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  • 2012/12/18 掲載

利用規約があればマルウエアではない?スマホ利用阻むウイルス作成罪の抜け穴を防げ

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1000万人の個人情報が流出したとされる「スマートフォン情報流出アプリ事件」。一度は摘発されたものの、その後、検察が処分保留と判断して容疑者は釈放された。この事件に対し、日本スマートフォンセキュリティ協会(JSSEC)は、一通の意見書を発表し、政府や業界に対して提言を行った。今回の事件で明らかになった問題を放置すれば、業界全体が利用者の信頼を失うことになりかねないというのだ。

執筆:フリーランスライター 中尾真二

執筆:フリーランスライター 中尾真二

フリーランスライター、エディター。アスキーの書籍編集から、オライリー・ジャパンを経て、翻訳や執筆、取材などを紙、Webを問わずこなす。IT系が多いが、たまに自動車関連の媒体で執筆することもある。インターネット(とは言わなかったが)はUUCPのころから使っている。

「~ the Movie」はシロだったのか?

連載一覧
 JSSEC(日本スマートフォンセキュリティ協会)は12月3日、10月30日にスマートフォン向けに情報流出アプリを作成、配布した疑いで逮捕された業者が11月20日に処分保留となった件について、内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)、警察庁、消費者庁などに対して「スマートフォン情報流出アプリ事件の対応に関する意見書」を提出した。

 逮捕された業者というのは、「~ the Movie」というアプリを開発、配布していた企業だ。このアプリは、インストールされた端末の電話帳情報などを外部のサーバに不正に(無断で)送信していたということが発覚し、問題となった。流出した個人情報は1000万件超ともいわれている。

 この事件で警察は、不正指令電磁的記録供用容疑でアプリを配布した企業の役員らを逮捕した。ちなみに不正指令電磁的記録供用罪とは、俗に「ウイルス作成罪」と呼ばれているものだ。しかしその後、アプリに「利用規約」が存在しており、業者の不正行為の意図が明確でないと、東京地検が処分保留のまま容疑者を釈放した。

 この事件の一連の流れについては、「ウイルス作成罪」の適用について、民間の活動を必要以上に制限しないか、恣意的な運用がなされないかといった視点で、警察や地検が慎重に行動していると評価する向きもあった。

 一方で、無実の容疑者が自白調書をとられ、起訴までされた「遠隔操作ウイルス事件」とのアンバランスを指摘する声もある(なお、警視庁は遠隔操作ウイルス事件に関して、『インターネットを利用した犯行予告事件における警察捜査の問題点等について』という報告書を14日に公表している)。

 もちろん、2つの事件を同列に並べて単純な比較はできないが、企業なら慎重に捜査され、個人ならば自白の強要が安易に行われるなどということはあってはならないはずだ。

JSSECの3つの提言の意味は

 JSSECが公表した意見書の中では、主に次の3点の提言が行われている。

  1. 1000万人を超えるとされる個人情報の流出があったことを改めて確認し、その事実を伝えるとともに、再発防止に向けて関係者が協力して可及的速やかに適切な処置を行うことを切に要請する。
  2. 現在、処分保留とのことであるが、適切な目的のために収集していたものか判断できない状態であり、被害の拡大を防止する観点から、関係者により悪用の防止が図られることを要請する。
  3. 当該アプリ配布者が個人情報取扱事業者である場合、必要に応じその監督官庁より個人情報保護法にのっとった指導を要請する。

 それぞれの意味するところを筆者なりの解釈でまとめると、「業者の意図は確かに不明かもしれないが、1000万件もの個人情報が流出している事実は重く、被害者への連絡や一般への周知を徹底してほしい。そして、可能ならば流出データの回収や破棄、アプリの悪用防止などの措置もとってほしい。また、個人情報保護法から問題の業者に対しても適切な措置が必要ではないか」ということになるだろう。

【次ページ】スマートフォンアプリの不透明さ

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深刻化する病院サイバー攻撃に、「ランサムウェア交渉人」はアリかナシか?

 どうにも、この記事を書いたライターは映画やドラマ、漫画やアニメ由来のフィクションの知識で述べているようだ。バグバウンティ制度というものはあくまで開発ベンダやセキュリティベンダが任意で実施しているものであって、ベンダによってはバグバウンティ制度を取り入れていないところもある。危険性や重要度に応じて支払う報奨金というものは決まっている。そのため危険性や重要度の低いバグに対しては報奨金の金額は安くなる。支払われる報奨金というのは価格帯が既に定められているので交渉したからといって大きく変わるわけではない。交渉人が出てくる余地がないし、交渉人が仲介手数料なんて取ろうものならば原価割れしてしまうわけだ。そして、バグバウンティ制度を実施していない企業に交渉人が脆弱性情報の買取を持ちかけようものならば、恐喝罪で訴えられる可能性さえある。
「通常は、発見した脆弱性や攻撃手法を自分で利用する(犯罪を犯す)より、相手に高く買ってもらったほうがよいと考える。」と記事では書いてあるが、それも違う。仮に悪意を持ったハッカーが危険な脆弱性を発見した場合、自分でその脆弱性を利用した攻撃をして犯罪を犯すと警察に逮捕されるリスクがある。自分で犯罪さえ行わなければ警察に逮捕されるリスクはゼロだ。だから自分では犯罪は行わない。脆弱性情報を買い取ってくれる企業があればお金で売って利益を得る。ただそれだけなのだ。実際にサイバー犯罪に関わって犯罪収益を得ている反社会組織でも、脆弱性情報の多くは悪意を持ったハッカーではなくセキュリティ会社(=ホワイトハッカー)から買っている。サイバー攻撃自体は自身は行わずに買い取った脆弱性情報をもとに作成した攻撃ツールの販売やクラウド上に攻撃用プラットフォームを構築して時間貸ししてクラウドサービスとして収益を上げている。現代では脆弱性を発見する人、発見者から脆弱性情報を買って収集して販売する人、攻撃ツールを作る人、攻撃ツールを売る人、攻撃ツールを使って攻撃する人といったように各々関係のない人や組織が分業している。
 身代金支払いの是非に関して述べると、現行法では身代金の支払い自体を直接罰する法律はない。それならば身代金を払ってしまえばよい、とはならない。例えば、ランサムウェアならば様々な要素を考慮した上での経営判断が必要となる。以下の理由で正当化が出来るか、ということは最低限考える必要がある。
 1. 復旧コストより身代金の方が安価
 2. 大量の個人情報など機微性の高い情報漏えいのおそれ
 3. 重要インフラサービスの停止のおそれ
 4. 人の生命・身体が害されるおそれ
1.と2.に関しては紛れもなくその場しのぎでしかないのでまともな知性のある経営者であれば経営判断としての身代金払はしない。
3.に関しては微妙な問題なので、細かい分析をした上で社会への影響を考慮した上での経営判断となる。
4.に関しては仕方がない。払うしかない。
 ここで意識していただきたいことは、ランサムウェアの身代金の支払いに対する対応は経営者が判断すべき経営問題そのものである。現場のエンジニアや担当部署の責任者が判断するのではなく、その企業の経営方針として経営者が判断を下すべき経営問題ということだ。
 この記事の2ページ目でしきりに「交渉人」の必要性をしきりにアピールしているが、いい年した大人が妄想と現実を混同するのをいい加減にするべきだ。きっと、この記事を書いたライターの人は交渉人をモデルにした映画かドラマでも見た影響でも受けたのだろう。
 交渉人というのは本質的には犯人の脅迫行為を容認することだけではない。そもそも、犯人側にとって身代金事件の成功の鍵は交渉人が握っている。身代金支払いにより犯人側が犯罪収益を得るための功労者であることから共同正犯(刑法60条)が成立してしまう。つまり、刑法上は身代金を要求してきた犯人グループの一員とみなされてしまうわけだ。
 記事では「ランサムウェア交渉人を運用するためには、警察に犯人を特定、摘発できるくらいのサイバー捜査能力が必須となる。」と書いてあるが、犯人を特定、摘発できるのであれば犯人逮捕とともに暗号鍵も押収できるからから身代金を支払う必要がないではないか。この記事を書いたライターは自身の書いた言葉の意味を理解してこの記事を書いているのだろうか。犯罪を正当なビジネスにしてしまうこと自体が非現実的だし、あまりにも考えが幼稚で虚構と現実を取り違えたような記事を書いている暇があれば、もっと社会の勉強をし直した方が佳いだろう。もし、このライターがジャーナリストの肩書を今後も掲げるつもりならば、この記事のような妄言を書き連ねる前にはよく調査と考察を重ねて自身の考えを遂行する必要がある。今回は半田病院の事件を起点としているので、デジタルフォレンジック研究会の医療分科会が公開している資料の『医療機関向けランサムウェア対応検討ガイダンス』(https://digitalforensic.jp/wp-content/uploads/2021/11/medi-18-gl02_compressed.pdf)を一読して勉強して出直してくることをおすすめする。

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