Society 5.0実現を加速度的に進展
SIP第二期の12課題の1つ「光・量子を活用したSociety 5.0実現化技術」では、Society 5.0実現を加速度的に進展させるためにサイバーフィジカルシステム(CPS)基盤の創出が重要な役割を果たすと考えている。
CPSは、現実世界のフィジカル空間にある多様なデータを仮想世界のサイバー空間に集めて、AI技術などで解析したのち、その結果をフィジカル空間に戻して実社会を豊かにするというコンセプトである。
本SIP課題では、CPSの要素技術として「光・量子通信」(量子暗号技術・量子セキュアクラウド技術)、「光電子情報処理」(次世代アクセラレータ基盤)、「レーザー加工」(CPS型レーザー加工機システム・空間光制御技術・フォトニック結晶レーザー)という3領域にフォーカスして研究開発を推進しているところだ(下図)。
日本は小型化、素材、製造技術で戦い、国際標準を推進すべき
セッションの初め、光・量子課題のプログラムディレクターでパネルディスカッションのファシリテーターを務める西田 直人氏は「光・量子の技術で加速するサイバーフィジカルシステム(CPS)の可能性」というテーマを論じるにあたり、「日本企業は今後も世界に通用する技術力を維持できるのだろうか?」という問いを有識者に突きつけた。
朝日新聞の論壇委員として活躍する東京大学の内田 麻理香氏は「いま日本企業はGAFAにやられていますが、情報化を進めるにあたりモノと情報は切り離せません。そこで、日本のお家芸である“小型技術”に注目すべきです。SIP光・量子課題がレーザー加工領域で研究を進めるフォトニック結晶レーザーは、デバイスの小型化と光の進路の制御技術でイノベーションを起こせるでしょう」とし、日本のモノづくり技術によって活路を見いだせることを示唆した。
まだ日本には技術力は十分にある。しかし、いまの時代は技術力以外だけでは世界に通用することは難しいだろう。西田氏は「メディアの視点から、技術以外に何が求められるのでしょうか?」と弊誌「ビジネス+IT」編集長の松尾 慎司にたずねた。
松尾は「日本が技術力を伸ばす以外でやるべきことは、まず標準化ではないか」と話し、「世界の動きの中で日本がどういうスタンダードを作っていくかがポイントになる」と強調した。
さらに「日本は最終消費財の力は弱くなっていますが、その背景にある素材や製造の技術には一日の長があります。匠(たくみ)の技を継承し、スマート製造やCPSにつなげることもポイントです。いまIT分野ではオープンイノベーションが活発化しています。欧州では産官学が密接に結びつき、非競争領域と競争領域とを住み分けて戦っています。日本が戦いに勝つためには、各プレーヤーがつながる場、“コネクテッドインダストリーのプラットフォーム”が重要でしょう」と続けた。
【次ページ】量子暗号化の国際標準を主導、GAFA級のCPSプラットフォーマーを日本から