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  • 2019/10/18 掲載

「ダイナミックマップ」の基礎解説、日本が自動運転の覇権を手にするためのカギ

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AIの進展やセンサー技術の発達により、クルマの自動運転が期待を集めている。そんな中、さまざまな情報を集約したデジタル地図、「ダイナミックマップ」が自動運転のキーテクノロジーとして注目を集めている。国家プロジェクトとして進められているこの新技術は、“自動運転時代”の国内自動車メーカーの行く末を大きく左右する。本稿では、日本のダイナミックマップ戦略の中心であるダイナミックマップ基盤社の取材協力の下、その基礎知識を解説する。

執筆:物流・ITライター 坂田 良平

執筆:物流・ITライター 坂田 良平

Pavism 代表。元トラックドライバーでありながら、IBMグループでWebビジネスを手がけてきたという異色の経歴を持つ。現在は、物流業界を中心に、Webサイト制作、ライティング、コンサルティングなどを手がける。メルマガ『秋元通信』では、物流、ITから、人材教育、街歩きまで幅広い記事を執筆し、月二回数千名の読者に配信している。


ダイナミックマップとは何か

 ダイナミックマップとは、
「交通規制や工事情報/事故や渋滞/歩行者や信号情報」など刻々と変わる膨大な動的情報と、高精度3次元位置情報(路面情報、車線情報、3次元構造物)等の静的情報を組み合わせたデジタル地図
と、ダイナミックマップ基盤社(以下、DMP)は説明している。

 ダイナミックマップは自動車の自動運転のために必要な技術であり、情報の1つである。

 自動運転には、人間で言えば“目”“耳”“脳”に該当する、ミリ波レーダーや超音波ソナー、カメラ、LiDAR(レーザースキャナ)などの車載センサー、センサーの制御を行うコントローラー(ECU)などが必要とされる。「目と耳があって外部からの情報を受け取れているならば、ダイナミックマップなしでも自動運転は実現するのでは?」と思うかもしれないが、実際に車両を走らせてみると、ダイナミックマップを使うことで乗り心地が大きく変化することがわかる。

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 各種センサーが、有効に感知できるのは、車両前方せいぜい100~200m程度である。たとえば時速100kmで高速道路を走行するクルマが100mを通過するのに掛かる時間は、わずか3.6秒である。200m先にカーブがあった場合、時速100kmで走行する自動運転車は、10秒に満たないわずかな時間で必要な減速を行わなければならない。

 対して、ダイナミックマップが搭載された自動運転車であれば、行く手に存在するカーブ、道路のアップダウンを前もって認知することができる。余裕を持った加減速やハンドリングを、適切なタイミングで行うことが可能になるのだ。

 ダイナミックマップが自動運転車に提供できる先読み情報は、乗り心地のみならず、悪天候時による視界不良時などセンサーの性能が低下する状況においても、自動運転車の安全運行に大きく貢献する。

ダイナミックマップを構成する情報

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ダイナミックマップの情報レイヤー
(提供:ダイナミックマップ基盤社)

 ダイナミックマップを構成する情報について、確認しよう。

 ダイナミックマップは「実在地物」と「仮想地物」というふたつの要素から構成される。「実在地物」とは、道路上の標識や区画線(※車道中央線や車道外側線など、白線や破線などで表示される )のこと。仮想地物とは、車道リンク(※十字路など、道路が交差する情報)や車線リンク(※右折時など、区画線では指定されていないが、車両が通行するべき走路)などの、現実には実在しない地物を指す。


 ダイナミックマップは、4つのレイヤー(階層)に分類される。

  1. 静的情報(3次元地図情報)
    路面情報・車線情報・建物の位置情報といった3次元地図情報

  2. 準静的情報
    交通規制の予定や道路工事予定・広域気象予報情報等

  3. 準動的情報
    事故情報や渋滞情報・交通規制情報・狭域気象情報等

  4. 動的情報
    周辺車両・歩行者・信号情報といったリアルタイム情報

 ダイナミックマップは、このような膨大な情報を統合した集合体なのだ。

ダイナミックマップの世界標準規格獲得を狙う日本

  静的情報、準静的情報、準動的情報、動的情報は、「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)が提案し、2016年2月15日に認められた国際規格(「ISO14296」協調 ITS における地図データベース仕様の拡張)である。SIPとは、経済や産業競争力にとって重要な科学技術イノベーションを実現するために、内閣総理大臣を議長として設立された国家プロジェクトだ。

 なぜこのような取り組みを日本は行っているのか? それは、これから普及していくであろう自動運転マーケットにおいて、日本が確固たるポジションを確保するためである。

「我が国は、官民の連携により、ITSに係る車両・インフラの輸出を拡大し、2020年以降、自動運転システム化(データ基盤の整備を含む)に係るイノベーションに関し、世界の中心地となることを目指す」(「官民 ITS 構想・ロードマップ 2019」首相官邸)

 この戦略の1つとして、日本は、日本発のダイナミックマップを世界標準規格とすることを狙っているのである。その戦略の中核をなすのが、DMP(ダイナミック基盤社)だ。

ダイナミックマップ基盤社設立の経緯

 DMPは、2016年6月に企画会社として設立、1年後に産業革新機構(現INCJ)から出資を受け、事業会社に移行した

 INCJは、オープンイノベーションにより次世代の国富を担う産業を育成・創出することを目的に設立された、官民ファンドである。 繰り返しになるが、ダイナミックマップは、「国富を担う産業」として期待されているわけだ。

 ただし、ダイナミックマップの作成には膨大なコストが必要だ。技術的なハードルも高い。ダイナミックマップが完成するためには、「測位」「計測」「図化」という過程を経て、「統合」する必要がある。そのためDMPには、日本国内の自動車メーカーや、地図関連会社などが出資し、それぞれの技術やノウハウを結集している。

画像
DMPの出資企業
(提供:ダイナミックマップ基盤社)

 DMPに出資する各社が、ダイナミックマップの形成に果たす役割について確認しよう。

(1)測位:三菱電機がノイズ除去に貢献

 車両の現在地を特定する「測位」に強みを持つのが、MMS(Mobile Mapping System)を2007年より開発・製造・販売しており、日本国内のみならず、海外でも実証実験を行っている三菱電機だ。

 MMSとは、車両にGNSS(Global Navigation Satellite System / 全球測位衛星システム)受信機、慣性計測装置(Inertial Measurement Unit / IMU)、車両の移動量を測定するオドメーター等の測位装置、レーザースキャナやカメラ等の計測装置を搭載した機器である。

 ダイナミックマップでは、車線単位で車両位置を特定することが求められ、cm級の精度が必要である。しかしGNSSが人工衛星からの信号を利用しているため、得られたデータには電磁波や電離層などによるノイズが含まれる。高い精度を得るためには、このノイズが邪魔だ。三菱電機は、こういったノイズを除去・補正し、測位データの精度を高める優れた知見を持っており、ダイナミックマップの制作に大きな役割を果たしている。

【次ページ】ダイナミックマップの協調領域と競争領域とは。日本自動車メーカーの将来は?

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