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  • 2016/04/01 掲載

ヤマハ・カワイ・ローランド、世界トップ級でも求められる楽器業界の多角化戦略

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春の進入学シーズンは新しく楽器を始める若い世代が多く、楽器店は今が書き入れ時。しかし、少子高齢化が進んで国内先細りの日本の楽器メーカーは、世界的なブランドを持ちながら楽器の製造・販売とその周辺ビジネスだけでは成長が見込めなくなってきている。そこで、最大手のヤマハはAV機器、半導体、ルーターなどのICT機器、インテリア、英語教室、ゴルフクラブにリゾート開発を展開。カワイもピアノ製造の端材を使った「跳び箱」に始まるスポーツ・フィットネス用品や体操教室、素材加工事業を手がける。ローランドは関連会社だったローランド・ディー・ジーが「3Dプリンター」で脚光を浴びるなど、それぞれ事業の多角化を進めている。

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。

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世界でも存在感を持つ日本の楽器業界だが、多角化を進めているのはなぜか

音楽大国ニッポンが将来、先細りになる懸念

 日本の楽器産業は、戦後の輸出貢献産業で、静岡県浜松市がホームタウンの「YAMAHA(ヤマハ)」「KAWAI(カワイ)」と電子楽器の「Roland(ローランド)」は世界的な企業にまで成長し、ヤマハの持分法適用会社の東京都稲城市の「KORG(コルグ)」、名古屋市の星野楽器(非上場)の「Ibanez(アイバニーズ)」なども、一流ブランドとして認められている。

 世界に飛躍できたのは、良質な国内市場に育てられたおかげ。日本は戦前からヨーロッパを手本とした音楽教育の水準が高く、幼稚園も保育園も小・中学校も高校も楽器産業にとって大のお得意先だった。

 さらに国民に「一億総中流」意識をもたらした高度成長時代には、普通の家庭でも女の子が生まれたら競って高価なピアノを買って習わせ、男の子もプレスリーやビートルズのようなスターに憧れてギターを手にした。1990年頃には空前の「バンドブーム」も起こり、その間、民間の楽器産業は昭和30年代から全国に音楽教室を開設し、大学や専門学校で音楽を勉強した専門講師を雇って楽器の普及に努めることで、順調にエコシステムを拡大した。

 そうやって日本は、プロを頂点に、楽器をまともに演奏できる愛好者の裾野が広い「音楽大国」になった。2011年の総務省の社会生活基本調査によると、過去1年間に楽器を1日でも演奏した人は9.6%、10日以上演奏した人は6.7%だった。

 欧州連合の2013年の調査では、楽器を年に1日でも演奏した人は加盟国平均で約8%で、英国、ドイツ、フランスは10%前後。今や西洋音楽の本場ヨーロッパと日本とでほとんど差がない。国民の間に楽器を普及させ、そんな状況を築き上げるのに、日本の楽器産業は大きく貢献した。

 だが、少子高齢化で子どもの数はどんどん減っている上に、「格差社会」の到来で子どもに楽器を買い与えて習わせる余裕がない家庭も増えている。音楽大国ニッポンも将来、先細りになる懸念がある。

 データを見ると、最大手のヤマハでも楽器事業の国内売上高は明らかに頭打ちだ。業界大手3社の楽器の売上の海外比率は、ヤマハは62.8%、河合楽器製作所は79.8%(鍵盤楽器のみ)、ローランドは79.9%を占めている。そのように楽器の輸出や海外生産で稼げるとしても、国内では「音楽ではもう食べていけない」というのは、楽器産業にとって危機の時代の到来を意味する。

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楽器大手3社 楽器の日本国内、日本以外の売上高
※ヤマハは楽器事業、河合楽器は鍵盤楽器、ローランドは電子楽器の売上高
※ヤマハ、河合楽器は2015年3月期、ローランドはMBO前の2014年3月期



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ヤマハの楽器事業の日本国内の売上高推移(単位:億円)
※2016年は見通し


 国内の需要減を食い止める戦略も必要だが、縮小する国内の楽器市場やその周辺ビジネスに代わる新たな収益源を確保する戦略もまた、必要。それにより世界でも最高のレベルに達している楽器づくりや調律の技も維持できる。そんなことを意識しながら、各社は楽器以外の事業への多角化を進めている。

音楽教室で英語も教える。勉強もスポーツも教える

 楽器産業にとって、楽器を普及させるために幼児向けの早期教育も行って拡大させてきた音楽教室のネットワークは、ビジネスを多角化させる上でも重要なインフラになる。「ヤマハの音楽教室」や「カワイの音楽教室」で、音楽以外の別のことも教えて始める新事業は、インフラの初期投資が少なくてすむ。

 楽器産業がいち早く着目し、すでに事業が軌道に乗っているのが「英語」。特にジュニアの英語教室は、文部科学省が2011年度から小学5、6年生の「外国語活動」を必修化し、2020年度からは英語を正式教科化する方針なので、需要が高まっている。

 ヤマハの英語教室は30年も前の1986年に始まり、カワイも音楽教室に英語教室を併設した。そのネットワークに着目したのが学研ホールディングスで、2015年に河合楽器との間で業務提携、資本提携を相次いで締結。カワイの音楽教室内に学習塾の「学研教室」を併設する一方、学研も国内40ヵ所で「カワイの音楽教室」のFC展開を始めた。

 さらに中国、東南アジアでは、両社が共同で子どもが算数とピアノを一緒に学ぶ教室のFC展開を進める予定になっている。それによって両社とも2020年、約5億円の増収効果をあげるという目標を掲げている。

 カワイの音楽教室は直営が基本だったが、ヤマハのほうは「一般財団法人ヤマハ音楽振興会」が全国の楽器店やレコード店などの特約店と契約するFC形態が大部分。その中には、ジュニア英語教室、大人のための音楽や英会話の教室だけでなく、ダンス、ヨガ、絵画、書道、俳句、手芸、フラワーアレンジメントや資格取得などのコースを盛り沢山に併設して、まるでカルチャーセンターのようになっている教室もある。

 なお、河合楽器のほうの特徴は、早くから音楽だけでなく「スポーツ」にも着目してきたこと。戦後の高度成長時代、ピアノ製造の際に出てくる端材を利用して体育用具の「跳び箱」や卓球台を製作し、楽器の販売ルートを通じて全国の小学校に納めたのが始まりで、現在は各種スポーツ・フィットネス機器も製造・販売している。

 ジュニア対象の「カワイの体育教室」も1967年に始まり、特に体操競技、新体操競技には力を入れ、元オリンピック選手を指導者に起用している。

【次ページ】多角化が本業ほど稼げないヤマハ、多角化が本業を助けるカワイ

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