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  • 2020/09/17

「7,873億円の赤字」ショックから10年、日立CHROに聞くV字回復につなげた組織構造改革

日本を代表する製造業の一角である日立製作所の内部が騒がしくなっている。7,873億円の赤字を計上してから10年余り。グローバルリーダーという大目標を掲げ、企業統合、事業の買収、売却、撤退など数え切れないほどの組織改革を実行してきた。ものづくり、工場の制御機器、ITという3つの強みを生かした鉄道事業は海外売上高比率が82%に上るグローバル事業の成功例となった。日本企業の活躍は喜ばしいことだが、日立社内で働く人々にとって、この動きは決して楽ではなさそうだ。日立の改革をリードする日立製作所代表執行役 執行役専務コーポレートコミュニケーション・オーディット責任者兼 CHROの中畑英信氏に、同社が取り組んできた組織改革への取り組みについて話を聞いた。

友永 慎哉

友永 慎哉

製造業向け基幹系システムの開発を経験後、企業ITの編集、ライター業に従事。ファイナンス、サプライチェーンなど企業経営の知識を軸にした執筆に強みを持つ。インダストリー4.0など新たな技術による製造業の世界的な変革や、Systems of Records(SoR)からSystems of Engagement(SoE)への移行、情報システムのクラウドシフトなどに注目する。GAFAなど巨大IT企業が金融、流通小売り、サービスといった既存の枠組みを塗り替えるなど、テクノロジーが主導する産業の変化について情報を収集・発信している。

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日立製作所代表執行役 執行役専務コーポレートコミュニケーション・オーディット責任者兼 CHROの中畑英信氏

事業構造改革で10年連続黒字に

 7,873億円の赤字を計上──日立製作所が発表した2008年度の決算に、当時日本経済全体が動揺した。リーマンショックの影響を受け、日本の製造業の終焉を示唆しているといった論調で語られていたことも、まだ記憶に新しい。

 それから10年あまりが過ぎ、振り返ってみると、日立の業績はいわゆるV字回復を果たしている。2010年度に2,388億円の純利益を計上して以降、2017年度の3,629億円の過去最高益を含めて、10年連続で黒字を確保した。

 業績回復はもちろん偶然ではなく、薄型テレビからの撤退、ハイブリッド車への対応など自動車機器事業の再建、ハードディスクドライブ事業の再建後の売却など、事業ポートフォリオの組み替えを含めたかなり激しい事業構造改革の成果だ。

 日立のこの10年に焦点を当て、事業構造改革を組織の面から実行した当事者、日立製作所代表執行役 執行役専務コーポレートコミュニケーション・オーディット責任者兼 CHROの中畑英信氏に、同社の事業構造改革と、それを支えた情報システムを活用する組織について話を聞いた。



グローバルリーダーという大目標

 「業績改善の注力分野を選定し、撤退、再建、再建後売却などを断行した」とこの10年を振り返る中畑氏。

 前述した取り組みのほかにも、2010年に日立情報システムズなど上場5社を完全子会社化、2013年に日立金属と日立電線の合併、2014年に三菱日立パワーシステムズ設立、2016年日立物流株式譲渡、2019年に英国原子力発電事業の凍結発表、ブレーキ事業のCBI社買収、そして2020年に入り、5月に日立ハイテクの完全子会社化、7月に日立ABBパワーグリッド社発足など、ほんの一部だけでも、これだけの統廃合を実施している。

 こうした取り組みを実施するにあたっては、方向性を決める戦略が必要となる。それが「社会イノベーション事業のグローバルリーダーになる」だという。前提となる経営環境の要因として、世界において水不足など社会課題が深刻化しており、その解決に大きな需要がある点、デジタル化、中国やインド、東南アジアが経済的に急成長していることという3つを挙げる。

 もともと、日立はこうした環境を勝ち抜くにあたり、かなり明確な自信を持っていたようだ。中畑氏はその根拠として、ものづくりを110年、工場の制御機器(OT)を110年も手掛けてきた歴史に加え、情報技術(IT)事業を60年にわたって続けてきた実績を挙げる。

 「GE、シーメンスなど世界のどの企業も、この条件は満たしていない。世界を見ても、ほかに類を見ない企業だ」と中畑氏は強調する。いま、それを裏付ける事例となっているのが、英国での鉄道事業である。

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「営業利益率は目標の8%を達成し、シーメンスやABBには肩を並べたものの、14~15%のIBMにはまだ及ばない。日立は戦略的転換点にいる」と話す中畑氏

27年半稼ぎ続ける鉄道事業

 中畑氏の話から、日立の強みを一文で表現すると、「グローバルで起きている社会課題を、ITを絡めた総合力で解決できるのは日立だけ」ということになる。確かに、英国での鉄道事業はそれを体現しているように見える。

 日立は、顧客となっている英国の鉄道運行会社に対して、866車両とIoTを活用した運航サービスを提供する。その契約期間は27年半という長期だ。

 英国において、鉄道の老朽化、遅延や事故の発生が問題になり、鉄道の信頼性や安全性を向上させるという社会課題が発生していた。これを解決するべく、IoTを活用し、遠隔による状態監視、異常なセンシングデータの分析による故障モード解析とそれに基づく高度なメンテナンスサービスを提供する。

 また、部品交換サイクルを延長することで、鉄道運行に必要な部品の在庫やサプライチェーンを最適化していく。かつては、車両や運行システムを単体で販売する、1回限りのビジネスだった。これを、27年半の車両リース、保守サービスという契約に切り替えた。

「27年半という長期契約を結ぶには、初期投資の負担はかかる。だが、その後の利益率は非常に高い」(中畑氏)

 30年近くにわたる安定的な収益源を確保するだけでなく、現地では随時新たな需要が発生することが考えられ、それを取り込むこともできる。

 日立の鉄道事業は既に、完全にグローバル仕様だ。鉄道ビジネスユニットのCEOは外国人であるアンドリュー・バー常務が務め、海外売上高比率は2011年の28%に対して2018年は82%に上昇。海外の従業員比率も2011年の7%から、2018年は75%になった。

 「国と法人を越えて1つの事業オペレーションとして機能している実例」だとする鉄道事業は、現在の日立の戦略を体現する。同じ目標に向け、国籍、性別、働く場所、時間を越えてワンチームでオペレーションするという同社組織のロールモデルとなっている。

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日立の鉄道事業は英国を中心にグローバル化に成功している。写真は精算チームの様子で適正にPPE(個人防護服)を着用していることをアピールしている
(出典:日立製作所)
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