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  • 2017/04/26 掲載

Mission ARM Japanは「Googleインパクトチャレンジ」から「電動義手普及率20%」へ挑む

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テクノロジーを活用して社会問題の解決に挑むNPOを支援するプログラム「Googleインパクトチャレンジ」。日本開催のものでは、2015年3月に選出された4団体がそれぞれ5,000万円、ファイナリストの他6団体が2,500万円の助成金を手に入れた。その1つ、「3Dプリンターでつくる義手」プロジェクトを進める特定非営利活動法人「Mission ARM Japan(以下、MAJ)」の活動報告会がDMM.make AKIBAで行われた。exiiiからMAJに移り、筋電義手「HACKberry」の開発を進める近藤玄大氏、MAJ Agency Labの小笠原祐樹氏、および今井剛氏が、義手開発の現状と可能性を語った。

執筆:フリーライター/エディター 大内孝子

執筆:フリーライター/エディター 大内孝子

主に技術系の書籍を中心に企画・編集に携わる。2013年よりフリーランスで活動をはじめる。IT関連の技術・トピックから、デバイス、ツールキット、デジタルファブまで幅広く執筆活動を行う。makezine.jpにてハードウェアスタートアップ関連のインタビューを、livedoorニュースにてニュースコラムを好評連載中。CodeIQ MAGAZINEにも寄稿。著書に『ハッカソンの作り方』(BNN新社)、共編著に『オウンドメディアのつくりかた』(BNN新社)および『エンジニアのためのデザイン思考入門』(翔泳社)がある。

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MAJ Agency Lab近藤玄大氏


MAJがGoogleインパクトチャレンジに挑戦したワケ

 MAJは2014年6月、上肢障害の当事者が集まる場として設立された。当事者にしかわからない悩みや情報の共有を広げていきたいという思いで作られた組織だ。

 そんなMAJがGoogleインパクトチャレンジに挑戦したきっかけは、筋電義手「handiii」の実用化を進めていたexiiiとの出会いだった。

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Googleインパクトチャレンジは「テクノロジーを活用してよりよい社会を作るアイデア」を支援する仕組み。国内のNPOを対象に公募され、現在10組の団体が助成金を得て、それぞれのプロジェクトを進めている。
 話は2014年に遡る。

 3Dプリント義手「handiii」のコンセプトモデルを発表した近藤玄大氏、山浦博志氏、小西哲哉氏は「handiii」を実用化するためにexiiiを起こし、本格的な開発に着手していた。

 彼らが開発したhandiiiはパーツの製作に3Dプリンタを使い、筋電(筋肉が発する電気)の制御をスマートフォンで行う。それによりコストを抑え、数万円台で電動義手を実現する。数万円というのは、従来の義手の価格である150万円と比較すると破格だ。実用化に向け、資金調達にクラウドファンディングを利用するなど、ハードウェアスタートアップの雄として、注目を集めていた。

 ちょうどそのとき、exiiiを取り上げたニュース番組を見ていたMAJのメンバーがexiiiに連絡してきた。

 近藤氏らにとっても、当事者だけでなく、支える周囲の人(義肢装具士、作業療法士、医療関係者ら)が集うコミュニティとの連携は貴重な機会だ。面会したMAJ理事の倉澤奈津子氏と意気投合し、exiiiが技術協力する形でGoogleインパクトチャレンジのプロジェクトが始まった。

 その後、exiiiはhandiiiをベースに日常生活での使用に耐え得るプロダクトとして「HACKberry」を発表する。現在、HACKberryを構成する各部品の3Dデータ、基板や制御用のプログラムはオープンソースハードウェアとして、世界中の誰もが作れるように公開されている。

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handiii(左)とHACKberry(右)。現在、HACKberryはヨーロッパ、アメリカ、アジアなどさまざまな国で作られている。

 HACKberryはこのように動く

 Googleインパクトチャレンジでのプロジェクトの目標は、日本における電動義手の普及率を上げること。2015年の電動義手の普及率はわずか2%だ。これを2018年までに20%に拡大することを目指している。

 電動義手が普及しないのには理由がある。学生時代から義手の研究をしてきた近藤氏は、これまで、その要因の1つである「価格」を開発によって解消しようと、handiii、そしてHACKberryと開発を続けてきた。

 従来の義手であれば、義肢装具士が患者1人ひとりに合わせ、型をとり、それを元にシリコンなどで造形する。完全にオーダーメイドの世界で、高価格なプロダクトだ。HACKberryであれば、3Dプリンタを使って自分で作る場合は5万円以下で作れるというところまで進んできている。

 しかし、それだけでは足りない。「開発をすればいいというだけではない」と近藤氏は指摘する。もっと情報を各地に届けていかなければ、義手が必要になった場合の具体的な選択肢にならない。「開発」と「普及」の両輪が必要なのだ。

 MAJの数値目標は前述のとおりだが、HACKberryに限らず、3Dプリント技術などデジタルファブリケーションを活用し、もっと義手をカジュアルなものに、選択肢を広げるものとしたいという気持ちが根底にある。

コミュニティを支えるプラットフォームを作りたい

 MAJの活動イメージは図のとおり。

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MAJの位置付け
(出典:MAJ Webサイト)
 当事者(=疾病や事故などによる後天的、あるいは先天的な上肢障害者)を真ん中に、その外側にエンジニアや義肢装具士、作業療法士など医療関係者がいる。それぞれ、土日やプライベートの時間を使って活動している。

 たとえば、HACKberryを欲しいと思った人は、どうすればHACKberryを手に入れることができるのかわかるだろうか。検討もつかないだろう。当事者も突然当事者になるわけで、それまではそうした知識はない。そんなとき、こうしたコミュニティがあれば、医療関係者、作業療法士、義肢装具士、それぞれ必要な段階で必要な人が臨機応変に相談に乗ることで、なるべく早く手にすることができる。

 そのような事例はすでにある。

 ペルーから来日し交通事故に遭ってしまった人がいる。日本の制度の中でどうしたら義手を手に入れることができるのか。彼女の場合、exiii経由で連絡が来て、実際にMAJの集まりに参加してもらい、専門家がルートを示すことで2ヶ月で義手を作ることができた。

 また、歌手のbeautyANDSnowさんの場合、ライブでジェスチャーができる義手が欲しいとexiiiに連絡した。これは多くの人にとってマストな要件ではないかもしれない。しかし、彼女にとっては重要な、満たされなければならない希望だ。

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歌手のbeautyANDSnowさん

 このように上肢障害といっても、1人ひとりのニーズが異なる。企業が1社でその1つひとつのニーズを満たしていくのは難しい。しかし、コミュニティならそういう仕組みを作ることができる。1人ひとりのさまざまなストーリーに寄り沿っていける可能性がある。

 近藤氏がここで強調したのは、「いまは義手を作るだけの段階ではなく、少しでも多くの人のライフスタイルを明るくしていこうという段階なのだ」ということだ。

 1人ひとりが違うということを前提に、それぞれのライフスタイル、個性を大切にした上で、生活を豊かにするさまざまなアイデアを手軽に試す場として、いま水曜日の夜に定期的に集まり、フラットな立場での議論やさまざまなアイデアの検討、プロダクトやサービスの開発を行っている。

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MAJ

 最終的にMAJが目指すのは、図のようなプラットフォームだ。

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コミュニティの土台としてプラットフォームを形成する
(当日のスライド資料より)

 ポイントはコミュニティと呼んでいるものの下にプラットフォームを作ること。Googleインパクトチャレンジの助成金が尽きて終わり、ではなく、継続できる場を目指している。

【次ページ】最新技術による義手の進化

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