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- 2020/01/20 掲載
無料の衛星データでビジネスが変容?さくらインターネットが宇宙への道を整備するワケ
衛星データをビジネスに取り入れると何が起きるのか
人工衛星で取得できるデータのことです。
Tellusに搭載している衛星データを例に挙げると、たとえば気象衛星では、雲の動き、地表面の温度、降雨量といったデータが取得できます。もう少し分解能(モノを認識できる能力)を高くした光学衛星などだと、宇宙から見た地表面の詳細、例えば土地の使われ方、そこにあるモノの数、色、大きさなどをデータとして取得できます。
──宇宙から地球の様子を見て、一体何ができるのでしょうか?気象衛星は天気予報で使われているのでわかりやすいのですが……
青森県の「青天の霹靂(へきれき)」というブランド米をご存じですか?「青天の霹靂」では、絶好の収穫タイミングを見極めるために衛星データが活用されています。
コメのタンパク質含有量は成長とともに増加傾向を示します。タンパク質含有量が多いほどご飯の“粘り”が弱くなっておいしく感じにくくなるのですが、人工衛星の光学センサーのデータからはそのタンパク質の量を推定できるのです。なぜ推定できるかというと、光学センサーは人間には見えていない波長の光を受け取ることができるためです。モノには特定の波長の光を反射する性質があるのですが、その性質を利用して、含有量を可視化できるというわけです。
そのデータを青森県の公的機関が主導してモニタリング、ピークになる時期が来たら農家に知らせ「今日はこの田、明日はこの田」という具合に収穫しています。その活動が実ってか、日本穀物検定協会が2019年に行った米の味の等級分けでは、「青天の霹靂」は最高クラスである特A品種55種の中にランクインしています。
──農業以外でも事例はありますか?
衛星データはビッグデータの1つですから、ほかの衛星データやそれ以外のデータと組み合わせて使うことで、さまざまな用途が考えられます。たとえば衛星データで取得する「地域ごとの日射量」とアメダスで取得する「降雨量」を組み合わせれば、最も高効率で発電できる太陽光パネルの立地選定が可能になります。
また自動運転分野にも寄与すると考えられます。自動運転の精度を上げるために重要なデジタル地図「ダイナミックマップ」(注1)と衛星測位の情報を組み合わせれば、さらに高精度の自動運転が可能になるでしょう。
それから日本と比べ、欧米は衛星データの活用に一日の長があります。たとえば米国のUrsa Space Systemsという企業は、SARセンサー(曇りの日も撮影可能な合成開口レーダーセンサー)を使って世界中の石油タンクを監視しています。
どのようにしているかというと、石油タンクは中の油の酸化を防ぐため、天井のふたがタンク内の石油の量と連動して上下するようになっています。SARセンサーで各石油タンクの蓋の高さを観測することにより、そのエリアにどれだけの石油が備蓄されているか推定できるというわけです。この企業はそれを先物取引向けの情報として機関投資家に提供しています。
また、ある企業は衛星データや地上のデータを活用して、建物の建築状況をリアルタイムで把握しています。欧州ではビル建設に関する包括的な情報提供が存在しませんから、衛星データから把握した建築の進捗(しんちょく)に合わせて、内装資材企業などに情報を提供してビジネスをしています。
とはいえ、まだまだ衛星データビジネスは発展段階で、これからアイデアはどんどん出てくると考えています。だからこそ、我々のTellusを通して衛星データの新たなアイデアが日本から生まれることを期待しているのです。
Tellusとはどんなプラットフォームか
──そのような衛星データを無料公開しているTellusとは、どのようなプラットフォームですか。日本初のクラウドベースの衛星データプラットフォームで、高解像度な光学センサー画像、SARセンサー画像など、リモートセンシングテクノロジーを駆使した高性能の衛星データを無料公開しています。
ユーザーへは、Tellus Operation Systemと呼ばれるWebベースの地理空間情報を共有・利用するための統合プラットフォーム、プログラミングを行うための統合開発環境、コンピューティングパワーを提供しています。コンピューティングパワーはCPUコアが2,080コア、GPUが1.68PFLOPS、ストレージが5.5PBと、専門研究所クラスのスペックを誇っています。
──Tellusを利用して、ユーザーは何ができるのでしょうか?
ユーザー登録すれば誰でも衛星データを見たり2次利用したりすることが可能です。IoTデバイスやドローンなどの持ち込みのデータと組み合わせることも可能です。
また衛星データのみならず、これに関連づけて利用できそうな各種の地上データも搭載されており、そのデータも活用可能です。先ほど例に出した「アメダス」や、産業構造や人口動態、人の流れなどの官民ビッグデータ「RESAS」、もうすぐTwitterでつぶやかれた内容・時間・位置情報を含むデータも搭載予定です。
──どんなユーザーが使っているのですか?
2019年12月時点でユーザー総数は約12,500名で、ユーザーの約65%は20~30代です。
全体の約30%が法人利用で、かつその半分は宇宙産業以外の業種で、観光、コンサルティング、ITなど多種多様です。衛星データを活用したプラント保守でコスト削減を図りたい大企業や、衛星データでまったく新しいビジネス創造を狙うスタートアップなどから問い合わせを受けたこともあります。
なお、ここまではTellusの一側面である、登録ユーザーが衛星データを扱うために必要な道具、「インターフェース」と「コンピューティング」についてのみ説明しました。下の図がTellusのコンセプトを示したものですが、実はほかにも役割があるのです。
──図の下部には、「オウンドメディア」「ラーニングイベント」「データコンテスト」と並んでいますね。
この3つはすべて、衛星データの存在を知ってビジネス活用につなげる人を増やすための認知向上の取り組みです。オウンドメディア「宙畑(そらばたけ)」の運営、衛星データ分析を学ぶトレーニングイベント、衛星データの分析能力を競うコンテストの企画・開催などを行っています。
「宙畑」はTellus事業部のメンバーや外部のライターが執筆しています。業界での注目情報を始め、衛星データ活用のアイデアなどを紹介しており、この分野に詳しくない方にも興味を持ってもらおうという取り組みです。
トレーニングイベントである「Tellus Satellite Boot Camp」では衛星のデータの基本原理や解析方法、Pythonを使った機械学習スキルなどを今年の1~2月に全国5カ所で行い165名、10~11月に東京・大阪の2カ所で80名が参加しました。コンテスト「Tellus Satellite Challenge」は11月末までに3回開催しており、テーマはそれぞれ「SAR衛星のデータを用いた土砂崩れ検知」「光学衛星のデータを用いた船舶検出」「SARデータを用いた海水領域の検知」で、各回数百名の応募がありました。
【次ページ】さくらインターネットが宇宙に目を向けた理由、「好奇心がすべてのビジネス」に飛び込むとき
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