- 2026/09/09 07:10 掲載
GAFAMも勝てない?AI最大の壁を40年前に見抜いた日本人、答えは“意外すぎる習慣”(2/3)
半世紀前に現在のAIが抱える問題を先回りできたワケ
その名を世界に轟かせた野中が、この「場」という中核概念の源流に、哲学者である西田幾多郎氏と物理学者である清水博氏の名を自ら挙げていたことは、あまり知られていません(注3)。世界的な経営学者が拠り所とした物理学者が、清水博氏です。清水氏の経歴は、一見つかみどころがありません。薬学で博士号を取り、物理学を武器に、生命を研究する。ですが、追いかけた問いはただ1つ──「生きているとはどういうことか」。その答えが最も鮮やかに現れる現場を中心に、清水氏は分野の壁を越え続けました。
たとえば、日本古来の武道である、剣。その達人の身体は、「生きている働き」が最も研ぎ澄まされた現場です。清水は柳生新陰流との共同研究で、達人のふるまいを見つめました。達人は、力で相手をねじ伏せません。相手が打ちたいように打たせ、その動きと1つになる。
勝とうと身構えず、相手とのあいだの「場」に身を置いたとき、勝ちが自ずから立ち上がる。「自己言及」──自らの構えを、関係のなかで問い直し、変え続ける働き──を、清水は達人の身体のなかに見出しました(注4)。
同じ問いは、機械にも向かいました。生きていない機械に、生きている働きは宿るのか。いま世界が沸くフィジカルAI──ヒューマノイドに代表される、身体を持つAI──にも半世紀、先回りしていました。「身体を持って初めて知能は立ち上がる」という仮説を、清水と、その弟子である東北大学の矢野雅文は、脳科学・生命科学とロボットの研究として結実させていたのです(注4)(注5)。
答えをあらかじめ決められない環境、つまり「無限定環境」を、生き物はどう生き抜くのか。この問いとフィジカルAIの本質を、本書『AI覇権戦争』の終章で解説しています(注6)。
[表2]清水博の「場」が影響をあたえた分野の一例
| 「場」が影響を与えた分野 | その源流 |
| 知識創造理論(世界のMBAが学ぶ) | 野中郁次郎。その「場」の源流に、清水博(注3)(注4) |
| アジャイル/スクラム(世界の開発現場) | 竹内弘高・野中による日本発の理論が源流(注5) |
| ワイガヤ(ホンダの世界初を生んだ) | ホンダ元社長・久米是志が清水と「場」を共同研究(注4) |
| フィジカルAI(いま世界が沸く) | 「身体を持って初めて知能は立ち上がる」を半世紀前に問うた清水・矢野の系譜(注4)(注5)(注6) |
| 世界の道場に渡った柳生新陰流の「間合い」 | 『生命知としての場の論理』が世界に翻訳 [4] |
AGI時代に勝つのは、最も人間的な能力だった
日本文化のもつ「場」は、私たちが日常的に行う極めて人間的なコミュニケーションのなかに感じる、「空気」や「関係性」です。まず、会って、感じること。言葉になる前の感覚や違和感を、同じ場で分かち合う。野中はこれを「共同化」と呼びました(注3)。実践した製薬会社エーザイは、就業時間の1%を認知症の患者さんやご家族と過ごすことに充てたといいます。データだけでは感じられない暮らしを身体で知る──この経験から、世界初の、進行を抑えるアルツハイマー病治療薬が生まれました(注6)。
ホンダの、年齢も職位も外して本音をぶつけ合う「ワイガヤ」からも、排ガス規制を世界で初めてクリアしたCVCCエンジンなど数々の世界初が生まれ、当時の社長・久米是志氏はのちに清水氏との共著で、その正体は「場」だったとしています(注4)。
会って感じ、雑談し、ワイガヤする。効率化ばかりが注目される今、最も人間的なこの営みこそが「場」を生み、自らを変え続ける組織の競争力の源泉となる。AIには真似のできない、人間の力です。
【用語】SECI(セキ):野中氏による知識創造の四局面。共同化(会って感じる)→表出化(言葉にする)→連結化(組み合わせる)→内面化(体得する)の循環。(注3)
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