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  • 2018/05/29 掲載

日大アメフト問題はオリンパスや東芝と同じだ 日本型組織にひそむ「病理」

ムラ社会の維持を望む私たち

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アメリカンフットボールの悪質な反則タックルが波紋を呼んでいるが、この問題は、単にスポーツ界だけにとどまらない。以前から何度も議論されてきたにもかかわらず、一向に改善しない日本型組織における本質的な病理といってよいだろう。日本企業がしっかりとしたコーポレートガバナンスを確立できないこととも密接な関係がある。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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大きな波紋を呼んだ日大の一連の対応だが、そこには日本型組織に特有の「病理」とも呼ぶべき課題がある
(写真:日刊現代/アフロ)

アメとムチによる組織のコントロール

 今回の出来事は、日本大学のアメリカンフットボールの選手が、関西学院大学の選手に後ろからタックルを行い、全治3週間のケガを負わせたことを発端としている。当初は悪質な反則という認識だったが、実際にタックルを行った選手が記者会見を行い、監督から相手の選手をケガさせるよう指示を受けたと説明したことで、組織ぐるみの不正が明らかとなった。

 指示を出したとされる監督は、大学の常務理事も務めており、学生の就職にも大きな影響力を持っていたという。一部の報道では、監督に嫌われてしまうと試合に出ることができず、選手生命が危うくなるのはもちろんのこと、卒業後、一流企業に就職することも難しくなる状況だったとされている。

 ルール違反をしてでも実績を上げろという組織トップの命令があり、これに従わないと自身が不利な状況に追い込まれるという恐怖感が組織を支配していた。その一方で、組織に服従していれば、たとえ選手として大成しなくても、一流企業に就職できるというニンジンもぶら下げられていたことになる。

 反則を行った選手は、村八分になるという恐怖と、自身が得られる利益との間で悩み、結局は反則タックルを実施してしまった格好だ。

 これは、日本企業において組織的な不正が起きる時の典型パターンといってよい。

 オリンパスや東芝の不正会計や三菱自動車のデータ改ざんなど、日本の上場企業はこれまで何度も不祥事を起こしてきたが、どの企業にも似たような図式ある。問題が発覚した後でも組織内に自浄作用が働かず、不正を指示した幹部を守ろうとするという点でもまったく共通である。

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日大アメフト問題は、すべての日本企業にとって共通の課題だ
※写真はイメージです(©bernanamoglu - Fotolia)

非合理的な決断が行われてしまう理由

 東芝の不正会計問題では、当時のトップから「チャレンジ」というプレッシャーがかけられていたとされている。業績目標を達成するよう強い圧力が生じ、社内にはそれに逆らえない雰囲気が出来上がってしまう。だが、不正に手を染めた社員が完全に被害者なのかというと必ずしもそうとはいえない。

 確かに、上からの圧力に逆らって不正に手を染めなかった場合、左遷といった報復を受ける可能性が高いだろう。だが大手企業の場合、そう簡単に解雇することはできないし、日本の場合には、ローテーション人事が多いので、時間が解決するという側面もある。どうしてもその会社が嫌なら転職してしまえばよい。

 だが、大手企業に入社するのはいわゆる学歴エリートが多く、中には子供の頃からすべてを犠牲にして猛勉強を重ねてきた人もいる。せっかく手に入れた一流企業の社員という切符を、簡単に手放したくないという意識が強く働いてしまうのだ。こうした環境ではたいていの日本人が、罪の意識と自身の利益で板挟みになるものの、最終的には自身の利益を優先する。

 いくら一流企業に在籍できるからといっても、場合によっては刑事罰を受けるリスクを背負うことを考えると、こうした行為にはまったく経済合理性がない。非合理的な意思決定が行われてしまう背景には、日本独特の雇用制度が深く関係している。

 日本の企業社会は「就職」ではなく「就社」であるとたとえられるが、まさにその通りであり、ビジネスキャリアの大部分は、最初に入った会社で決まってしまう。最近でこそ転職は珍しくなくなったが、転職は不利に働くことがあり、今でも転職を望まない人は多い。

 退路が断たれた状況では、社内の濃密な人間関係が優先され、不正を働くことがあたかも愛社精神の発動であるかのような雰囲気が醸成されてしまうのだ。

【次ページ】実は日本企業の「競争力低下」とも密接に関係している

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