• 2026/08/08 07:10 掲載

【研究で判明】有名企業の実例も…「パワハラが起きやすい職場」の共通点(3/3)

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「成果がすべて」の職場で、パワハラが正当化される

 過度な競争も、パワハラなどの攻撃的・敵対的行動を増やします。目標達成が重要視される組織や、売り上げによって個人のインセンティブが大きく配分される「自己利益追求型組織」では、パワハラが誘発されることがわかっています(注13)。他者と協力体制を築くよりも、いかに周囲を出し抜いて個人が業績を勝ち取るかが最優先になるため、他者と敵対的に関わるようになるからです(注14)。

 こうした組織では、いかなる犠牲を払っても生産性や売り上げを重視し、野心的な目標を達成する能力が評価されます。その結果、パワハラが「目的達成のための正当な手段」と見なされることすらあります(注15)。業績主義の文化があるとパワハラの発生も多いことは、複数の研究で示されています(注16)。

部下を追い詰める上司が、不正行為を誘発する

 部下にプレッシャーをかける上司のもとでは、不正行為が増えることがわかっています。まず、そのようなパワハラ上司と関わった部下の多くが、怒り、恐怖、不安を感じます(注17)。ただし重要なのは、その後にどう行動するかです。多くの場合、不安や恐怖を感じた部下は「不本意だが従う」という行動に出ます。従わないことでさらに叱られるという恐怖から逃れたい、という本能的な反応です。

 象徴的な例として、旧ビッグモーター社の事案を覚えている方は多いでしょう。2023年、副社長が店長に対しLINEで「死刑死刑死刑死刑」と送信したことや、上司が部下に「適当な仕事すんなクソタコ!!!!!!」と日常的に暴言を吐いていたことが報道されました(注18)。

 同時に、複数の旧ビッグモーター店舗前の街路樹が枯れていたという報告も相次ぎました。国土交通省が国道沿いの旧ビッグモーター店舗を調査した結果、除草剤成分が検出されたのです(注19)。除草剤の使用を認めた元店長は、幹部による「環境整備点検」で「(店舗周辺に)雑草が1本あるだけでも減点されるのでやった」と話しています(注20)。

 街路樹を枯らすために除草剤をまく──おそらく、やりたい仕事ではなかったはずです。それでも多くの人が、不本意ながらこの命令に従ったのです。

 「除草剤をまく」だけで上司の要求が満たされるなら、まだ“まし”かもしれません。問題は、正当な方法で要求を満たせない場合、人は不正な方法に手を染めてでも罰を逃れようとすることです。

 米国の中央フロリダ大学の研究では、パワハラ上司のもとで働くことと、組織内で不正行為をすることが関連していることが示されました(注21)。複数の研究を統合したメタアナリシスでも、同様の関連が立証されています(注22)。人を追い詰めることは、不正行為を誘発するのです。

 旧ビッグモーター社でも、顧客から預かった修理車両に故意に傷をつけたり、不要な部品交換をしたりして修理代金を水増しし、損害保険会社へ不正に保険金を請求していた問題が発覚しました。第三者調査委員会の調査では、全国33の整備工場すべてで事故車修理費用の水増し請求の疑義があったことがわかっています(注23)。これらも、役員をはじめとした本社側が、各工場に過度な営業ノルマを課していたことが原因と考えられています。

 目標を達成できないことを責められたり、理不尽な業務命令に背くと評価を下げられたりする状況があると、人はだんだん追い詰められていきます。その結果、データの捏造、検査数値の改ざん、売り上げの水増しに手を染めるようになる──こうした事例は枚挙にいとまがありません。人を追い詰めることは、会社にとっても致命的な損害をもたらすことを、覚えておいてほしいと思います。

 また、追い詰められた部下の反応は「不本意ながら従う」だけではありません。理不尽な状況が続くと、行為者である上司への敵対的行動につながることもわかっています(注24)。最初は従っているように見えても、ある日突然反撃に遭う可能性もゼロではありません。いずれにせよ、パワハラしながら良好な上司―部下関係を築くことはできないのです。

〔参考文献〕
注1) 津野香奈美, 稲尾和泉 & 岡田康子. 企業におけるパワー・ハラスメントの実態, 問題が起こった際の対応, 予防対策の実施状況 - 企業規模別による比較検討 -. 産業精神保健 20, 221-236 (2012).
注2) PwC コンサルティング合同会社. 令和5年度 厚生労働省委託事業職場のハラスメントに関する実態調査報告書.(2024).
注3) Godin, I. M. Bullying, workers’ health, and labour instability. J. Epidemiol. Community Health 58, 258-259(2004).
注4) Quinlan, M. Organisational restructuring/downsizing, OHS regulation and worker health and wellbeing. Int. J. Law Psychiatry 30, 385-399(2007).
注5) Baillien, E. & De Witte, H. Why is Organizational Change Related to Workplace Bullying? Role Conflict and Job Insecurity as Mediators. Econ. Ind. Democr. 30, 348-371(2009).
注6) Salin, D. Bullying and organisational politics in competitive and rapidly changing work environments. Int. J. Manag. Decis. Mak. 4, 35-46(2003).
注7) パーソル総合研究所シンクタンク本部. 職場のハラスメントについての定量調査 調査結果.(2022).
注8) Yokouchi, N., Ambe, T., Fujisaki-Sueda-Sakai, M. & Ozawa, K. Workplace bullying and harassment in the Japanese construction industry: prevalence and associations with subjective health and work attractiveness. Constr. Manag. Econ. 42, 741-757(2024).
注9) Salin, D. Ways of Explaining Workplace Bullying: A Review of Enabling, Motivating and Precipitating Structures and Processes in the Work Environment. Human Relations 56, 1213-1232(2003).
注10) 田中堅一郎 & 外島裕. 日本版組織機能阻害行動の測定尺度の開発. 経営行動科学 18, 11-19(2005).
注11) Robinson, S. L. & Bennett, R. J. A Typology of Deviant Workplace Behaviors: A Multidimensional Scaling Study. Acad. Manage. J. 38, 555-572(1995).
注12) Bruursema, K., Kessler, S. R. & Spector, P. E. Bored employees misbehaving: The relationship between boredom and counterproductive work behaviour. Work & Stress 25, 93-107(2011).
注13) Vilas-Boas, M. Relationship between the perception of organizational culture and ethical climate and the perception of workplace bullying. CES Psicologia 12, 103-125(2019).
注14) Vartia, M. The sources of bullying psychological work environment and organizational climate. Eur. J. Work Org. Psychol. 5, 203-214(1996).
注15) Samnani, A.-K. & Singh, P. 20 Years of workplace bullying research: A review of the antecedents and consequences of bullying in the workplace. Aggress. Violent Behav. 17, 581-589(2012).
注16) Galanaki, E., Papalexandris, N., Zografou, I. & Pahos, N. Nothing personal, it’s the organization! Links between organizational culture, workplace bullying, and affective commitment. Front. Psychol. 15, 12936 10(2024).
注17) Oh, J. K. & Farh, C. I. C. An emotional process theory of how subordinates appraise, experience, and respond to abusive supervision over time. Acad. Manage. Rev. 42, 207-232(2017).
注18) CBC テレビ. 岐阜のビッグモーター店長 パワハラを提訴後に事故死 父親が語る「うつ病にならなければ…」.(2023).
注19) 道路局国道・技術課. ビッグモーター店舗前の街路樹の調査結果について(直轄国道).(2023).
注20) 神戸新聞. ビッグモーター神戸北店の元店長を書類送検 店舗前のケヤキ14本枯らした疑い「雑草1本で減点される」.(2024).
注21) Mitchell, M. S. & Ambrose, M. L. Abusive supervision and workplace deviance and the moderating effects of negative reciprocity beliefs. J. Appl. Psychol. 92, 1159-1168(2007).
注22) Hershcovis, M. S. & Barling, J. Towards a multi-foci approach to workplace aggression: A meta-analytic review of outcomes from different perpetrators. J. Organ. Behav. 31, 24-44(2010).
注23) 中村正毅. ビッグモーター、組織的な不正請求が明らかに. 東洋経済オンライン(2023).
注24) Greenier, K. D. The relationship between personality and schadenfreude in hypothetical versus live situations. Psychol. Rep. 121, 0033294117745562(2017).

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