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  • 2018/11/13 掲載

夏野剛氏×中島聡氏がホンネでぶっちゃけ対談、「日本は“正規”雇用をなくせ」

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Windows 95を設計した日本人として知られる中島聡氏と、iモードの企画開発で有名な夏野剛氏が発起人となり、先ごろNPO法人「シンギュラリティ・ソサエティ」が創設された。そのローンチを記念し、両氏による対談「Invent or Die - 未来の設計者たちへ」が開催された。デジタル・ネイティブ世代の若者たちが「未来の設計者」として立ち上がり、来るべきシンギュラリティ時代の起業家として活躍するために必要なことは何か? 両氏が熱く語りあった。
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Windows 95を設計した日本人として知られる中島 聡氏(左)と、iモードの企画開発で有名な夏野 剛氏(右)

世界に先駆けて、日本がモバイルインターネットに着手できた理由

 対談に入る前に、登壇者の夏野氏が日本の置かれた現状を説明した。1995年と現在のGDPを比べると、日本は0.8%しか成長していない。一方で人口は0.9%増えた。

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ドワンゴ取締役 慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘教授 夏野 剛氏。
セガサミーホールディングス、トランスコスモス、グリー、USEN-NEXT HOLDINGS、ディー・エル・イーなどの社外取締役も務める

 夏野氏は「実は日本は、この20年間ですごいことをやらかしてしまった。これだけITが進展しても、ほとんど生産性に結びつかなかった。これは本質的な議論が表でなされなかったことが原因だ。やがてシンギュラリティで大転換点を迎えることになるが、それを意識して人間にとって最も良い仕組みを考えられるように、タブーなことも議論できる社会やコミュニティを作るべきだ」と指摘する。

 これまでのIT業界を振り返ったとき、日本からイノベーションが生まれなかったのかというと、そうではない。最も革新的で世界が注目したのは、1999年にNTTドコモが発表した「iモード」だ。フィーチャーフォンでメールやWebの閲覧などを可能にした世界初となる携帯電話IP接続サービスだった。

 マイクロソフトを退社し、UIEvolutionを2000年に設立した中島氏は、当時のことをよく覚えているという。「米国でiモードをテーマに講演したことがあった。そのとき3000名も聴衆が集まるほど大ウケした。どうしてNTTドコモのような固い企業で、あれほどすごい発明ができたのか?」と、iモードの企画に携わった夏野氏に話を振った。

 夏野氏は「やはり、ヒト・モノ・カネの3点セットが同時にそろったタイミングだったからだと思う。初代社長の大星 公二さんが、『誰もやっていないことをやれ。手段を問わないから、携帯電話にネットにつなげろ!』と、クレイジーな指示を出してくれた。お金についても自分たちの部署では9億9000万円まで決済権限があったので、思うように使えた」と、iモードの成功要因を挙げた。

 そのころ通信業界は、まだインターネットに詳しい人間はそう多くなかった。逆に通信とネットの融合については否定的な意見が多かったという。そのため、夏野氏のように外部からやってきた人が推進力となったのだ。

「我々の部署は外人部隊と志願兵だけ。社内では誰もiモードが成功すると思っておらず、好き勝手に仕事ができた。そのうちインターネットが社会に広がり始めた。1998年からグーグルが検索に乗り出し、松井証券がネット証券をスタートさせ、航空会社がネット予約を始めた。そういったタイミングだったので、iモードが成功できた」(夏野氏)

 しかし、日本で大成功したiモードも、一部を除いて世界に広がることはなかった。日本と海外における文化の相違があったことも一因だろう。まだ外国の携帯電話は通話とSMSが中心で、それほどネットが必要とされず、パケホーダイのような定額通信料プランもなかったからだ。

 中島氏は「日本にとって、iモードは一瞬だったが、とても大きな輝きだった。その後の世界を日本がリードできる大きなチャンスであった」とし、グローバルに羽ばたけなかったことを非常に残念がった。

失われた20年の元凶は何か?

 このように近年の日本には、尖がった技術やイノベーションが生まれたとしても、それをうまく世界に展開できないというジレンマがあるようだ。これは人材面でも同様だろう。

 中島氏は、かつてNTTという大企業から当時無名だったマイクロソフトへ転職した自身の経験を踏まえながら、「なぜ日本では優秀な人材が眠ったままなのか?」と疑問を呈した。

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一般社団法人 シンギュラリティ ソサエティ 代表理事 中島 聡氏。
起業家、ソフトウェア・エンジニア、ブロガー。Windows95、IE3.0/4.0のソフトウェア・アーキテクト。UIEvolution/Xevo Inc. 創業者。シアトル在住

「日本では、問題意識を持って一番頑張っているのは30代だ。大きな仕事を任され、やりがいを持ち、自分が会社を回している気持ちになれる。しかし40歳を超えると価値観が逆転し、自分がやることよりも、会社からもらう価値のほうが大きいと思い始める。そして50歳を超えると同期の数人が役員になり、残りは出向。こんな人生なのかと気づいたときには、飼い殺し状態だ」(夏野氏)

 これを受けて中島氏も「日本の生産性が上がらない原因の1つに解雇規制があるのではないか?」と、人材の流動性の問題を挙げた。優秀な人材がいても、なかなか外部に出られる環境にないからだ。

「まさにその通り。いま日本に必要なことは、『非正規』雇用をなくすことではない。公務員も含め、最大雇用契約を10年にして、その後は更新していくような形で、『正規』雇用をなくすことが重要だ」と夏野氏は同意する。

「ITの進展によって、3人でやっていたことが1人で実現できるようになり、生産効率は3倍になっているのに、日本は人を切れないため、生産性が向上しないという現実がある。それが米国と異なる点だ」(中島氏)

「日本の状況にも、だいぶ変化の兆しは見えてきたが、あとは痛みに対してどう反応するかに関わってくると思う。現政権があと3年続けば、その間に社会改革や制度改革に着手できるチャンスになるかもしれない。難しいかもしれないが、ぜひ解雇規制をやってほしい。ベーシックインカムとセットで実現できればよりよいと思う」(夏野氏)

 中島氏は「まだ日本には、ゆでガエル状態になっている企業が残っている。人だけでなく、企業も新陳代謝が必要だ」と付け加えた。

「いま産業再編はやりやすい状況だが、その対象はダメになった企業ばかり。本当に着手すべきことは、自動車メーカーのように、まだ死んでいない産業の再編と統合。家電メーカーも同様だろう。いま炊飯器メーカーは10社もあるが、それを統合して間接部門や営業部門を整理すべき。そうすれば世界に打って出ることもできるだろう」(夏野氏)

 中島氏は「かつてiPadのようなタブレットを作りたいと大企業に相談された。しかし、その理由は、PC事業がうまくいっていないからだった。これで世の中がどう変わるのか、そういうビジョンがなければ失敗することは目に見えている」と手厳しく非難する。

 この点について夏野氏は「大企業には2番、3番煎じのほうが経営的に失敗がないという論理があるから。同じようなことは楽かもしれないが、何も生まれない」と同意する。

「これは大企業だけでなく、最近のベンチャーにも言いたい。社会に対して何かを変えたいという熱い思いが大切。ビジョンがない企業はもうけに走ってしまう。その典型がFX、有料ガチャ、仮想コインだ。もうけることはよいが、やはりビジョンが必要だ」(中島氏)

【次ページ】夏野氏が「実はもう仕事はなくなっている」と語る真意とは 江戸時代は5000時間働いていた?

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