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  • 2019/10/08 掲載

12年で市場規模50倍 ロボット農機が日本に「もうかる農業」を作り出す

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先進の情報通信技術を活用した「スマート農業」も、ロボット技術と農業機械が結びついた「ロボット農機」も、2030年にかけて大きな成長が予想されている。ロボット農機は「経営面積の大型化」「人手不足」「高齢化」が進む日本の農業で、ニーズがますます高まりそうだ。2018年、大手農機メーカー各社のロボット農機が出そろい「ロボット農機元年」と呼ばれ、2019年以降も新製品が次々と投入予定だ。ロボット農機は農業者の仕事を楽にするだけでなく、「食」のマーケットの変化にしなやかに対応する「もうかる農業」を作る力も秘めている。

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。

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ロボット農機によって農家はどう変わるのか
(Photo/Getty Images)


格段に広くなった農地、しかし人手不足と高齢化

 日本列島に「実りの秋」到来。今年の新米が出回る季節を前に、米作地では稲刈りで忙しい。表面的には日本の農村は昔とまったく変わらないたたずまいのように見えるが、農村経済の実情は決して昔と同じではない。

 現在中高年以上の読者の中には、学生時代の社会科で「日本の農業は北海道を除けば、耕作面積1ヘクタール未満の小規模農家がひしめく」と習った方も多いだろう。

 戦後の農地改革で地主が所有していた農地が細かく分割され、土地を得て小作農から自作農に変わった農家が「なりわい」として猫の額ほどの狭い農地を家族単位で耕作する。そのせいもあって欧米のような農業経営の近代化(企業化、資本の集約)が進まず、設備投資(資本投下)を必要とする機械化のペースは緩慢で、生産性は低いまま停滞している。それが欧米と比べて日本農業が遅れている点だと、かつての教科書には載っていた。

 その論の是非はともかく、昭和から平成、令和と時代が下るにつれて日本の農村経済の状況は変化してきた。大きな専業農家や農業生産法人へと農地の集約が進んだ「経営規模の大型化」、「減少が止まらない農業従事者数」、「高齢化が進む農業従事者」などだ。

 農林水産省の「農林業センサス」「農業構造動態調査」の統計によると、1農家あたりの経営面積は2000年から2018年にかけて確実に大型化している。もともと突出して広かった北海道は15.98ヘクタールから28.90ヘクタールと1.80倍に、北海道以外の都府県の平均は1.21ヘクタールから2.2ヘクタールと1.82倍になった。「1ヘクタール未満」は半世紀以上前の1960年代の話である。

 一方、農業就業人口のうち、普段の主な状態が「仕事が主」の者(勤め人で日曜日だけ農業を手伝うような人は除かれる)は、2000年の240.0万人から2018年の145.1万人へ39.5%も減少した。2019年の概算値は140.4万人で、直近1年で5万人近くも減った。

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日本の1農家当たり経営耕地面積と基幹的農業従事者数の推移

 その基幹的農業従事者の平均年齢は、2000年の62.2歳から2018年の66.6歳へ4.4歳、高齢化している。厚生労働省が「高齢者」に分類する65歳以上は約100万人で、全体の66.4%で3人に1人を占める(農林水産省「平成29年度農業構造動態調査」)。70歳以上も約63万人いて、80歳を超えても引退せず元気に農作業をしている人も珍しくない。それでもさすがに若いころのような無理がきく体ではなくなっているのだが……。

 つまり、統計的に日本の農家の経営面積は大きくなったが、一方で農業従事者は減少の一途をたどり、しかも高齢化が進んであまり労働負荷がかけられなくなっている。

 人手不足の昨今、農協やハローワークで募集しても人は来ない。もし来ても政府自ら「最低時給全国平均1000円以上」を目標にしており人件費は高騰する一方で、人を雇うと下手すれば赤字になりかねない。そんな事情で、近隣農地の耕作を頼まれてもなかなか手が回らず、やむを得ず耕作放棄地が増えてしまう。

 その中でニーズが高まるのは何かと言えば、広い耕作地、少ない人数でも農作業が楽にできる「農業機械」ということになる。「機械があれば耕作放棄地にならずに済んだのに」というケースもあっただろう。

 その農業機械は今、ハイテクを利用した「スマート農業」の一環として、農作業の自動化、無人化を実現する「ロボット農機」が実用化されて、すでに普及段階に入っている。ロボット農機を利用すれば、より少ない人数でより楽に、より広い面積の農地を耕作し、農作物を収穫できるようになる。

 農地の大型化、人手不足、高齢化が年々進行する日本の農業で、ロボット農機を必要とするニーズは着実に高まっている。


スマート農業、ロボット農機の高い成長性

 スマート農業とは、5G移動通信、AI、IoTなど先進の情報通信技術を活用した農業のこと。

 具体的には農地の監視や農薬・肥料散布などでの「ドローン」の活用、水田の水管理システム、栽培環境のモニタリング・制御システム、完全人工光型植物工場などがある。農林水産省は2019年度からスマート農業の実証実験を開始している。

 そのスマート農業の中でも重要なジャンルに人間の農作業を直接アシストする「ロボット農機」がある。ロボット農機には、田植機やコンバインがロボット化したような穀物用ロボット農機も、野菜や果実を摘み取って収穫したり、集荷場へ搬送する作業を自動化するロボットも含まれている。

 富士経済のレポート「先進テクノロジーが変える!!農林水産ビジネス最前線と将来展望2019」によると、畜産業を除いたスマート農業の市場規模は2018年の698億円から2030年の1074億円へ53.9%拡大し、同じ12年間にロボット農機の市場規模は1.3億円から67億円へ、実に51.5倍の急成長を遂げると予測されている。

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スマート農業、ロボット農機の市場規模の現状と予測

 ロボット農機の中でも「穀物用」の2030年の市場規模は60億円で、ロボット農機全体の約9割を占めると見られている。

 NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が発表した「2035年に向けたロボット産業の将来市場予測」によると、農林水産分野のロボット市場は2015年の467億円が、2020年に1212億円、2025年に2255億円、2035年に4663億円と大きく拡大すると試算され、20年でおよそ10倍になる成長市場だ。

 農業用ロボットの世界生産台数は2018年の約6万台から2025年に72万7000台へ約12倍に増加するという予測もある。いずれにせよ、ロボット農機には高い成長性があると広く認識されている。

【次ページ】「ロボット農機元年」の2018年に続き、2019年以後も新機種が続々登場

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