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- 2014/10/17 掲載
なぜテスラモーターズは、アップルから人を引き抜いてまで直営店を展開しているのか
連載:トヨタに学ぶビジネス「改善」の極意
1937年宮城県生まれ。トヨタ自動車工業に入社後、生産、原価、購買、業務の各部門で、大野耐一氏のもと「トヨタ生産方式」の実践、改善、普及に努める。その後、農業機械メーカーや住宅メーカー、建設会社、電機関連などでもトヨタ式の導入と実践にあたった。91年韓国大字自動車特別顧問。92年カルマン株式会社設立。現在同社社長。中国西安交通大学客員教授。
著書に『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』『トヨタ流「改善力」の鍛え方』(以上、成美文庫)、『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』 『トヨタの上司は現場で何を伝えているのか』『トヨタの社員は机で仕事をしない』『なぜトヨタは逆風を乗り越えられるのか』(以上、PHP新書)、『トヨタ式「改善」の進め方』『トヨタ式「スピード問題解決」』 『「価格半減」のモノづくり術』(以上、PHPビジネス新書)、『トヨタ流最強社員の仕事術』(PHP文庫)、『先進企業の「原価力」』(PHPエディターズ・グループ)、『トヨタ式ならこう解決する!』(東洋経済新報社)、『トヨタ流「視える化」成功ノート』(大和出版)、『トヨタ式改善力』(ダイヤモンド社)などがある。
なぜテスラはアップルから人を引き抜いてまで直営店を展開するのか
今から10年くらい前のことだが、ある大手電機メーカーの幹部に「量販店を買収して自前の販売網を強化したらどうか」と提案したことがある。もちろんすべての製品を自前で売る必要はないが、できるなら量販店の一つも自前で抱えてお客さまとの接点を強化してはどうかというのが筆者の提案だった。
残念ながらこの提案に賛同するメーカーはなかったが、日本の電機メーカーの競争力低下の背景には自前の販売網の軽視も影響しているような気がしてならない。

「販売員が気にするのは50ドルの売上げ報奨金だけだ」
アップル製品の機能には自信がある。しかし、デルやコンパックが幅を利かす量販店で高価なアップル製品をあえて薦める店員などいない、ということだ。
アップルが勝つためにはイノベーションは欠かせない。かといって、消費者に伝えることができなければ、イノベーションで勝利できないというのがジョブズの考えであり、そこから生まれたのが自前の直営店アップルストアという考え方だ。
2000年1月、ジョブズはアップルストアの計画に本格的に着手、2001年5月にヴァージニア州タイソンズコーナーに1号店をオープン、大成功を収めることになった。
もちろん今でもアップル製品の多くは量販店などで売られているが、アップルストアという直営店を全世界に展開することでアップルブランドを強化、消費者との接点を強めたことがその後のアップルの成功に大きく貢献しているのは間違いない。

マスクは全米にいくつもあるディーラーに頼るのではなく、自前の直営店を展開することによる販売を重視している。なぜなら、ガソリン車に比べて電気自動車は高額であり、充電などに関する説明も必要になる。また、電気自動車の利点を強調することは、既存のガソリン車の欠点を指摘することでもある。これでは既存のディーラーに任せての販売は難しい。
マスクはアップルストアの構築に関わったジョージ・ブランケンシップ氏をスカウト、自前の直営店をアメリカや日本に設けることで電気自動車の販売を促進しようとしている。
ジョブズもマスクも自分たちがつくる製品には絶対の自信を持っている。他社製品とは違うという自負もある。だからこそ自前の直営店をつくり、その利点や理念をしっかりと伝え、ファンづくりにも力を入れている。モノづくりにはこうした「いかに売るか」という視点がとても大切なのである。
【次ページ】販売にも先行投資が必要である
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