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  • 2018/07/13

老害は「センスがいい人」の成れの果てだ

今日のビジネスシーンにおいて、新しいものにキャッチアップし、波に乗り遅れないようにしたい、過去の成功体験には縛られてはいけない、そんな空気がある。しかし、経験の否定が行き過ぎ、「センス礼賛主義」に陥っていないだろうか。「センスのいい人」は本当に優秀な人材なのだろうか。そもそも「センスがいい」とはどういうことなのか。幻想に裏切られる前に、経験と知見の意義を考え直したい。

プロジェクト・コンサルタント 後藤洋平

プロジェクト・コンサルタント 後藤洋平

予定通りに進まないプロジェクトを“前に”進めるための理論「プロジェクト工学」提唱者。HRビジネス向けSaaSのカスタマーサクセスに取り組むかたわら、オピニオン発信、ワークショップ、セミナー等の活動を精力的に行っている。大小あわせて100を超えるプロジェクトの経験を踏まえつつ、設計学、軍事学、認知科学、マネジメント理論などさまざまな学問領域を参照し、研鑽を積んでいる。自らに課しているミッションは「世界で一番わかりやすくて、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を構築すること。 1982年大阪府生まれ。2006年東京大学工学部システム創成学科卒。最新著書「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」が好評発売中。 プロフィール:https://peraichi.com/landing_pages/view/yoheigoto

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「センスがいい人」というのは聞こえがいいが、その人は将来どうなる?
(© poosan - Fotolia)

良いパイロットの第一条件は「インスピレーション」か?

 宮崎駿監督の映画『紅の豚』にこんなセリフがある。
フィオ:「良いパイロットの第一条件を教えて」
ポルコ:「インスピレーションだ」
フィオ:「良かった、経験だって言われなくて」

 この映画は、豚の姿をした凄腕の戦闘飛行艇パイロット、ポルコ・ロッソの話だ。彼がある決闘に破れ、ボロボロにされてしまった飛行艇を修理する必要が発生した。それにあたって若き設計者、フィオが修理を買って出るシーンである。

 ポルコが修理のために飛行艇製造会社を訪れると、なじみの設計者が出払っていて、いるのは経験の浅い設計者、フィオだけ。断ろうとするポルコに対して、フィオは「お仕掛け女房」ならぬ「お仕掛け設計者」となる。その彼女が、どうにかして仕事を受注するための問答が、先ほどのやり取りだ。

 言葉のチョイスが絶妙で、「インスピレーション」という響きが格好良い。普通なら「センス」や「才能」などというところだ。

 有望な新人がジョインしてくれたときにかける言葉が、「大事なのは経験じゃない、インスピレーションだ」なんて、マネージャーであれば一度は言ってみたい言葉ではないだろうか。

「若手にチャンスを、裁量を」なセンス礼賛主義

 昨今、次々に登場する新しい技術やフレームワーク、通信方式やプラットフォーム、ネットを駆け巡る情報など、新しいものが現れては消え、消えては現れる。だからこそ、過去の経験や知見に縛られるのではなく、新しいものを受け入れ、活用する感覚が大事だと言われている。

 「経験」は「目を曇らせるもの」「それに縛られて次に失敗をもたらすもの」「大企業病の原因」という位置づけになりがちで、どうも旗色が悪い。

 それだけでなく、経験豊富なプロフェッショナルへの敬意が薄らいでいないだろうか。「属人化」「暗黙知」「職人的」といった表現は、いい言葉として語られることは少ない。

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経験とセンス、どちらが大切なのだろうか?

 必要なのは「経験」ではない。大事なのは、新たな技術や環境に「適応する力」だ。それは平たくいえば「センス」と呼ばれるものであり、「過去に縛られない、曇りなき目」だ。

「若手にチャンスを、裁量を」

 こうした考えにはもちろん一定の説得力も正当性もあるが、単純で浅薄な「センス礼賛主義」になってしまってはいないだろうか。

「わが社にはジョブズのようなイノベーターはいないのか」

 「センスある若者が大活躍する」物語に、私たちは少々毒されていやしないだろうか。

 考えてみれば、少年マンガや映画、ときとして歴史小説など、いわゆる物語作品において「経験で劣るが若くてセンスに優れた主人公」にスポットライトが当てられる。ガンダムシリーズ、司馬遼太郎版坂本龍馬、スラム・ダンク、ドラゴンボールもそうだ。枚挙にいとまがない。

 こうした流れはフィクションの世界だけでなく、将棋の藤井聡太七段や若くして会社を上場させる青年実業家を礼賛するのも同じ動機によるものだろう。

 センスある若者が経験豊富な人々を尻目に活躍する。これは社会における定番の構図であり、極めて強い願望に支えられたものである。

 物語の世界でそれを礼賛する。わがことのように感情移入して楽しむ。その限りでは特になんら問題も実害もない。しかし、どうもそのフィクションを実生活、実ビジネスに無意識的にあてはめ、現状を否定するような思考がまん延しているような気がしてならない。

 たとえばそれは「わが社にはジョブズのようなイノベーターはいないのか」といったような、よくわからない発言として顕在化する。大人であれば、そこまで極端なことは口にしないというものだが、「ベテランが、若手の活躍の妨げになっているんじゃないか」といった程度の疑念は、経営陣の心中には、常に流れている。

 時々自信たっぷりで志高く、元気な新入社員がいて、ふとしたきっかけで社長と意気投合し結託し、「少々の失敗には目をつぶってもいい、彼に大きな仕事を任せてみたまえ」といったことがある。これはまるっきりサラリーマン金太郎の世界観だが、意外とこういう光景はしばしば目にすることはないだろうか?

 残念ながら、そうしたことのほとんどは期待外れに終わる。

【次ページ】「センス」という言葉が意味するもの

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