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  • 2017/02/16 掲載

「穴が空いたバケツ」だった日経電子版アプリ、どうやって改善したのか?

【後編】

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1月12日と13日に行われたスクラムのイベント「Regional SCRUM GATHERING Tokyo 2017」では、日本経済新聞社でモバイルアプリケーションの開発チームを担当する武市大志が登壇。内製化やアジャイル開発を実現するために改革と改善を繰り返してきた背景と事情を詳しく解説してくれました。本記事はその講演内容をダイジェストで紹介します。

Publickey 新野淳一

Publickey 新野淳一

ITジャーナリスト/Publickeyブロガー。大学でUNIXを学び、株式会社アスキーに入社。データベースのテクニカルサポート、月刊アスキーNT編集部 副編集長などを経て1998年退社、フリーランスライターに。2000年、株式会社アットマーク・アイティ設立に参画、オンラインメディア部門の役員として2007年にIPOを実現、2008年に退社。再びフリーランスとして独立し、2009年にブログメディアPublickeyを開始。現在に至る。



前編はこちら

バケツを大きくするためにリニューアル

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 次は、バケツを大きくしましょう。という話です。

 なにをしたかというと、日経電子版のアプリを全面リニューアルしました。

 2015年4月にリニューアルしたのですが、スクラッチで内製開発をし、UI/UXを変えるだけでなく、コンテンツを増やしたり、使えるユーザーを増やしたりしました。

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 深津さんと一緒に3カ月かけて紙のプロトタイプを丁寧にしあげていって、インフラもオンプレからクラウドへ移行して柔軟に対応できるようにしました。

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 リニューアルすると、AppStoreのベスト新着Appになりました。ここに載るとインストール数がすごいですね。

 ただしバケツを大きくする作業はとてもつらいです。リニューアルすると体験が変わるので、反発する既存ユーザーもいます。そのため辛辣なフィードバックもたくさん来ます。胃に穴があきそうで、とてもつらい作業です。

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 おかげでインストール数は増えましたが、アクティブユーザー数が増えたかというと、そうではありませんでした。つまり、バケツには穴が空いていたんですね。

小さな改善の繰り返しでバケツの穴を地道にふさぐ

 この穴をふさぐ必要がある。つまりリテンションを改善する必要がある。

 穴をふさぐ作業というのは地道なグロースハックで、地味な改善の繰り返しです。なのでほかのチームからはなにをやっているのか見えにくい。

 ある日、社内のプロモーション担当とこんな会話をしました。

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 内製で機能をどんどん追加していくんじゃないの? という誤解というか期待みたいなのがあって、でもそうやって機能をどんどん足していくとどうなるか。

 これは深津さんがよく説明に使う百徳ナイフ、こういうものができますよと。あなたは日経電子版をこうしたいんですか? 違いますよねと。

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 穴をふさぐ作業というのは、チーム内でできることと、社内のほかのチームと連携することの2つがあります。

 最初はアプリ開発チームが自分たちでやりやすいことからやります。ダウンロードの高速化や、画面がさくさく動くようにする、アプリがクラッシュしないようにするなど。

 こうしたことを隔週くらいでリリースするようになりました。

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ほかのチームと一緒に、伝統的な全角英数を半角へ

 ほかのチームと一緒にやらなくてはいけない改善は、例えばほかのチームが担当しているAPIを改修するとか、記事の内容そのものの改修などがあります。

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 例えば、新聞の英数字は全部全角なんですよ。新聞は縦書きなので。これがスマホのアプリでもそのまま表示されていました。

 このことは新聞社の伝統みたいになっていたので、そうした記事の見え方をいじるのは割とタブー視されていました。それを内製化のあとで半角英数に変えました。

 これを実現するためにどんなステップが必要だったかというと、われわれは「編集」と呼んでいるコンテンツ担当者、記事を書く人に個別に相談をします。いきなり会議で言うと集中砲火を浴びるので(笑)

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 で、ある程度相談したあと、しかるべき会議で提案していくと。

 そもそも技術的に変換可能なのか、別のチームが担当している分野なので相談をして、確認用のプロトタイプのアプリをわざわざ作って、それをインストールした実機を用意して、コンテンツ担当者に渡して、数日間使ってもらいます。

 で、気になる点や問題があったら対応しますと言って、丁寧にデモをして信頼を得ていくと。

 で、やっとOKが出たら、APIのチームと要件を詰めて実装をしてもらって、最終テストをすると。

 こういうプロセスが必要でした。

 半角英数にするのは当たり前と思っていたのですが、Twitterなどで話題になって、記事にもなりました。

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 こういう細かいところ、必ずしも数字に直結しないけれど、そういう改善を愚直にやっています。

 例えば、左と右ではタイトルの改行位置が違います。左だと読みにくいことがあったので、いい感じで改行を入れられるように、あるロジックで改行をするようにしました。

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上から降ってくる案件は、徹底的に削ぎまくる

 こういう地道な改善とは別に、上から降ってくる案件、というのがあります。上司やほかの部局から「こういうことをやってくれ」というのが降ってきたりするのです。

 そういうのに対応すると隔週の改善リリースが止まってしまうので、どうするかというと、依頼内容を削いで削いで削ぎまくる。

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 「ここにこういうボタンを出したいんだけど」「それは本当にユーザーのためになりますか?」とか「本当に使いますか?」とか「全部必要ですか? 最初に一部だけ実装して、あとはフィードバックを待ちませんか。2週に一回リリースできますから、アジャイルですから」と。

 削ぎ落とすことで要件がシンプルになり、仕様もシンプルになる。するとユーザーにも使いやすいはずなんです。

 こういうことを一年間続けた結果、リニューアル直後はアクティブユーザーが増えていなかったのですが、いまは1.9倍になって、レビューもいい評価を得られるようになりました。

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【次ページ】 改善を続けていくためにしていること

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