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- 2011/11/09 掲載
“BCP2.0”を促進するクラウド・仮想化:【連載】変わるBCP、危機管理の最新動向
自治体クラウドでもBCPが重要テーマに
平時の仕組みと有事の環境のコンバージェンス
T氏:経営資源のリスクヘッジには柔軟な発想力がカギを握っているようですね。それでは、他の業界のように古い業界慣習がそれほど色濃く残っていないIT系の企業ではどうでしょうか。森田:日本ではIT系の企業でも東京に本社を置く傾向がありますが、世界的に見ればIT系企業は首都以外の地域に本拠を置くケースのほうが圧倒的に多いのです。元来、本社の役割は、事業運営上の情報を集約し、意思決定を行うことがメインですが、こうした機能はこれからはどんどんダイエットが進み、洗練されていくはずです。
T氏:BCPの刷新という視点でみたときに、ITインフラの運営に課題や盲点はないのでしょうか。
森田:通信機能が発達した現代では、幹部や役員は物理的にどこにいても特段の支障はないはずですよ。参勤交代などの義務を負わせた江戸時代の大名統制ではないのですから、いつまでも社員を本社に馳せ参じさせようとする組織カルチャーはこれからのBCPやリスクマネジメント刷新の考え方と逆行しているのではないでしょうか。
たとえば、日本では、ISP事業者などのデータセンターやIX(インターネットエクスチェンジ)は、東京の顧客への営業体制、サポート体制にエネルギーを注ぐあまり、立地まで東京に集中し過ぎていると思います。これはある意味で、国家的なBCPという見方ではあまり良い状態とはいえません。もし東京都心で大震災に見舞われたら、日本全体の通信が壊滅してしまうことになるでしょう。
利益になることは盛んに産学官連携や公民連携に予算・資金をつぎ込んでいますが、国家的なリスクマネジメントやBCPにおいて公民連携でリスクヘッジ対策を検討するべき時期にきているはずです。最近、宇宙航空開発研究機構(JAXA)や情報通信研究機構(NICT)では非常時の通信代替手段として、インターネットが衛星を介して被災地用の無線LANを敷く体制なども検討し始めています。民間企業でもBCPに衛星を活用する事例が出ていますが、こうした試みをもっと推進していくべきではないでしょうか。
クラウドや仮想化、あるいは最近のコンテナ型・モジュール型のデータセンターもそうですが、クラウドが変えようとしているもの、クラウド化で考え直さなければならないものは、こうしたディサスター・リカバリーやリスク分散、BCPの本質とも密接な関わりがあるのです。
T氏:なるほど。BCPやリスクマネジメントはそうした面でもそろそろ刷新していかなければなりませんね。ある意味では経営体制の戦略的視点とBCPをリンクさせていった方がよいということでしょうか。
森田:おっしゃるとおりです。ディサスター・リカバリーやクラウド/仮想化という技術が進歩し、普及しているのですから、経営幹部がどこにいても事業継続を保証できる柔軟な組織構造に持っていけるような、“平時の仕組みと有事の環境のコンバージェンス”の体制づくりが今後、ますます重要となっていくでしょう。
T氏:その辺りのバランスのとり方が鍵を握っていそうですね。
森田:はい。繰り返しになりますが、BCPとは単なる防災管理のためのツールではありません。災害による被害を抑制しつつ、同時に、経営資源やコアとなるべき業務を効率よく継続させるためのフレームワークです。短期的な復旧作業のための行動計画と中長期の経営資源の再配置をバランスよく制御することが目的です。したがって、一過性のものではなく、絶えず見直し・改善を繰り返しながら戦略的視点で改善していくべきものでしょう。既存の体制を補完するだけのBCPであってはならないはずです。
【次ページ】“BCP2.0”を促進するクラウド・仮想化
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