- 2026/09/09 07:10 掲載
GAFAMも勝てない?AI最大の壁を40年前に見抜いた日本人、答えは“意外すぎる習慣”(3/3)
AIが奪うのは、雇用ではなく「場」
いま多くの人が、自身の雇用に静かな危機を抱いています。しかし本当の危機は、そこではありません。前回ご紹介した「ゴンドラ猫」──目は見えているのに自分の足で歩かない、それだけで、ものを見る力を失った猫(注1)。AIの答えを鵜呑みにする人は、急速にゴンドラ猫化します。自ら問いを立てず、場での真剣勝負をしなくなり、知識が生まれる循環が静かに失われていく。
あなたの職場でも、会議のあとの雑談が減り、若手は悩む前にAIに答えを求め、それをそのまま信じ込むようになっていないでしょうか。AIが本当に奪うのは、雇用ではなく、あなたの組織の「場」なのです。
一対一で部下の話を聞く途中、用意していなかった核心の問いがふと口をつく──それこそ、「場」が日常で起きる瞬間です。では月曜から何を始めるか。2人の教えを現代に翻訳しました。
[表3]AGI時代に「場」を守る、月曜からの5手
| # | 月曜からできること | それによって起こること |
| 1 | AIに要約させて終わる会議を、結論の前に一度、雑談に戻す | 言葉になる前の本音を、場に出す |
| 2 | 一対一では情報共有はAIに任せ、相手が言い淀む違和感を引き出す | まだ言葉にならない知を、2人で温める |
| 3 | AIに書かせた提案書は、必ず自分の身体で筋を確かめてから出す | 借りものの知を、自分の知に戻す |
| 4 | 「AIがそう言うから」を、会議の禁句にする | 前提を、内側から問い直す力を守る |
| 5 | 新人が考える前にAIに答えを出させるのを、やめる | 自ら動いて掴む経験を、奪わない |
なぜ、この一見非効率な営みが力を持つのでしょうか。野中氏の侃侃諤諤(けんけんがくがく)の真剣勝負も、清水氏が見つめた達人の境地も、根はひとつです。相手を尊重し、より良い未来のために、自分を惜しまず場に差し出す。
損得を超えて全身で向き合ったとき、誰の頭にもなかった答えが、自ずと立ち上がる。清水は、この働きを「与贈(よぞう)」と呼び、著書『〈いのち〉の自己組織』に結実させました。[4]私は、侃侃諤諤の真剣勝負こそ、与贈の実践だと解釈しています。
つまり「雑談」とは、暇つぶしではなく、自分を場に差し出す真剣勝負だったのです。決定事項だけを共有するオンライン会議で雑談を交わすのは難しい。AIの案を上司が承認するだけのやりとりに、場は生まれません。あなたの職場に、自分を惜しまず差し出し合う「雑談」は残っているでしょうか。
2人の「知の巨人」をどのように引き継ぐか?
知識創造理論を生んだ野中郁次郎氏は2025年1月に、生命知としての場の理論を生んだ清水博氏は2026年2月に、相次いで旅立たれました。世界のAIが半世紀を経て、お2人の問いにようやく直面しようとした、まさにそのときでした。いま、ただ懐かしむときではありません。何気ない会議の1コマに、1対1の対話に、その雑談に、お二人の思想は生きています。その価値に気づき鍛えることが、次の十年の力になります。
本稿は、お二人の思想の解説を目指したものではありません。その思想を道標に、私たち人間だけが持つその力をAIの時代にこそ問い直し、誰もがAIに自分を見失うことなく、AIの力を引き出しながら自らの力を開花させる──それを目指しました。
私は、AIが力で覇権を争う、その先を描きたいと思いました。AIの壁の先、2030年の産業地図の先、フィジカルAIのさらに先に──日本の文化が「場」としてすでに持つ「答え」がある。それを一冊にまとめたのが、新著『AI覇権戦争』です(注6)。
AIと侃侃諤諤(けんけんがくがく)に向き合い、1人でもAIだけでも辿り着けない答えを見出す知的コンバットを、人とAIの理想の姿として終章に据えました。思考の、意思決定の、判断の主導権を、AIに委ねるか、自分で握り続けるか。お2人の問いを次の十年の道標として、皆さん自身の答えを見出していただけたら、これに勝る喜びはありません。
| (注1) | 前回記事(本連載・第1回)「科学者が2026年のいま納得できる、AGIの定義と限界、そして人間の価値」=「自己言及」「ゴンドラ猫」の初出 |
| (注2) | 戸部良一ほか・野中郁次郎『失敗の本質──日本軍の組織論的研究』ダイヤモンド社(1984)/中公文庫(1991) |
| (注3) | 野中郁次郎・竹内弘高『知識創造企業』(1995, 原著OUP)/I. Nonaka & N. Konno「The Concept of 'Ba'」California Management Review 40(3)(1998)=場の源流に西田・清水を明記/「知的コンバット」=野中の対話論(日立総研ほかで本人が言及) |
| (注4) | 清水博『生命知としての場の論理』中公新書(1996)/『〈いのち〉の自己組織──共に生きていく原理に向かって』東京大学出版会(2016)=与贈/清水博・久米是志・三輪敬之・三宅美博『場と共創』NTT出版(2000)=ワイガヤ・剣道ロボット等の共創研究 |
| (注5) | H. Takeuchi & I. Nonaka「The New New Product Development Game」HBR(1986)=スクラムの着想源/矢野雅文『日本を変える。』(2012) |
| (注6) | エーザイhhc活動「1%の時間」/レカネマブ=日本発・世界初の早期AD進行抑制剤/R. Held & A. Hein(1963)=ゴンドラ猫/『AI覇権戦争』終章=フィジカルAI・知的コンバット |
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