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  • 2020/01/10

オフショア開発は東南アジアから東欧へ?IT立国ベラルーシの秘めたポテンシャル

日本企業のオフショア開発委託先といえば、これまで中国やインド、ベトナムなどのアジアが中心だった。しかし国として急激に成長する中で平均給与は上昇し、かつてほどは価格優位性を実感しにくくなっているのも事実だ。そこで注目したいのがヨーロッパ最後の独裁国家、東ヨーロッパに位置する内陸国、ベラルーシだ。ベラルーシは隠れたIT立国として「東欧のシリコンバレー」とも呼ばれ、欧米からは優秀なオフショア開発先として知られる。国による大胆なIT優遇策を受けてその技術力を高めるベラルーシの実態を本稿ではお伝えする。日本の読者が、ベラルーシに興味を持つきっかけになれば幸いだ。

Beljtech 代表 ザグレベーリナヤ・アナスタシヤ

Beljtech 代表 ザグレベーリナヤ・アナスタシヤ

Beljtech 代表 /Aloteqbel 副社長 兼 ブリッヂエンジニア
ロシア極東連邦大学卒業後、在ロシア日系企業に勤務。その後、訪日し、日系企業勤務。現在ベラルーシ在住。日本語能力試験1級(N1)、フロントエンドエンジニア(React)。
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ベラルーシの首都・ミンスクの街並み。この国で、どのようなIT人材が育っているのか
(Photo/Getty Images)



前回のおさらい、ベラルーシがIT立国である理由

 まずは簡単に前回のおさらいをしよう。ベラルーシは、東欧に位置する旧ソ連の国であり、日本においては極めて認知度が低い、あるいは極めて悪いイメージが先行しがちである。だがソ連の組立工場とも呼ばれる製造立国でもあり、IT人材は歴史的に豊富な地域であった。

 現在は、IT産業特区「ハイテクパーク 」設立および拡大等の政府によるIT振興政策が功を奏し、1人あたりソフトウェア輸出額は日本の7倍にも上る「東ヨーロッパのシリコンバレー」として台頭しつつある。欧州からのオフショア開発先としても有望であり、またMasquerade(顔交換などができるスマホアプリ「MSQRD」を開発)やAImatter(AIを用いた自撮り画像加工アプリ「Fabby」を開発)のように、GAFAに目をつけられるスタートアップも続々と出てきている。

 ここからはさらに、ベラルーシIT産業やITエンジニアの強みとリスク、日本とのシナジーの可能性などさらに深堀りをしていく。

ベラルーシのIT産業、3つの強み

 筆者が考えるベラルーシIT産業の強みは、ITエンジニアの質の高さだ。ソフトスキル・ハードスキル問わず優秀なITエンジニアが多い。ベラルーシに優秀なIT人材が多い背景として、以下の3つの要因がある。

 1つは、コミュニティ。ベラルーシのITエンジニアはプログラミング言語ごとのコミュニティを形成し、日々新しい技術の研さんに取り組んでいる。たとえば、iOS向けのプログラミング言語Swiftを得意とするITエンジニアが集うコミュニティは700名ほど在籍し、メッセンジャーアプリにてグループチャット作成し常時情報交換を行っている。

 また週に1度ゆるい形でオフラインで集会を催し、そこでも情報交換をしている。加えてFlutter(グーグルが開発した、モバイルアプリ開発フレームワーク)等、新技術へのキャッチアップ能力も非常に高い。

 2つ目は、ベラルーシが小国であること。ベラルーシは人口950万人の小国であり、自国に資源があるわけでもなく、比較的貧乏な国である。常に外貨獲得のため外に目を向ける必要がある。日本やロシアであれば自国内である程度経済が回るが、ベラルーシはそうはいかない。

 結果、より資金が潤沢な市場、欧米を主要マーケットとして見ている。効率や生産性、結果を重視する欧米市場で生き抜くには、高い技術力と英語力の維持が必要となる。厳しい戦いの中で淘汰(とうた)されないよう、日夜、語学力と専門技術の向上に力を入れる必要があるのだ。

 3つ目は、所得格差にある。ベラルーシ国民の平均月給は約500ドルである一方、IT分野の平均月給は約2000ドルである。ITと非ITとでこれだけ大きな差があると、多くの若者はIT分野で従事することを希望する。結果、国内の優秀層がITエンジニアを目指すため、応じてIT分野全体のレベルの底上げにつながっているのではないかと考えられる。

 また近年は「ハイテクパーク 」の税制優遇のおかげで、ITエンジニアの手取りが近隣諸国(ロシア、ウクライナやバルト三国)より高くなっており、当該地域からの優秀なIT人材の流入が目立つと聞いている。

ベラルーシITエンジニアはどのような特徴を持つのか

 そんな、ベラルーシのITエンジニアの特徴についても少し触れておきたい。

・忍耐強さ
 一般的に、ベラルーシの人々は忍耐強いと言われている。

 ベラルーシの歴史を振り返ると、13世紀にはタタールのくびきと呼ばれるモンゴル帝国に支配され、14世紀に入るとリトアニア大公国に併合され、その後、リトアニアとポーランドが合併し、ポーランド化が進む。それもつかの間、今度はロシア帝国によるポーランド分割でロシア帝国の傘下となる。そしてナポレオン戦争ではフランスに攻められ、第一次・第二次世界大戦ではドイツ・ロシアの主戦場となってしまう。

 極め付きは、1986年のチェルノブイリ原発事故。チェルノブイリはウクライナ北部に位置するが、この地域は南から北に向かい風が吹いており、ベラルーシは最大の被害国となっている。

 端的に述べれば、常に困難と隣り合わせの歴史であり、この歴史が国民の忍耐強さに影響しているものと考える。

 この忍耐強さは、仕事面でも表れる。とりわけIT分野においては受託開発が多く、クライアントの要望に可能な限り答えるカスタマーファーストの精神、納期を守るために残業も厭(いと)わない精神が強いように、一緒に働いていて感じる。

・主体性
 前記事でも記載したが、ベラルーシIT分野の主要顧客は欧米である。結果を重視する市場であり、常に厳しい戦いにさらされている。結果として技術力・語学力も去ることながら、主体性が必要とされる。

 筆者がともに仕事をしているITエンジニアも、技術仕様書を固めたものをそのまま開発するウォーターフォール的な開発よりも、顧客と一緒になって開発を進めるアジャイル開発を得意とするITエンジニアばかりである。ウォーターフォール案件であっても、ITエンジニアからボトムアップで追加機能の拡充案が出てくる。日本人にとってなじみ深い東南アジアのオフショア開発とはまるで異なるかもしれない。

・給与
 給与についてはピンキリだが、前述したとおり平均して約2,000ドル程度と言われている。近年は東南アジアのベトナムやバングラデシュも3,000ドル近く、ないしはそれを超えていると聞く。今後、前項で述べたハイテクパーク3.0が本格導入されていけば、ベラルーシのITエンジニアの価格競争力がますます強まっていくものと考えている。 

【次ページ】日本企業がベラルーシに進出できていないワケ

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