週2日以上のオフィス出社」を基本ポリシーに掲げる。アクセンチュアは従来の週3日出社ルールを2025年6月以降に週5日へ変更し、アマゾンジャパンも米国本社の方針に従い週5日出社に戻ったと報じられている。

 職種別では明確な傾向が浮かぶ。カオナビHRテクノロジー総研の調査によると、リモートワーク率は、事務系管理職、事務職・技術系事務職、営業職といったオフィスワーカー3職種が上位を占め、営業職は前年より1.6ポイント上昇した。業種別では、IT・インターネットが58%でトップを維持し、マスコミ・広告、通信・インフラと続く。企業規模別では、従業員5000人以上の大企業で26.9%と最も高くなっている。

 パーソル総合研究所の調査では、週1日以下の低頻度テレワーカーが49.4%に達し、前年の43.6%から増加。またリモートワーク頻度が「減った」と回答した割合は35.8%となり、リモートワーク頻度は全体的に減少傾向にあることが観察された。特に従業員1万人以上の大企業ではリモートワーク実施率が3.6ポイント減少した。

 だが従業員側の希望は異なる。テレワーク継続希望者が82.2%と過去最高を記録し、Job総研でも「リモート派」が55.2%と「出社派」の44.8%を上回った。企業が出社を求める主な理由は「従業員同士のコミュニケーションが取りづらい」という課題だ。また「部下の仕事の様子がわからない」という上司の不安も出社要請の理由となっている。

生産性向上と「人間関係」の意外過ぎる関係

 企業が出社を求め、従業員がリモートを希望する。この対立の根底にあるのが「生産性」という問題だ。果たしてどちらの働き方が本当に生産性を高めるのか。複数の大規模調査が、興味深い答えを示している。

 米国労働統計局の分析は、リモートワークと生産性の関係を数値で明らかにした。民間企業61業種を対象とした調査では、2019年から2022年にかけ、リモートワーカーの割合が増加した業種ほど全要素生産性(TFP)の伸びが大きかった。具体的には、リモートワーク比率が1ポイント上昇するごとに、TFP成長率は0.08~0.09ポイント増加する。この関係は、パンデミック前の生産性トレンドを考慮しても統計的に有意だという。

 生産性向上の要因は意外なところにあった。労働投入量の変化ではなく、オフィススペース、エネルギー、設備といった非労働コストの削減が主因だ。リモートワーク比率が1ポイント上がると、単位あたりのオフィス建物コストは0.4ポイント減少。興味深いのは、この生産性向上が従業員の報酬増加には繋がっておらず、利益は企業側に留まっている点だ。ただし、従業員は通勤時間と交通費の節約という別の恩恵を得ている。

 生産性を左右するのは働く場所だけではないということも明らかになりつつある。

 Great Place to Workの2024年調査は、協力と信頼こそが生産性の核心だと示す。130万人の従業員データを分析した結果、「同僚が協力してくれる」と感じる従業員は、そうでない従業員より8.2倍も高い努力をすることが分かったのだ。これら企業の生産性は一般的な職場より42%も高いという。決定的な差を生むのは、場所ではなく、文化だということが示唆される調査結果となった。

 具体的な改善例も報告されている。トルコの大手コールセンターが全従業員3500人をフルリモートに移行したケースでは、生産性が10%も向上したとされる。静かな自宅環境により通話が明瞭になり、やり取りの繰り返しが減少。処理時間が短縮され、1時間あたりの対応件数が増えたという。顧客満足度も維持または改善され、品質を犠牲にすることなく効率が上がった事例となる。

 しかし注意点もある。同調査のまとめでは、対面でのオンボーディングを受けた従業員の方が、最初からリモートで始めた従業員より長期的なパフォーマンスと定着率が高くなる傾向が確認された。リモートワークの利点を最大化するには、適切な導入が不可欠ということだ。

 リモートワークか出社か。この議論に単純な答えはない。生産性データはリモートワークの有効性を示す一方、企業はコミュニケーションと文化醸成のために出社を求める。労働者の希望も、給与や個人の状況によって揺れ動く。2025年後半、企業と従業員の間で模索が続く「最適な働き方」は、職種や業種、そして何より企業文化によって異なる形で定着していくだろう。

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