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  • 2012/02/27 掲載

鈴木良介氏インタビュー:ビッグデータ活用は「データ資本回転率」による試行錯誤が不可欠

おしぼり屋さんの死蔵データは「宝」になるか?

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2011年半ばから日本でも取りざたされるようになった「ビッグデータ」。直訳すれば、大きなデータという意味に過ぎないが、野村総合研究所 コンサルティング事業本部 ICT・メディア産業コンサルティング部 主任コンサルタントの鈴木良介氏は、ビッグデータ活用が企業の優勝劣敗を決めることになると指摘する。日本企業の多くがビッグデータ活用の「第二の壁」の前で立ちすくむ中、米国の先進企業は「第三の壁」を乗り越えようとしている。日本企業が今取り組むべきことは何か。鈴木氏に話を聞いた。

ビッグデータは、事業に役立つ知見を導出するためのもの

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野村総合研究所
ICT・メディア産業コンサルティング部
コンサルティング事業本部
主任コンサルタント
鈴木 良介氏
──2011年11月に『ビッグデータビジネスの時代』という書籍も上梓されていますが、はじめに鈴木様のビッグデータの定義についてお聞かせください。

 まさに今、色々な言い方がされているところですが、私の考えるビッグデータとは、“事業に役立つ知見を導出するための「高解像」「高頻度生成」「多様」なデータ”のことです。

 2001年以降の10年間、IT活用による「電子化・自動化」が進んだことで、企業は大量のデータを蓄積、取得することが容易となりました。これを企業活動に役立てようというのが現在の動きです。ただ、今は大量のデータや高頻度(リアルタイム)に生成されるデータをどのように処理するか、処理可能であるかという方法論に議論が偏ることがあります。そのため私は“事業に役立つ知見を導出するための”という表現を冒頭に付けています。

──「高解像」「高頻度生成」「多様」とは、どういうことでしょうか。

 現在ビッグデータの活用に強い関心を示しているのはマーケティング業界です。そこでは、従来より“ワンツーワンリアルタイムマーケティング”というキーワードがありました。個々の顧客に対し、リアルタイムで、パーソナライズ化したサービスを提供するというものです。

 ここでいうワンツーワンが先ほどの「高解像」に相当します。30代男性にはこれが売れる、ではなく、Aさんにはこれが売れる、Bさんはこれが好みだ、ということで、全体傾向ではなく、個別要素に関するデータであることが、ビッグデータの1つの条件だと考えています。

 次にリアルタイムというのが「高頻度生成」です。たとえば月に1回、POSデータを分析するのではなく、今来店している顧客が何を手に取ったのか、何をカゴに入れたのか、というところまで感知しましょうというのがこれに相当します。

 そして、取り扱うデータが非構造なものを含む「多様」なデータであることが、最後の条件となります。たとえば、購買時点に関するデータはPOSデータとして従来用いられてきました。しかし、購買に至るまでの経緯や、買い物をしたことについてのコメントなどを、自ら発信しているソーシャルメディアから取得して分析に活用することも行われています。

 ただし、この「高解像」「高頻度生成」「多様」は、必ずしもすべてを満たす必要はありません。それぞれ1つずつの性質を持つものでも、私はビッグデータと言えると考えています。反論もあるでしょうが、私はビジネスに役立つかどうかが重要で、データの性質そのものはかなり広範におよぶという立場を取っています。

やれば「すごく儲かる」ではなく、やらないと「負ける」

──今後、企業が考えていくべきポイントについてお教えください。

 まず同じ業態の中で、ある事業者がデータから知見を取り出して活用することができれば、大きな競争優位性を獲得することができます。一方で、他の事業者は、同じことをやれば「すごく儲かる」というわけではなく、やらなければ「負ける」ということです。

 ビッグデータの活用が進むことによる企業競争へのインパクトは、実は本質的にはネガティブな言い方をするほうが正しく、競争環境が非常に激化するということだとみています。データ活用をすればすぐさま大儲けできるわけではないが、やらなければ負けてしまう。だから結局企業はビッグデータの活用に取り組んでいかざるを得ないだろうというのが私の見方です。

 革新的な新サービスを作り出すための絶対的な方法論は世の中にはありません。やはり「打席に立つ回数」を増やすことが必要だと考えています。つまり色んな角度から分析を行ってみて、試行錯誤を繰り返すことが求められるのです。そのための技術の整備やコスト低減は実現しつつあるというのが現状なのです。

 そして今のボトルネックは、まさに人です。ツールはあるのに、それを活用する人の数が足りない。日本企業はデータ分析をはじめとしたデータ活用人材を育成してきていないのが実情だろうと思います。まずはデータ分析に関する基本リテラシーを底上げする必要があると思います。

 この話は“べき論”ですが、現実問題として今の企業がどうしているかというと、全社を見渡して、研究所や開発部門に所属している人、あるいはデータベースシステムを触ったことがある人や統計用のツールを使ったことがある人を召集して、データ分析を行う新部門に配属するというケースがあります。一度経験者採用に関するサイトを覗いてみてください。こういう企業がデータ分析ツールの利用経験がある人を募集しているのか、という驚きがあるはずです。

 それこそ、普通の人は300万件ものデータを見てしまうと気持ちが悪くなるだけで、可能性を感じることはありません。ビッグデータを取り扱うことができる人をいかに育成するか、あるいは獲得できるかが、今後企業の命運を担うことになると思います。

【次ページ】町のおしぼり屋さんにあってグーグルにない価値あるデータ
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