• 2013/08/26 掲載

高橋洋一氏ら講演:アベノミクスでどうなる?インフレ・賃金の変化から次の一手を導く

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この20年間、日本の名目GDPは横ばいで停滞していたが、昨年の安倍政権発足後の政策、いわゆるアベノミクスで経済に大きな変化の兆しが見えてきた。「この10年間における世界各国のデータを見ると、お金を刷れば名目GDPも伸びており、マネー伸率と名目GDP伸率にはかなり強い相関関係がある」と指摘するのは安倍内閣で経済政策のブレーンをつとめた高橋洋一氏だ。日本経済の未来を占うとともに、その未来を見据えたIT戦略をテーマにしたイベントが行われた。

“おもてなし”のコンテンツとサービスが一体化

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GRANDIT
代表取締役社長
山口 俊昌氏
 東日本大震災、タイ洪水、欧州債務危機など、この数年来たて続けに不測の事態が起きている。先の見えない中で、企業経営者はどのような次の一手を打つべきなのか。「企業価値を高めるIT戦略とは~“攻め”のIT投資が、企業を成功に導く~」をテーマにGRANDIT主催で「GRANDIT DAY 2013」が開催された。

 まずイベント開催に際して、GRANDITの山口俊昌氏が主催者を代表して挨拶を行った。

 GRANDITは、10年前にユーザー系SI企業が中核となりコンソーシアムを立ち上げて誕生した国産ERPであり、現在の社名にもなっている。スタート当時は、欧米のERP製品が日本市場を席巻していた。そんな時代に、せめて日本企業の基盤を支えるシステムは日本企業の手でつくろう、という志のもと、コンソーシアムを結成して、GRANDITを世に送り出した。

「ERPはヒト、モノ、カネを、総合的に管理しようとするシステム。製品だけでは浸透しない。慣習や文化などを合わせて考えることで、初めて実用に耐えうるものになる。いわば、それらがサービスと呼ばれるものであり、例えば日本の良き伝統である“おもてなし”とは、コンテンツとサービスが一体化した究極の形だと言える。コンソーシアムが製品完成後も活動を続けている理由はそこにある。モノは有限だが、サービスは無限。GRANDITを中心としたサービスを無限に育てていきたい。」(山口氏)

アベノミクスによる日本経済の未来

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嘉悦大学教授
政策工房 会長
大阪市特別顧問
高橋 洋一 氏
 次に、第一次安倍内閣で経済政策のブレーンを務めた高橋洋一氏が登壇し、「日本政治経済の状況について -- アベノミクスの過去・現在・未来」と題した基調講演を行った。

 アベノミクスには金融政策・財政政策・成長戦略という3本の矢があるが、いま主流となっているのは金融政策だ。しかし政策は簡単に効果が現れるとは限らない。

「これは船の航行と同じ。舵を切ってもすぐに曲がらないからだ。金融政策や財政政策、特に最後の成長戦略については、さらに時間がかかる。金融政策でも2年ぐらい時間をみたほうがよい。現段階でその効果について述べることは難しいが、効果に矛盾があるかどうかというデータは示せる。いまのところデータに矛盾がなく、想定内のものに収まっている。」(高橋氏)

 では金融政策は、具体的にどのくらい効果がもたらされるものなのだろうか?この10年間における世界各国のデータを見ると、お金を刷れば名目GDPも伸びており、マネー伸率と名目GDP伸率には相関係数0.7と高い相関関係があるという。

「一般投資家は知らないだろうが、ジョージ・ソロスのような世界で有名な投資家は、この原理原則を知っている。もちろん、この傾向をつかむことは政策面でもビジネスを進めるうえでも役に立つ。」(高橋氏)

 さらに高橋氏は金融政策の波及効果についても言及。マネタリーベース(日銀が刷る紙幣)とマネーストック(世の中に出回った紙幣)の関係が、実体経済に与える影響を示した。「これでアベノミクスの金融政策が端的に表現され、数学の統計処理によって、すべて説明がついてしまう」。

 特に重要な点は「予想インフレ率」と「実質金利」だ。マネタリーベースが増した後、その約半年後に予想インフレ率がどうなるかによって、経済政策が正しいかどうか判断できるという。

「よくマスコミで(名目)金利が上がって困ると騒ぐ人がいるが、これはデータを見ていない最低レベルのコメントだ。名目金利が上がっても予想インフレ率のほうが高ければ、実質金利は下がるのでまったく問題ない。そういう意味では、いまは実質金利は下がっており、正しい方向に進んでいる。実質金利が下がると実体経済が上向くことは経済学の歴史が証明している。」(高橋氏)

 では、実質金利が下がると一体どうなるのか? 副産物として株価が上がり、為替は円安方向に振れる。そうなると消費も投資も上向き、輸出も増大する。その結果、GDP、賃金、インフレ率が上がり、失業率は減っていく。そして長期金利が上がり、貸し出しも増えていく、という流れになる。

 面白いのは、こういった現象がすべて数式でモデル化できるという点だ。高橋氏は、それぞれ予想インフレ率:BEI(Break-Even Inflation rate)、インフレ率、賃金上昇率、失業率、名目GDP成長率に関する数式と、実際のデータをグラフ化して説明した。

 いま黒田総裁が実施している政策は、2年間でマネタリーベースを2倍にするというもの。これをベースに高橋氏が計算すると、「名目GDPは約4~5%上昇、失業率は約3.5%減少、賃金は約3%上昇、インフレ率は2%という予測になる」(高橋氏)という。いずれも相関係数は高く、実際に意思決定できるぐらいの値となっていると高橋氏は説明する。

 ただし一方で「経済は生き物だ。いくら相関係数が高くても、何割かの確率で予想外のことも起こりうる。相関係数が0.9なら、残り1割は予測どおりにならない。その場合は何か別の手を打たなければならない。すべてが予想通りとは限らないが、現状ではうまくいっているということだ。」とも付け加えた。

 また第3の矢である経済成長戦略についても触れた。これについては「規制撤廃がマストだが、岩盤規制があり抵抗が激しいところ。そこで東京・大阪などアベノミクス特区をつくり、岩盤に穴を開けることが必要だ。穴を開けるのは難しくても、期間限定・地域限定なら可能だろう。」と主張した。

 最後に財政再建に関しては「まったく必要がない。財政再建というと、すぐに増税が思いつくが、それは間違い。増税になれば、企業は自社製品の単価を上げることになる。そうなるとモノが売れなくなり、逆に税収が下がる恐れもある。それよりも製品価格を据え置いて、販売数を増やしたほうがよい。日本経済もまったく同じこと。」(高橋氏)

 高橋氏は2002年頃の状況を実例として挙げた。この時期は名目成長率が増加しており、増税していないのにプライマリーバランスは改善したという実績がある。政策的に名目成長率を高めるだけでよいという話には賛否両論があるのも事実だ。しかし高橋氏は「あくまで数字から客観的に結果を弾きだしているだけ。数字は嘘をつかない。ただし数字を使う人はときどき嘘をつくので、信頼できる人に耳を傾けるべき。」として講演を終えた。

3つの新しい取り組みで、GRANDITがさらに進化!

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GRANDIT
社長室
室長
高橋 昇 氏
 引き続き、GRANDITの社長室 室長 高橋昇氏が登壇し、「変革期を迎えるエンタープライズアプリケーション ~企業の基幹業務を支えるERP 『GRANDIT』~」をテーマに、GRANDITの方向性や今後の展開について紹介した。

 GRANDITとは、フランス語で「植物を成長させる。」という意味で、コンソーシアム方式で事業・開発を進めてきた。具体的なコンソーシアムの構成は、製品ベンダーであり推進母体となるGRANDITと、13社のコンソーシアム(プライムパートナー)、コンソーシアムパートナーから成る。コンソーシアムパートナーには、ビジネス/セールスパートナー、ゼネラルパートナー、サービスパートナー、ソフトウェアパートナーなど合計70社ほどが参加している。

「2003年の設立当時は、すでに外資系ERPや国産パッケージが浸透しており、我々が最後発だった。そのため各業種を代表するユーザーシステム企業を中核にコンソーシアムをつくり、各社の業務ノウハウを集大成することで、顧客視線に適った製品開発を行った。」(高橋昇氏)

 GRANDITは、完全Web型・統合版を製品の特徴とし、現在までに約640社・2800サイトに導入実績がある。最後発ながらシェアは、すべての資本金別セグメントでベスト10に入っているほど。ERP市場全体では9位、500億以上で10位、100億円以上500億円未満の中堅市場で5番目に位置する。

 とはいえ、高橋昇氏は「政権交代以降も景気回復が期待されているが、まだ中堅中小企業で効果が現れるには時間がかかる。そのため市場ニーズに合わせた経営環境の変化に対応していく必要があり、柔軟性・多様性・スピードを兼ね備えたソリューションが求められている。ERPのような基幹システムも新しいニーズへの対応が必要だ。」と説き、新しい変化の波に対応すべく、GRANDIの3つの取り組みについて述べた。

 1つめの取り組みは、GRANDITを中核とした「Best of Breed Solution」による領域の拡大だ。GRANDITは、完全疎結合・完全連携を両立する合計10のモジュール(経理・資産管理・販売・製造・調達在庫・人事・ 給与など)で構成され、Best of Breedとスイートの概念を両立させた。「トータルソリューションに向けて今回、新たにSFAやCRMの領域でアライアンスを拡大し、専業ISV製品と連携することで機能拡張を行っていく。」(高橋昇氏)。

 2つめの取り組みは、いつでも、どこでもアクセスという、スマートデバイスによる業務改革への期待に応えること。GRANDITでは、スマートデバイス 対応のアプリケーション開発環境(開発ツール)や連携インターフェイス(API)の提供に加えて、新たな運用サービス(MDM、アプリケーションストア)などを提供する予定だ。

 3つめの取り組みは、最新ハードウェアの進化に伴い、IO性能や低電力消費などによってパフォーマンスを向上させる計画だ。特にSSDデバイスは、この数年で70分の1までコストが劇的に下がっている。そのため、これらを利用してGRANDIT専用のSSDアプライアンスサーバー製品を提供する予定だ。

 最後に高橋昇氏は「最新ハードウェアによって、グループIT基盤の統合化を図っていきたい。GRANDITコミュニティをつくって、さらに製品を進化させていきたい。」と今後に向けた意気込みを示した。

 その後、GRANDITコンソーシアムによる多種多様な業種での成功事例を含めた12のセッションが行われ、イベントは大盛況のうち終了した。

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