なぜ、IT投資の効果が分かりにくいのでしょうか?筆者はシステム・インテグレータ、企業の情報システムご担当の方としばしば議論した経験があります。その中での共通の見解は、IT費用の効果がわかりにくいのは、「すでにIT(情報システム)が社内に導入されているから」です。
たとえば、コンピュータの最初の利用例と言われているのが、19世紀末の米国の国勢調査でした、当時、米国全土からの人口統計データを手作業で集計していたため、1880年の国勢調査では集計に9年もかかったと言われています。当時の発明家ハーマン・ホレリスは、この問題に対して、各データをパンチカードに記入し、そのパンチカードを電気的に読み取るタビュレーティングマシンを発明しました。この結果、1890年の国勢調査では、10年かかった集計が2年で終わったと言われています。
この場合のIT投資の効果は極めて明瞭です、すなわち、手作業での集計からコンピュータを導入することによって集計期間を大幅(10年→2年)に短縮することができました。一方、ここ20年あまりで、企業を取り巻くIT環境は大きく変化し、まったくコンピュータを使っていない企業の方が少数で、ほとんどの大企業、中堅企業では情報システムが導入されています。情報システムが存在しない状況から情報システムを導入した場合の効果はわかりやすいですが、すでに情報システムがある場合の置き換えや更新は、その効果がわかりにくいということです。
この場合の「投資対効果」の測定は容易なことではありません。この際の「投資」とはITにかかわるコストで、これは把握しやすいですが、問題はその「効果」です。何をもって効果とするのか、「システム更新でなんとなく使いやすくなった」というのも効果ですし、あるいは「業務がわかりやすくなった」というのも効果です。ただし、これでは誰もが納得できる効果だと言うには無理があります。そこで、何かしらの数字で、その成果なりを確認する必要が生じてきます。
そこで、ITの投資対効果を数字で置き換える方法を考える必要が出てきます。IT投資のROIを、シンプルな等式に落としてみれば、以下のように求めることができます。
ある期間の事業利益 ÷(IT投資のイニシャルコスト+ランニングコスト)
ただし、これでは利益に直接貢献するものしか投資の効果とみることはできず、たとえば、業務の効率化にともなって、従業員が早く帰ることができるようになったとしても、上記の等式では測定されません。むしろ、従業員がIT活用によってどれだけ生産性が向上したのか、こちらに焦点を当てた方が上手く説明できるのです。