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- 2016/07/16 掲載
九州の出版社版リアル「重版出来!」 芥川賞候補作品編集者の仕事の流儀とは
著者との出会いを大切にする
さまざまな本を出版してきた田島さんは、なかでも文芸誌をいつか、と考えてきた。自らも詩人でもある田島さんが詩集や歌集を発行するなかでの翻訳家・西崎憲(にしざきけん)さんとの出会いが今回の「たべるのがおそい」発刊につながり、今村夏子さんの「あひる」の寄稿にも恵まれた。
執筆者の1人であり編集長でもある西崎さんは「わたしたちは誰もが重力というものに支配されています。『たべるのがおそい』は、その重力を少し弱めてみたいと思っています。読んでいるあいだ、少し動きやすく、歩きやすい、それがこの一風変わったタイトルの文学誌の目標です」とコメントを寄せている。
田島さんは「私は本が大好きですから、家にも会社にも本が溢れています。本好きが高じて出版社を作ったようなものですが、文芸誌を作ることは夢のようなものでした」と胸中を語る。
では、本を売るための戦略はどこにあるのだろうか。
出したい本を売れる本にする戦略
「たべるのがおそい」は初版3000部のムック本。ムック本とは、形式は雑誌だが、定期的な刊行を前提としてはいない刊行物を指す。
ムック本である「たべるのがおそい」には雑誌コードではなく、書籍コードが付され、基本的に一般書籍と同じ要領で作られる。書籍と違うのは、執筆者への報酬が印税ではなく、原稿料の形をとる点だ。そのため、初版コストが高くなるが、雑誌の作りと同じにすることで、文芸誌らしい体裁になり、再版コストは下がるのだという。
出版に踏み切ったのは「新しい切り口だからやる価値がある」との決断からだという。ところが、この挑戦ともとれる決断から、重版になるケースは少なくない。
【次ページ】本を作り、本を売る流儀
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