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  • 2025/07/16 掲載

イーロン・マスクのxAI「もはや狂気」の2兆円調達で挑む「ギガファクトリー」構想の全貌

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イーロン・マスク氏率いるAIスタートアップxAIが、創業から3度目となる大型資金調達を実施。43億ドルの新規株式と50億ドルの社債発行により、年間130億ドル(約1兆9,000億円)もの資金を投入する計画だ。世界最大級のAIデータセンター「コロッサス」を核に、100万トークンの処理能力を持つ最新モデル「Grok-3」、さらには後継モデルの開発を急ぐ。X(旧Twitter)のリアルタイムデータを独占的に活用し、既存のAIチャットボットでは実現できない即時性を武器に、OpenAIやアンソロピックとの競争に挑む。xAIの取り組みの全貌を探った。
執筆:細谷 元

細谷 元

バークリー音大提携校で2年間ジャズ/音楽理論を学ぶ。その後、通訳・翻訳者を経て24歳で大学入学。学部では国際関係、修士では英大学院で経済・政治・哲学を専攻。国内コンサルティング会社、シンガポールの日系通信社を経てLivit参画。興味分野は、メディアテクノロジーの進化と社会変化。2014〜15年頃テックメディアの立ち上げにあたり、ドローンの可能性を模索。ドローンレース・ドバイ世界大会に選手として出場。現在、音楽制作ソフト、3Dソフト、ゲームエンジンを活用した「リアルタイム・プロダクション」の実験的取り組みでVRコンテンツを制作、英語圏の視聴者向けに配信。YouTubeではVR動画単体で再生150万回以上を達成。最近購入したSony a7s3を活用した映像制作も実施中。
http://livit.media/

  構成:ビジネス+IT編集部
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大型資金調達でAI開発加速するxAI
(Photo:Kemarrravv13 / Shutterstock.com)

巨額資金で築く「コンピュートのギガファクトリー」

 イーロン・マスク氏のAIスタートアップxAIが、創業から3度目となる大型資金調達に乗り出した。ブルームバーグによると、同社は43億ドルの新規エクイティ調達を交渉中という。これと並行して、モルガン・スタンレーが主幹事となり、50億ドルのハイイールド債とローンのシンジケート組成も進めている。債券部分の利回りは約12%という破格の高さに設定され、ジャンク債平均の7.6%を440ベーシスポイント上回る水準となった。需要倍率がわずか1.5倍にとどまったことを受けての苦肉の策といえる。

 なぜこれほどまでに資金をかき集めるのか。その答えは、AI開発競争の構造的な変化にある。現在の最先端言語モデルの訓練には数億ドルが必要だが、次世代システムには数十億ドル規模の投資が不可欠となる。xAIは、今後コンピューティング予算を大幅に拡大する計画で、マスク氏自身もこの動きを「コンピュートのギガファクトリー」構築になぞらえている。

 同社はこれまで調達した資金のほぼ全額を、約20万基のNVIDIA GPU確保に投じた模様。NVIDIAのH100の定価は1基あたり3万~4万ドルで、大量購入割引を考慮してもハードウェア代だけで数十億ドル規模に達する。また液冷装置や電力装置などのインフラも必須となるため、コストはさらに膨大となる。

 投資家への訴求ポイントは、「Muskonomy」と呼ばれるネットワークにおける相乗効果だ。月間アクティブユーザー数が数億人に上るX、累計生産数600万台を超えたテスラ、7000基以上の衛星ネットワークを持つスターリンク、これらのプラットフォーム/インフラをモデル学習やサービス展開に活用し得る点が大きな魅力となる。

 ネットワークや冷却・電力設備も独自に管理することで他社依存を排しつつ、技術的な堀を形成している点も魅力の1つ。ただし、自前クラウド運用によるコストコントロールと拡張性の獲得はメリットである一方、機器陳腐化や電力コスト急騰のリスクを負っている点は留意が必要だ。

 xAI債券の高利率は、この「自前クラウド」という賭けのリスクプレミアムを反映したものと言える。

コロッサスとクラウドが支える世界最大級のAI計算基盤

 膨大な資金で調達したGPUの行き先は、xAIが「コロッサス」と名付けた巨大データセンターだ。

 同社は、テネシー州南メンフィスにある78万5000平方フィートの旧エレクトロラックス工場を、わずか122日で世界最大級のAIスーパーコンピューター施設へと改装。地元では最大級の民間投資プロジェクトになった。さらにマスク氏は、隣接する100万平方フィートの土地を8000万ドルで取得しており、「コロッサス2」の建設を計画中との報道もある。

 コロッサスは、ピーク時には25万世帯分に相当する約250メガワットの電力を消費する巨大施設。一方、xAIは現在、1.2ギガワットまでの拡張許可を申請中で、実現すれば米国最大級の原子炉の発電量をも上回ることになる。

 しかし、ギガワット級のデータセンターでさえ、Grok-3とその後継モデルが必要とする計算需要には対応しきれない可能性がある。そこで登場するのがオラクル・クラウド・インフラストラクチャー(OCI)との戦略的提携だ。6月17日、オラクルはGrokモデルがOCIのAIスーパークラスター上でネイティブ動作することを発表。これによりxAIは、13万基以上のBlackwell GPUAMD MI355X GPUへのアクセスを獲得したことになる。

 オラクルにとって、OpenAI、メタ、Cohereと並ぶ大型顧客の獲得は大きな意味を持つ。一方xAIにとっては、建設遅延やメンフィスでの地元の反対運動に対するリスクヘッジとなる。実際、コロッサスの移動式ガスタービンからの排出物をめぐり、活動家グループが訴訟を起こしている状況だ。

 技術的な観点から見ても、OCI提携は2つの難題を解決する。第一に、オラクルの高速ネットワーク技術により、数万基のGPUを一つの巨大なコンピューターのように連携させることができる。通常、多数のコンピューターを接続すると通信速度が低下してしまうが、オラクルの技術ではこの問題を回避できる。

 第二に、オラクルのデータ主権オプションにより、企業顧客は各地域内でGrokをファインチューニングできるようになる。これは機密データを扱う銀行や政府機関にとって法的要件となっている。競合モデルも同様の「独自データ持ち込み」型の企業市場を狙っているが、コンプライアンス要件を最初から満たすことで、Grokはより迅速な収益化が可能となる。

 研究開発用の自社設備と需要急増時のレンタル容量を組み合わせるハイブリッド戦略は、テスラが自社ギガファクトリーと外部調達セルを併用するバッテリー戦略を彷彿とさせる。OpenAIも最近では、マイクロソフトのAzure依存からの脱却を画策するなど、AI企業によるリスク分散の動きが活発化している。

 サプライチェーンの選択肢を巧みに使い分けるプレイヤーが、次世代AIのコスト競争で優位に立つことになるはずだ。 【次ページ】Grok-3's New Tricks in Plain English
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