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  • 2015/10/29

「進撃の巨人」のヒットを後押ししたのは、社会構造の課題や経済低迷だった

「進撃の巨人」×「孫子」から学ぶ組織論(前編)

別冊少年マガジン連載の漫画「進撃の巨人」が大ヒットを続けている。本作が描くのは「あらゆることが停滞し、うまくいかない」「社会構造や組織構造そのものに課題があって、打開策が見いだせない」という昨今の世情そのものである。計画通りに運ぶ物事は何一つなく、展開されるのは、ただひたすらに「何をやってもうまくいかない」という現実。冷静に読むと、ただ重苦しいだけの話であるが、これは実際に、今日の若手社会人が置かれている状況の息苦しさに深く通じている。

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

プロジェクト進行支援家 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

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進撃の巨人のヒットを後押ししたのは何だったのか

 累計発行部数が5000万部を突破、アニメシリーズは好評、実写映画は賛否両論で大きな話題を巻き起こし、その他にもゲーム化、海外展開と、別冊少年マガジン連載の漫画「進撃の巨人」が絶好調である。

 「漫画やアニメばかり見ていると馬鹿になる」と大人から煙たがられていたのも昔のこと、近年の漫画、アニメーション作品はブルー・レイや関連グッズの収入を合わせて様々な帳尻が合わされることになっていて、若手社会人からの強い支持が人気を支えている。

 こうした状況は、その必然的な帰結として、ヒット作品に現在の世情が色濃く反映されるという現象を引き起こしている。ヒット作品はこの世を映す鏡だと言われるが、まさしく現在進行形でそれを体現しているのが「進撃の巨人」という作品である。

 どう考えても勝ち目のない巨人。その強大な敵に対抗するどころか、それ以前に迷走を重ねる政治。私利私欲と倦怠に満ちた組織。さらに、なにゆえに敵にさらされなければならないのか、その理由がわからない理不尽さ。主人公の属する「調査兵団」は、唯一の実効制圧力を持った部隊であるが、民衆の信認もなければ、これといった実績もない。計画通りに運ぶ物事は何一つなく、展開されるのは、ただひたすらに「何をやってもうまくいかない」という現実である。

 このように読むと、これ以上ないような重苦しい話であるが、これは実際に、今日の若手社会人が置かれている状況の息苦しさに深く通じている。言うまでもなくそれは経済的な長期低迷と直結しており、「先の展望が開けない」「あらゆることが停滞し、うまくいかない」「社会構造や組織構造そのものに課題があって、打開策が見いだせない」という昨今の世情そのものである。

 もちろん娯楽作品であるので、物語上は、「本当に最後までうまくいかない」というふうにはならない。現実社会では時として、そういうこともあるものだが、そうした現実だけを見せるだけの作品ではヒットするはずもない。主人公には特別な力が宿っていて、彼の上司もなんだかんだ言って優秀であり、局地戦では数々の勝利を収める。

 それはこの作品における「夢」の部分である。世情を反映した「うまくいかないこの社会」を描きつつも、それを覆して物事がうまく運ばなければ、読者はカタルシスが得られない。この「現実」と「夢」の配分こそがこの作品の要と言える。

 そこで必要になってくるのは、主人公たちが圧倒的不利な状況で、それでも勝利を得ることができるためのリアリティである。

 そう簡単に目の前の課題が解決されてしまっては、単なる絵空事で面白くもなんともないが、解決されなければ話にならない。もちろん最終的に解決されてくれなければ読む気が起きない。その解決の方法や過程にリアリティが感じられるかどうか、それが問題なのである。

 そのリアリティの根拠として語られるのが、「獲得目標を定めよ、そしてそのために捨てることができるあらゆる可能性を考慮せよ」というテーマだ。

進撃の巨人で描かれる「目的達成のために何かを犠牲にする作戦」

 そのテーマは、第7巻、物語の序盤における最大のクライマックスとなる作戦で初めて語られる。

 主人公が所属する兵団、「調査兵団」のトップに立って組織を指揮する団長、エルヴィン・スミス氏は戦略家として数々の実績を残す、偉大なるリーダーである。ある事件をきっかけに、組織の内部に敵のスパイがいると考えた彼は、ほとんどの部下を偽って決死の囮作戦を展開した。結果的には敵方のキーマンを捕らえることに成功したが、団長の偽りの命令で多数の兵を無為な戦死へと追いやることになってしまった。

 多くの仲間の死によってショックを受ける主人公達は、団長の作戦に対して疑義を呈するが、そこで主人公の一人、アルミンは驚くべき論理でそれを肯定するのだった。

(ジャン)
だとしても釈然としねぇ
どこに諜報員がいるかわからないって状況にしても・・
もう少しくらい多くの兵に作戦を教えても良かったんじゃないか?
あの巨人の存在を知っていたらよ・・・対応も違ってたはずだ

(アルミン)
いや・・・間違ってないよ

(ジャン)
は?何が間違ってない?兵士がどれだけ余計に死んだと思ってんだ?

(中略)

(アルミン)
どれだけの成果をあげようと・・・兵士を無駄死にさせた結果がなくなるわけじゃない
確かに団長は非情で悪い人かもしれない
けど僕は・・・それでいいと思う

あらゆる展開を想定した結果 仲間の命が危うくなっても
選ばなきゃいけない 100人の仲間の命と 壁の中の人類の命を
団長は選んだ 100人の仲間の命を切り捨てることを選んだ

大して長くも生きてないけど 確信してることがあるんだ・・・
何かを変えることのできる人間がいるとすれば
その人は きっと・・・ 大事なものを捨てることができる人だ

(進撃の巨人 第7巻)

【次ページ】進撃の巨人が描く、現実の課題を読み解くヒント

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